06.新たなる力に目覚めますか?
すべてはネオロが仕組んだ罠だった!
「……このことを皆に伝えないと」
洞窟にとり残されたアンは力を振り絞り、立ち上がった。
しかし両手両足に百キロの加重が掛かる重力の鎖をはめられ、筋肉が悲鳴を上げる。
それでもアンは重たい体を無理に動かし、出口に向かおうとしたのだが、ネオロが置いていた袋の中から猛毒を持つヘルガラガラ蛇が這い出て、行く手を阻む。
「……!」
アンが周りを見回し、うち捨てられていたたいまつを拾い上げるのと、
「シャー!」
ヘルガラガラ蛇がアン目がけ飛びかかるのはほとんど同時だった。
アンはたいまつを振り回して、蛇を吹っ飛ばす。
だが、重力の鎖のせいで、アンはいつものパワーが出せない。
ヘルガラガラ蛇はさほどダメージを受けた様子もなく着地すると、鎌首を持ち上げ、またもアンに襲いかかる!
「シャーッ」
「くっ……」
執拗に攻撃を繰り返す蛇に対し、たいまつでなんとか応戦するアンだが、両手両足に掛かる計四百キロもの重りは容赦なくアンの体力を削っていく。
心臓は割れそうなくらい早く鼓動し、汗が滝のようにしたたり落ちる。
アンはもう限界だ。
ヘルガラガラ蛇はチロチロと赤い舌を出し、アンの力が尽きるのを今か今かと待ちかねている。
その時――。
窮地のアンの目の前に突如、ステータスボードが現れた。
『おめでとうございます! ミッション「三キロ痩せる」を達成しました!』
「はっ? ミッション? 今?」
命がけの超重量負荷運動のせいで、アンの体重は200グラム減少した。
アンのミッション、『三キロ痩せる』がついに達成された。
『チームミッション達成ボーナスを獲得しました。新たなる力に目覚めますか?』
アン以外のメンバーは皆、ミッションを達成済みだ。
アンが自分のミッションを達成した瞬間、チームミッションも達成された。
アン以外のメンバー、ベルンハルト、ローラ、リック、オーグ、そしてカチュア。
それぞれピンチに陥るガンマチーム全員の目の前に同じメッセージが現れた!
六人は声を揃えて叫んだ。
「はい!」
***
アンの槍を奪い、意気揚々と百鉱の洞窟の出口に向かうネオロだったが、ふいに握りしめた槍が熱を持つ。
「なっ、なんだ?」
槍は焼け付くような熱さとなり、ネオロはたまらず槍を投げ捨てた。
槍はネオロの手から離れた瞬間、洞窟の奥へ飛んで行く。
アンのいる方角だ。
槍は猛スピードでアンの元に飛んだ。
アンの元にたどり着いた槍は彼女の手首に巻き付いた重力の鎖を穿ち、破壊する。
アンは槍を握りしめ、足に絡みつく鎖も断ち切った。
「よくもやってくれたわね!」
枷を外し愛用の武器を装備したアンがヘルガラガラ蛇に負けるはずがない。
槍を振るい、蛇を一撃で真っ二つにした。
アンが手に入れた新たなる力は槍スキル『ホーリーランス』。
通常攻撃能力が四分の一になる代わりに、邪悪なものに対しての効果が三倍となる。
重力の鎖はネオロが邪悪な力を借りて作ったものだった。
さらに邪悪なる者が槍を手にした時、聖なる炎を発し、持ち主の元に戻る効果だ。
「ふうっ」
ヘルガラガラ蛇を撃破したアンは汗を拭う。
辛くも危機を脱したアンだが、八十八階に行ったベルンハルト達、近くの林に向かったリック達、どちらもネオロの罠にはめられた。
すぐに助けないといけない!
「とりあえずカチュアと合流しましょう」
アンは出口に向かって駆け出した。
ダンジョン八十八階――。
ベルンハルトの体の奥底から未知なる力が湧き出てくる。
(水の動きが、読める……)
魚が水中で自由自在に泳ぎ回るように、ベルンハルトの体も水に馴染み、抵抗を滑らかに受け流す。
ベルンハルトが目覚めた力は格闘スキル『海神の構え』。
水中でも地上同様に戦える拳闘術だ。
(これなら、やれる)
ベルンハルトはぐっと拳を握り込んだ。
暗闇大鎧魚はベルンハルトの変化に気付いたようだ。
一瞬、戦闘をためらう素振りを見せたが、ベルンハルトは暗闇大鎧魚の攻撃を受け続け、血まみれになっている。
獰猛な肉食の暗闇大鎧魚は血の匂いに本能をあおられた。
ベルンハルトの肉を食らおうと、攻撃を仕掛けてくる。
その時、ベルンハルトの全身を柔らかな光が包み込む。
ローラが放った祈りの力だ。
ローラが目覚めた力は回復スキル『リストレーションアロー』。
癒やしの効果に加え、筋力、防御力などの各種ステータスアップの支援効果が対象に届く遠距離用回復魔法だ。
今までの戦闘で極限まで体力を削られていたベルンハルトには最高のサポートだった。
ベルンハルトは完全に回復し、支援効果も得た!
