07.ポイントを集めて素敵なグッズをもらおう
カチュア達が火モグラの屁を手に入れ、ドワーフの里に戻った丁度その頃、百鉱の洞窟に向かったアンも帰還した。
「カチュア! 皆、無事だったのね」
アンはそう言って皆に駆け寄り、カチュアをぎゅっと抱き締めた。
カチュアはアンの様子に驚いた。
「えっ? アンこそ大丈夫なの!?」
火モグラに追いかけ回されたオーグ達も疲れているが、アンはその比ではない。服はボロボロで、傷だらけの上、髪は乱れ、汗にまみれている。
しかも別れてから数時間しか経ってないのに、ちょっと痩せているではないか。
百鉱の洞窟にはモンスターはいないと聞いていたが、激しい戦闘でもあったのだろうか?
カチュアは周りを見回したが、アンと一緒に行ったはずのネオロの姿がない。
「あの、ネオロさんは?」
アンは怒りをたぎらせ燃えるような目で言い放った。
「逃げたわ。アイツはアタシ達を罠にはめたのよ」
「え? 罠にはめた?」
「こうしちゃいられないわ。ベルンハルトとローラが危ない! なんとかして八十八階に助けに行かないと!」
アンの言葉にリックとオーグがどよめく。
「ローラとベルンハルトさんが?」
突如、里の入り口側の原っぱが光る。
キュイイーンという聞き慣れない奇妙な音とともに、地面に描かれた魔法陣が青く輝く。
魔法陣の中から現れたのは、ベルンハルトとローラだ。
転移魔法の巻物を使い、帰ってきたのだ。
「ベルンハルト、ローラ、無事だったのね!」
「何があったんだ、アン!?」
「アンさん!」
ベルンハルトもローラも驚いている。
ローラはアンに回復魔法の『ヒール』を唱えかけたが、リック達も疲労してる。
「エリアヒール!」
直前に魔法を広範囲ヒールに変更した。
皆の体力が回復した!
すんでのところでチームがネオロの罠で全滅しかけたなどとはまったく知らないカチュアがアンに尋ねる。
「ところで何があったの?」
「色々あったのよ、一言では言えないわ。まずはネオロの家に行きましょう。もしかしたらアイツが戻っているかもしれない」
アンの一言で一同はネオロの家に向かう。
勝手にネオロの家のドアをぶち破り家に押し入るが、中は誰もいない。
「ここには戻ってないのかしら?」
「あの、一体何があったんですか?」
リックがアンに質問した。
「それは……」
アンが答える前に、ボアドが陰鬱な声で言う。
「ネオロがその姉ちゃんの槍欲しさにあんたらを罠にはめたんだろう」
「えっ?」
アン以外の者は驚いてボアドを見つめた。
「そうよ」
というアンの答えに、ボアドはため息をついた。
「やっぱりな」
「そんな、ネオロさんがまさか……」
クルトは信じられない様子で驚いている。
「でも確かに俺達はあのタイミングで新たなる力に目覚めないと、皆、危なかった」
とオーグが指摘する。
「うん、カチュアさんが来てくれなかったらどうなっていたか」
リックも同意見だ。
「それだけじゃないわ。ネオロは八十八階の湖にモンスターの力を増幅するというエキスを湖に撒いておいたって言ってたわ」
ベルンハルトはそれを聞いて納得したように頷いた。
「なるほど、そうだったのか。いくらこちらに不利な水中戦とはいえ八十八階のモンスターにしては手強いと思っていた」
「クルト、お前だって火モグラのこと、本当はおかしいと思っていたんじゃないか?」
ボアドの言葉に、クルトはぐっと声を詰まらせた。
「そ、それは、俺だってちょっとおかしいとは思ったよ。だけど、ネオロがああ言うんだから俺の勘違いだろうって……」
「馬鹿野郎! だからお前は駄目なんだ! もっと自分に自信を持て。何でも人に聞くんじゃねぇ」
ボアドはクルトを怒鳴りつけた。
言葉遣いはあれだが、ボアドはクルトのピンチに真っ先に駆けつけた。
それとクルトの人の話を鵜呑みにしてしまうところを注意したかったようだ。
