21.魔法の本再び
それからさらに数日後、カチュア達ガンマチームは冒険者ギルドの図書室にいた。
指名クエストを引き受けたお礼にクエスト課の課長権限で、図書館の入室が許可されたのだ。
カチュア達の目的は、最上級ポーション大全(下巻)を読み、最上級状態異常解除ポーションの残りのレシピを教えてもらうこと。
チームメンバーの他に魔法の本とまた会う約束をしているカチュアの息子のエドも一緒だった。
カチュア達は最上級ポーション大全(下巻)を開くが、その前に。
「エド、ママ、今度こそ絶対起きてるつもりだけど、もし寝てたら起こしてね」
カチュアはそうエドに頼んだ。
「うん、分かったよ」
自分は寝ててもアンは起きていると安心していたら、頼みのアンは最初から寝ていた。
「今度こそ寝ないわよ!」と決意を新たにするカチュアだった。
『来たか』
本のページを開くと、また文字が浮かび上がってくる。
「はい、教えてもらったレシピの材料は『どんぐり杯』以外揃いました」
とオーグは本に言った。
『そうか。では最後のレシピを教えよう。五十三階のマンドラゴラの根と、六十一階の聖者の灰だ』
「えっ」
エド以外の全員が意表をつかれた。
てっきりまた講義(長い)から入るのだと身構えていたが、こんなに早く教えてくれるなんて……?
続けて本に文字が記されていく。
『お前達は獣人族の獣化を呪いのように感じているだろうが、獣化は神の祝福である。弱き人族を哀れみ、神々は生きるための力を与えた』
本のページにはさらに綴られる。
『ことに月の女神が与えた狼の能力は、最強の力の一つだ。ルナティックは強すぎる力の代償。その力の本質ではない』
「神様は人族が生きるために獣の力をあげた」
エドは自分なりに話を整理する。
『うむ』
「月の女神様は人間を襲って人狼にしてしまう狼の獣人の人のことを、怒ってるのかな?せっかく力を授けたのに、良くないことに使うなんて」
エドはそう、本に尋ねた。
本の答えは。
『哀れんでいる』
「哀れんでいる……」
オーグはその言葉を、かみしめるように呟いた。
『獣人化を解く方法は、最上級状態異常解除ポーションの服用以外にもう一つ、方法がある』
「えっ」
カチュアは驚いて声を上げた。
「そんな方法があるの?」
カチュアはつい食い気味に聞いてしまった。
『獣人化の原因である獣人を倒し、その牙を折ることだ。そうすれば、その獣人に噛まれた全ての人狼が人に戻る。だが――』
「だが?」
『代償として獣人を倒した人狼は、二度と人に戻ることはない』
「…………」
思いかげない人狼化解除の方法に、カチュア達は息を呑む。
「つまり」
リックはちらっとオーグの様子をうかがった後、本に尋ねた。
「それは元凶になった獣人を倒すことが出来たら、皆は元に戻れるけど、倒した人狼は、二度と人間に戻ることが出来ないってことですか?」
『その通りだ』
「あの、獣人さんを倒せるのは、人狼さんだけ?人間は獣人の人をやっつけることは出来ないの?」
とエドが魔法の本に聞く。
『そうではない。人狼以外が獣人を倒す例は稀ではあるが存在する。最も有名なものは、ランドール・ル・カッセルの狼退治だ。これは圧政を敷いた狼の獣人王クルフの……』
……とやはり本の話は長かった。
***
「…………」
魔法の本の話を聞いてオーグは考え込んだ様子だ。
図書室を出た後、一同は近所の料理屋で昼食を取ることにしたが、あまり食が進んでない。
この料理屋のおかみさんとカチュアは、子供が同じ保育園に通うママ友である。そのご縁で空いていれば個室を使わせてくれるのだ。
今日も料理屋のおかみさんはガンマチームに個室を用意してくれた。
オーグは包帯で全身をぐるぐる巻きにしているので、時折他の冒険者からからかわれてしまうことがある。
そういう柄の良くない冒険者と会わなくてすむので、とてもありがたい。
ランチは日替わりで、パスタ、具だくさんスープ、肉のグリルからそれぞれ一種類だけだが、どれも美味しい。
カチュアとエドは悩んだ末にシチューとミートボールパスタにした。
「ねえ、オーグさん、聞いていい?」
食事の最中、ふと、エドはオーグに尋ねた。
「何かな?」
「オーグさんはオーグさん達を噛んだ獣人さんがどこにいるのか、知ってるの?」
オーグは少し考えた後、頭を振る。
「分からないんだ。俺達を噛んだ後、気づいたら獣人はいなくなっていて、俺達も行方を追える状況じゃなかったから……」
「じゃあ、今すぐ考えることはないわ」
それを聞いたアンが言った。
「魔法の本も書いてたけど、狼の獣人はとても強いわ。特にルナティックに狂うほどの狼の獣人は獣人族の中でも最強種のひとつよ」
カチュアはそれを聞いて、「そんなに強いんだ」と感心する。
「はっきり言って後天的に獣人化したアンタ達人狼では敵わないくらい。万が一会えたとしても、絶対に戦っちゃ駄目よ」
人間が狼の獣人を倒した例がほとんどないのは、彼らがあまりにも強いからだ。
そして生まれながらに高い能力を持つ獣人族と、後天的に力を得た人狼ではやはり獣人に一日の長がある。
この大陸には古い言い伝えがある。
『狼を倒せるのは狼だけ』。
少しでも狼の獣人を倒せる可能性があるのは、同じ種族の狼の獣人か、人狼だけなのだ。
「ともかく、アンタは最上級状態異常解除ポーションの材料を探しなさい。それを探すうちに、強くなれる。狼の獣人に会うより先に、人間に戻れるかもしれないよ」
アンの話を聞いて、オーグはホッとしたようだ。
モンスターは倒せても、試合以外で人間を傷つけるのは心優しいオーグにはちょっと荷が重い。
「そうですね。俺、とにかく強くならないと」
明るい声でそう言うと、シチューを食べ始めた。
「皆で頑張りましょう」
「順調に材料は揃いつつあるし」
「うん」
「皆、頑張ってね」
エドの声援を受け、ガンマチームはダンジョン探索を続ける!