これで完璧だ。
暗闇大鎧魚は水を切り裂くような勢いでベルンハルトに迫るが、その動きは見切っている。
「むんっ」
ベルンハルトは気合いもろとも、暗闇大鎧魚に向かって渾身の一撃を叩き込む。
ベルンハルト、暗闇大鎧魚を撃破。
暗闇大鎧魚の鱗を手に入れた!
その頃、ドワーフの里近くの林では――。
オーグ、リック、クルトが火モグラ達から逃げ回っていた。
「おおうっ」
既にヘトヘトになっていたクルトが足をもつれさせ、転んでしまう。
火モグラの集団はクルトに狙いを定めて、大きく息を吸い、火の息を吐き出そうとする。
「クルトさん!」
その瞬間、異変に気付いたリックが駆けた。
リックは自分より重い小太りのクルトを軽々抱え上げ、走る。
リックとクルトは間一髪、火モグラの火炎攻撃から逃げられた!
リックが目覚めた力は盗賊スキル『エマージェンシー』。
緊急事態にスピードとパワーが通常の倍にアップするスキルだ。ただし、『エマージェンシー』のスキル名通り、緊急時にしか発動しない。
運良く黒焦げにならずに済んだが、もうクルトは歩けそうにない。そんなクルトを抱えたままではリックも逃げるのが精一杯だ。
「このままだとマズい、オーグ、一時、撤退するか?」
オーグはリックの言葉に頷かなかった。
「リックはクルトさんを安全なところに。俺はもうちょっとやってみる」
暗闇大鎧魚の鱗と新月石が手に入っても火モグラの屁がなければ、せっかくの素材が無駄になりかねない。
「危険だぞ」
三人だから火モグラの攻撃も分散したのだ。
リックとクルトがいなければ、火モグラの攻撃がすべてオーグに集中してしまう。
「俺に作戦があるんだ。今のリックの力、さっきのミッションボーナスで得た力だろう?」
「よく分からないが、そうみたいだ」
「俺も新たな力を手に入れた。その力を試してみる」
「おーい、クルト、無事か?」
「リックくーん、オーグくーん」
遠くから三人を呼ぶ声がする。
「えっ、ボアド?」
「カチュアさん?」
なんとボアドとカチュアがこちらに駆け寄ってくる。
リックは大声でカチュア達に怒鳴った。
「危ないです。こっちに来ないで! 逃げてください」
火モグラは執拗にリック達を追いかけている最中だ。
すぐ後ろまでモグラの集団が迫っている。
だがカチュアがお玉とおなべの蓋を握りしめ、大声で返事をする。
「大丈夫ー! 私、新たなる力に目覚めたのー。出来れば火モグラの足止めしてほしいんだけど出来る?」
「足止めですね! それなら……」
オーグは振り返り、火モグラに向かって吠えた。
オーグが目覚めた力は狼スキル『威圧の遠吠え』。
対象を威圧し、一時的にひるませたり、弱体化させる力だ。
オーグより強いモンスターには効果は薄いが、オーグより弱い火モグラ達には抜群の効果だった。
「キ、キィ……」
火モグラの集団は、弱々しく声を上げて、止まる。
「オーグ君、ありがとう! さあ、行くわよ」
カチュアは身をすくませる火モグラの群れに向かって高々とおなべの蓋を掲げた。
「水流アタックー」
かけ声とともに、おなべの蓋から水が勢いよく噴射される。
火モグラは弱点の水を浴びてすっかり大人しくなった。
カチュアが目覚めたのは、主婦スキル『水アタック』。
この技を繰り出せば、おなべの蓋からいつでもおいしいお水が湧き出てくるのだ!
リックとオーグは一匹だけ水を浴びずに残った火モグラを捕まえた。
仲間が水浸しにあったせいか、凶暴どころかちょっと震えている。楽々捕まえられた。
腹を撫でると火モグラは「ぶーっ」とおならをし、おならは無事に袋に入れられた。
火モグラの屁を手に入れた!
これで三つのアイテムが無事に揃った!