「偏屈って聞いたけど、ボアドさんは意外といい人ね」
とカチュアはボアドを褒めた。
それを聞いてボアドは鼻を鳴らす。
「ふん、偏屈は余計だ」
その後、ボアドはじっとアンのことを見つめた。
正確に言うと、視線の先にあるのはその背に背負った槍だ。
「あんたの武器はヒロイカネやオリハルコンに匹敵する最高級の鉱石アストラルストーンだな」
「そうよ」
「ドワーフにとっては垂涎の的、一度でいいから使ってみたい素材だ。特に一級に昇格したくて焦っていたネオロはそいつを是か非でも手に入れたかったんだろうな」
ボアドはため息をつく。
「ネオロはアンタに負けたくなかったみたいなこと言ってたわ」
とアンはボアドに言う。
「馬鹿な奴だ。俺達はここまで互いに切磋琢磨してやってきたじゃないか」
ボアドは寂しげに呟いた。
そして改まった様子でガンマチームに頭を下げた。
「すまなかった。里の仲間の不始末だ。お詫びと言っては何だが、あんたらが集めた材料を俺に預けちゃくれないか。新月の指輪は俺が作る。クルト、手伝ってくれるな?」
「あ、ああ、そりゃもちろんだ。あんたらは命の恩人だしな」
クルトも大きく頷く。
「そりゃありがたい」
***
深夜にも関わらず、ボアドとクルトは工房で『新月の指輪』の制作を始めた。
一方ガンマチームは、カチュアが作ったバーベキューを食べて、腹ごしらえした後、何か手がかりがないかとネオロの家を家捜しした。
家には彼の日記が残されており、一年ほど前からネオロは一級鍛冶師になれない焦りと不安を募らせていたようだ。
クルト曰く、二級までは「ドワーフなら努力すれば誰でも到達する」ものらしいが、一級に昇級するのはそんなドワーフ達を持ってしても非常に難しいらしい。
里での修行が十年を超える者も珍しくないそうなのだから、二級になって一年半ほどのネオロが昇級出来ないのは当たり前なのだが、それまでトントン拍子に昇級を重ね、天才扱いされていたネオロにとって現状は我慢ならないものだったようだ。
淡々と修行するボアドが着実に腕を上げているのをネオロは脅威に感じ、ついに誘い蛇ヴォラスィティの誘いに乗ってしまったらしい。
「ネオロはおそらくダークドワーフとなって、ヴォラスィティの信徒にかくまわれているだろう」
とベルンハルトは推測した。
「ダークドワーフって、例のベルンハルトさん達を襲った『魂狩りの鎌』を作ったっていう……」
「ああ、そうだ」
「なんだかとんでもないことになったわね……」
ドワーフ族は鉱石の心が分かるといったドワーフならではの特殊な技能を持っている。
そのため、心のありようによっては扱えない素材が出てくる。
暗黒に堕ちたネオロはもう光に属する鉱石には触れることも出来ない。
代わりに暗黒の素材には強い適性を持ち、恐るべき邪悪な道具を作り上げることが出来るのだ。
「地上に生きる者の敵は、悪魔だけではない。そこには彼らに利する人間や亜人も含まれるんだ」
ベルンハルトは憂鬱な声で言った。
「難しいことは後よ、後。それよりカチュア、モンスターポイント貯まったんでしょう?」
アンはカチュアに聞いた。
そもそもチームミッションその1の達成ボーナスの目玉は、
『ミッションをクリアするとモンスターポイントが1000ポイントプレゼントされます。この機会にたくさんポイントを集めちゃおう!』である。
「あ、そうね。貯まっていると思うー」
今までのカチュアが貯めたポイントは212。
それが今回のミッションクリアでなんと一気に1000ポイントも貯まったのである。
カチュアはいそいそとおしゃれながま口からモンスターポイントカードを取り出した。
「どれどれ」
カードをのぞき込むと、ピコーンとステイタスボードが開いてメッセージが表示される。
『モンスターポイント300ポイント達成! おめでとうございます!
