11.消えた宝物
続きはカチュアの家で話すことが決まった。
ダンジョンを出る前に、カチュア達は「ちょっと寄り道」と女神像に立ち寄った。
カチュア達の日課だが、意外にもベルンハルトがついてくる。
お祈りを捧げると、体力魔力が回復し、心なしか体もちょっとさっぱりする。
「…………」
カチュアがチラリと見ると、ベルンハルトは真剣な表情でお祈りしていた。
ダンジョンを出て、今日の探索で得たアイテムを売ったり、チームで使えそうなものは取って置いたり、使った備品を買い足すなどの後処理をする組と、夕食の買い出し組に分かれる。
カチュアはアンとベルンハルトと一緒に買い出し組だ。
ダンジョン帰りで疲れたし、時間も押しているので、夕食はお惣菜を買うことにする。
ガンマチームとベルンハルト、そしてカチュア一家。
大人数なので、市場に行ってピザの一番大きいのを三枚とバーベキューソース味のポークリブ、こっちも大きいサイズ。
栄養バランスを考えて、生野菜のサラダにマカロニサラダ、温野菜サラダとサラダは三種類。
そして道具屋カードを提示すると、サービスしてもらえるフライドポテトが人数分。
お会計はベルンハルトが出した。
「えっ、いいの? 今日はベルンハルトさんの歓迎会よ?」
ベルンハルト抜きの割り勘のつもりでいたカチュアだったが、まさか歓迎される方がお金を出すとは。
「僕も食べるし、このくらいは負担させてほしい」
さらに「僕が持とう」と荷物も持ってくれた。
カチュア達は冒険者ギルド保育園にバーバラを迎えに行き、家に戻った頃にちょうど別働隊もカチュア宅にやって来た。
バーバラはベルンハルトを見て、「あ゛ー、ベルさんだー!」と奇声を発するレベルで大喜びした。
でっかい人好きな子供っているよねー。
学校から帰ってきたエドも加わり、「じゃあ食べましょう」と皆で楽しく食事をし、エドとバーバラがお風呂に入り就寝した後、カチュア宅のダイニングルームで、話し合いが始まった。
***
「これは我が国にとって非常に重要な話だ。他言はしないで欲しい。まず最初にそれを誓ってくれ」
ベルンハルトは話の前にそう言った。
対するガンマチームは。
アンにはニヤリと笑った。
「いいわよ。アタシらもアンタに言っとくことがあるんだけど、絶対誰にも話さないって誓ってほしいのよ。いい?」
「? 分かった」
交換条件、成立である。
それからベルンハルトは、深刻そうな表情で話し出した。
「王宮の宝物庫からあるものが消えた。僕はそれを探しに来たんだ」
「あるものって何ですか?」
「聖剣だ」
王冠や宝珠、王笏など、この国に王家が所有する国宝と呼ばれるものはいくつもあって、もちろん本物は見たことがいないが、一般庶民でも知っているくらい有名だ。
しかし聖剣は。
「聖剣なんてあったかな?」とお宝マニアのリックが知らないくらいは知名度が低い。
ベルンハルトはおもむろに言った。
「王家が守る宝物の中でも、最も重要な秘宝だ。それ故にその存在も一般には秘匿されている。聖剣は我が国の初代女王達が神より授かり、この国を鎮護するものと語り継がれている」
「えっ、それってスゴくないですか?」
月の女神は弱き人族を哀れみ、特別な力を与え、狼獣人という種族が生まれた。
この世界では神と人の距離はとても近いが、それでもやっぱり途方もない力を持つ高次の存在だ。
神が人に接触することはほとんどない。
だがこの国の初代の女王とその仲間はそんな神より聖剣を賜ったのだという。
一言で言うと、スゴイ。
「その、聖剣が紛失した」
「って大問題ですよね」
そういえば、ちょっと前にジェシカが、王宮で重要な何かが紛失したとそんな話をちらっとしていたが……。
「ああ、ゆゆしき事態だ。すぐに聖剣を見つけなければならない」
ベルンハルトは深刻そうに言うが、
「それで犯人の手がかりは?」
とリックが聞くと困ったような顔になる。
「犯人は……」
とベルンハルトは何故か口ごもる。
「見つかってないんですか?」
「……そうだ」
「王宮の宝物庫ですよね。よく知りませんが、警備は厳重そうに思えるんですが、盗まれたんですか?」
「盗まれてはない」
「は? どういうことです?」
「言葉通りだ。聖剣は宝物庫から紛失したのだ」
「えっ、それって盗まれたっていうのとどう違うの……?」
ベルンハルトは「はーっ」と憂鬱そうにため息をついた。
「僕は、その時王都にいなかった。全ては後から人に聞いてた話と『あった』ことだ。だから僕にもこの事件の全容は分かっていない。はっきりしているのは、兄王子のギャリットが今、父王から謹慎を申し渡されている」
「じゃあ、犯人は……その第一王子のギャリット様?」
ベルンハルトは急いで否定する。
「兄上はそんなことをなさる方ではない。清廉潔白で、曲がったことが大嫌いな方だ。そもそも王位はあの方が継ぐことになるだろう。聖剣はいずれ兄上のものとなる。兄上には聖剣を盗む理由がない。『何か』があったのだ」
「『何か』って、なんですか?」
リックの問いかけにベルンハルトは力なく首を横に振る。
「それは分からない。詳しく聞きたくとも兄上は謹慎中で僕はお会いすることは出来なかった」
「えっと、じゃあ犯人は第一王子様じゃなく、別の人?」
「おそらくは」
「じゃあ、犯人は第三王子様?」
狼獣人のことと言い、第三王子が怪しく感じられるが……。
ベルンハルトは苦笑した。
「弟のセレンディップを疑うのは分かるが、この件に関しては無実だ。父、兄、僕、すなわち国王、王位継承権第一位と二位の三人のみが王家の鍵を持つ。セレンディップは第三王子であるため、鍵を持たず、またようやく成人したばかりの彼は、聖剣の存在も知らないはずだ」
国の宰相や侍従長といった人々もこの宝物庫の鍵は持っているが、宝物庫のさらに奥にある聖剣が祀られていた扉の鍵は王家の人間しか持たないのだという。
「謹慎の理由は、王様は教えてくれなかったんですか?」
「ああ。どんな事情があるのかは分からないが、宝物庫から聖剣がなくなったことに兄上が関係しておられる。この件が表沙汰になると、兄上のお立場がない。特に弟に知られるととても面倒なことになる。君達も知っての通り、彼は王位を狙っているからね。それ故陛下は、僕に極秘裏に聖剣の捜索を命じたのだと思う」
聖剣探索のため、ベルンハルトは単身でここに来ている。
第二王子である彼は、側近もいるのだが、彼らはベルンハルトの影武者を立てて政務に励んでいるそうだ。
「そして聖剣はおそらく、自分の意思で姿を消した。今、聖剣はロアダンジョンのどこかにあるはずだ」







