12.【閑話】エド、ジュニア校に入学するその4
「冒険クラブって何?」
「入学式の後のオリエンテーションで、担任のジョナス先生が放課後に参加するクラブ活動があるって言ってたの覚えてる?」
「スポーツとかダンスクラブがあるってやつ?」
「あと園芸部も」
「そう、それ。冒険クラブは冒険するのが目的のクラブなんだ」
ウィリアムは熱く語る。
「でもさ、この学校、全寮制だよね。そりゃ確かに広いけど、どこで冒険するんだろう?」
「うん、すぐ冒険するところなくなりそう……」
そんなエドとイサークの疑問にウィリアムは得意げに「ふふん」と笑った。
「この学校、校内にダンジョンがあるんだ」
「えっ、そんなのあるの?」
「あ、僕、聞いたことある。本物のダンジョンじゃなくて、ダンジョンの機能があるでっかい魔法具なんだって。賢者様が作った訓練施設で出てくるモンスターも本物そっくりだけど本物じゃないらしいよ」
「すごい! どんな仕掛けなんだろう? 見てみたい!」
エドはわくわくした。
「ダンジョンに入れるのは上級生だけだけど、冒険クラブに入るとダンジョンに入れるらしいよ。それから顧問はダンネス先生」
「そうなんだ」
張り付き毒ミミズ事件の時に知り合った体育の先生ダンネス先生が顧問らしい。
「どうする? 入る?」
ウィリアムの誘いにエドは一も二もなく頷いた。
「うん、入る」
「僕も入る。面白そうだし」
とイサークも続いて言った。
「じゃあ、決まりだな!」
三人は冒険クラブに入部することに決めた。
***
「……というわけで僕達冒険クラブ希望なんだけど、マークとスコットも入らない?」
授業が終わった放課後、エドとマークとスコットは特待生の見回りに出かけた。
学校はかなり広く、エド達新入生に任されたのは、見回りの中でも一番簡単な校舎の周囲だ。
学校側も本気でエド達に警備をさせるつもりはなく、学校の構造に慣れるための見回りだとエドは推測している。
特待生は今年六人いて、イサーク達は別の組を組んで違う場所を見回っている。もう一人の特待生は女子らしい。
話を聞いて、マークは、「入ってもいい」と素っ気なく言った。
「やった!」
「それって危ないんじゃないの?」
とスコットは顔をしかめる。
「スコットは入らないの?」
「入らないなんて言ってないだろう!」
「じゃあ五人で入ろうよ」
「仕方ないなぁ、いいよ」
スコットはもったい付けて言った。
五人で冒険クラブに入部を希望することになった。
「冒険クラブって、確か入部テストがあるらしい」
マークがふと思い出したように言う。
「えっ、そうなんだ」
「どんなんだろう?」
「そこまでは知らないけど、毎年脱落者が出るくらい厳しいテストって聞いた」
思ったより本格的なクラブのようだ。
ふと、マークを見て、エドはさっきイサーク達と話したことを考えた。
「マーク、A組ってどう? 友達出来た?」
「授業以外はつまらない。それとあそこは友達を作るところじゃない」
マークは即答した。
「えっ、そうなの?」
「同じクラスなのに?」
エドだけではなく、スコットも驚いている。
マークは大人みたいな疲れたため息をつく。
「今、王国は次の王太子が誰になるかで揉めているんだ。第一王子、第二王子、第三王子、それそれの派閥がある」
第二王子は母カチュアのパーティーにいるベルンハルトである。
ベルンハルトが王子であるのは内緒なので、エドは慎重に問いかけた。
「ベル……第二王子様は王様になるつもりはないって聞いたけど」
「そう公言なさっているけど、あの人の支持者は多い。病弱で長くご静養してたけど、今は健康になってここ数年は精力的に活動なさっている。西の国境で争いがあったんだけど、第二王子殿下が自ら行かれて根気よく西の国と話し合い、解決したんだ」
「へー」
実はすごい人なんだ、とエドは感心した。
「東の国境地帯の紛争を任されたのは、第三王子というか、第三王子の生母の王妃傘下の貴族なんだけど、未だにそっちは揉めている」
「うん……」
エドは暗い気持ちで頷いた。
東の国境というのが、エドの父アランが派兵された場所だ。
そこで父は国境警備の任についていると言われてる。離ればなれに暮らすようになって既に一年以上が経ってしまった。
「そんなに優秀な王子がいるならその人にやらせればいいんじゃない?」
スコットが不思議そうに口を挟んできた。
「国王陛下がやらせない」
マークの答えにスコットが唇を尖らせる。
「なんで? そっちの方がいいだろう?」
「陛下は三人の王子の誰にも加担していない。加担したら最後、その人が王太子になるからだ。陛下は今は事態を静観しておられるって父が言っていた。おそらく王子殿下達の力量を測るおつもりだって」
「ふうん」
「第二王子殿下は第一王子殿下を支持しているから多分第一王子殿下が王太子になるだろうって言われている。でもまだ分からない」
「ふうん」
貴族達も三王子の誰を支持するかで色々と対立しているらしい。
煽りを食って貴族の子弟であるA組の生徒達も違う派閥の子供とは仲良くしがたいムードらしい。
「それに……」
「まだあるの?」
「ロアアカデミーの学長選挙があるんだって。それでアカデミーの教授連も意見が対立している。そっちもそっちで仲悪い」
「うわー、A組雰囲気最悪」
スコットが思わず呻いた。
翌日、皆揃ってダンネス先生の元に行き、冒険クラブの入部のお願いをした。
実はメンバーは一人増えて、六人だ。
イサーク達と一緒に見回りをしていたもう一人の特待生、セレネ・ブランカが話を聞いて一緒に入部したいと言い出したのだ。
セレネはD組の生徒だ。
ダンネス先生は新入生六人を見て、ニヤリと笑った。
「俺のしごきはきついぞ。まずは入団テストだ」
***
冒険クラブの入団テストは、徒競走、幅跳び、片足立ちなどの授業でやるような基本的な運動テスト、それと剣術だった。
運動は「おー、皆合格だ」と皆早々に合格した。
続いて、剣術。
模擬刀で木偶人形に向かって剣術の型を打ち込むテストだ。
前の学校ではエドの剣術の腕前は並み程度。もっと才能がある生徒が大勢いたので、自分では得意だと思ったことはなかったが、今の学校は模擬剣を握るのもはじめてな子ばかりだ。
エドはウィリアムと並び、皆の中ではかなり上手く出来た。
セレネは今回はじめて剣を握るそうだ。
「えい!」とおぼつかない手つきで剣を振り下ろす。
それでも「よーし、合格だ」と合格を決めたので、「このテスト、ぜんぜん余裕」と皆はちょっと甘く見た。
その時。
「よーし、次のテストをするぞ」
そう言ってダンネス先生が取り出したものを見て、スコットが悲鳴を上げる。
「うわわわっ、出た!」
串に刺さった張り付き毒ミミズだ。
ピクリとも動かないので死んでいるようだ。
「今焼くぞー」
先生は焚き火の準備をしている!
「えっ、焼くの?」
「焼いてどうするんですか?」
嫌な予感しかしない。
あんまり聞きたくないが、エドが質問すると、ダンネス先生の答えは、
「決まってるだろう? 食うんだよ」
……だった。
「ええええっーー!」
皆は悲鳴をあげた。