記念に飴(モンスター味)を300個プレゼント!』
その瞬間、カチュアの頭上に巾着袋が落ちてきた。
「おっと」
カチュアにぶつかる寸前、リックの盗賊スキル『エマージェンシー』が発動してキャッチしてくれた。
中身はもちろん、飴三百個。
「ありがとう、リック君」
300ポイント達成記念は飴、補充だったようだ。よく使うので意外とありがたいプレゼントだ。
『モンスターポイント400ポイント達成! おめでとうございます!
記念に煮込み料理に最適。便利なお鍋をプレゼント!』
『モンスターポイント500ポイント達成! おめでとうございます!
記念に焦げ付き防止加工を施したフライパンをプレゼント!』
『モンスターポイント600ポイント達成! おめでとうございます!
記念にキッチン用スポンジ&洗剤一年分をプレゼント!』
と続けざまに、鍋、フライパン、洗剤とスポンジのセットがドサドサと落ちてくる。
「うわっと」
間一髪、オーグとリックがプレゼントの品々を受け止めてくれた。
400と500と600ポイント達成記念はキッチングッズだったようだ。
「あら、嬉しい」
ちょうど欲しいなーと思っていたものばかりである。
『モンスターポイント700ポイント達成! おめでとうございます!
マジックバック機能付きで収納力抜群! 使わない時はコンパクトに折りたためます。キュートな花柄のエコバックをプレゼント!』
次はペラッとした大きめの袋だった。
エコバックというものらしい。
「えっ、マジックバック機能付きってすごいんじゃあ……」
「うん」
ちょっとダサ目のチューリップ柄なのに、高性能!
早速カチュアは今までもらったプレゼントをエコバックに詰め込んだ。
もらったはいいがどうやって持ち帰ろうとちょっと困っていたが、エコバックに大きな鍋もフライパンも洗剤とスポンジ一年分も全て収まった。
「便利ー」
『モンスターポイント800ポイント達成! おめでとうございます!
転移魔法の座標石、つながり石をプレゼント!』
メッセージと共に、カチュアの頭上に握りこぶしくらいのオレンジ色の石が落ちてきた。
危ない!
今回もリックがいてくれて助かった。
つながり石は転移魔法の座標位置に使うものだ。複数あれば複数箇所を転移魔法先として指定出来る。
中級以上の冒険者のマストアイテムだが、買うと結構お高い。
「これも便利ー」
『モンスターポイント900ポイント達成! おめでとうございます!
朝に弱い人には必須! お目覚めガム 100個をプレゼント!』
新アイテム、お目覚めガムである。
何の変哲もないガムに見えるが、朝に弱い人には使えるアイテムらしい。
『モンスターポイント1000ポイント達成! おめでとうございます!
子供達に大人気! スライムぬりえをプレゼント!』
今度は画用紙帳みたいなものが落ちてきた。
「あっ、スライムぬりえだわ!」
カチュアは歓声を上げるが、チームの皆の反応は薄い。
「なにそれ」
「知らないな」
「知らないの? 今子供達の間で大人気のモンスター達のぬりえよ。うちの子も欲しがってたのよー」
スライムシリーズ第二弾の売り切れ続出商品である。
カチュアの娘のバーバラが欲しがっていたが、どこに行っても完売入荷未定で困っていたところだったのだ。
思わぬところでゲット出来た。
バーバラも大喜びするだろう。
「女神様ありがとうございます」
カチュアは神に感謝した。







