11.ポーションの材料探しその3
早速カチュアは次に皆に会った時、グレイスから聞いた話を披露した。
「ドワーフはダンジョンにいるんですか!」
「じゃあ、ドワーフに会うためにはその道具屋カードを手に入れればいいんですね」
とオーグ達は有力な手がかりに大いに盛り上がり、アンの反応は。
「あー、ドワーフ、そういえばいたわね」
「『いたわね』って、アンはドワーフに会ったことあるの?」
「普通にダンジョンで探索してれば会うわよ。彼ら、珍しいお宝大好きだから。特に鉱石には目がなくて、オリハルコンとかヒヒイロカネとかアダマンタイトを持ってると見せてくれとか売ってくれとかうるさかったわよ」
アンがさらりとそう言うので、
「そうなんだ。結構簡単に会えるのね」
オーグが欲している『新月の指輪』が意外とすぐ見つかりそうで良かったと思うカチュアだった。
だがお宝にはちょっと詳しい盗賊のリックが驚いて否定する。
「いや、そのオリハルコンもヒヒイロカネもアダマンタイトもすごい珍しい鉱石なんです! それこそ滅多に見つけられませんて」
「そりゃそうなんだけど」
アンはリックの言葉を認める一方で、こう付け加えた。
「何かの切っ掛けでポーンと珍しいアイテムを手に入れることはダンジョンじゃよくあるのよ」
アンの言うことは本当で、ダンジョンでは普通ではあり得ないような不思議な出来事がよく起こる。
こんなことがあるから、冒険者は一攫千金の夢を見るのだ。
「だからドワーフにはそのうち会えるんじゃない?」
「はい」
オーグは手がかりが見つかって嬉しそうだ。
「あのー」
カチュアはふと疑問に思ったことをアンに尋ねた。
「知ってたなら、アン、もっと早くオーグに教えてあげれば良かったのに」
「無理よ、アタシ、オーグがドワーフを探してること今知ったもの」
カチュアは驚いた。
「えっ、そうなの? 冒険者ギルドの図書室で一緒に聞いたじゃない?」
アンは頭を掻く。
「覚えてないのよねぇ、それ。あの時は途中でアタシ、寝ちゃったみたいで」
「途中、じゃない。それ最初の方」
と珍しくローラが突っ込んだ。
「うん、俺もまださすがに起きてたから覚えてる」
「私も」
とリックとカチュアも同意する。
確かに本を読んでいる間、アンは一言も発していなかった。
どう見ても普通に椅子に座っている様子だったので、皆てっきりアンは静かに本を読んでいるのだと思い込んでいたが、実は最初から寝ていたようだ、目を開けて。
カチュア達はおののいたが、アン当人はケロッとした表情でオーグにアドバイスした。
「ドワーフに何か作ってもらいたいアイテムがあるなら、それまでにドワーフの好きそうな素材を手に入れるといいわ」
「はい!」
オーグは大きく頷く。
「まあ、あんまり気負わなくても先に進めば見つかるわよ」
「ドワーフは珍しい鉱石を手にしていれば向こうから来てくれるみたいですしね」
「道具屋カード、欲しい」
「道具屋カードは道具屋の常連になればそのうち貰えるらしいから……」
「ダンジョンで探索を続けていけばいずれ、手に入るはずだ」
「じゃあ、上層階目指して、頑張りましょう!」
「おー」
チームはポーションの材料を手に入れるため、ダンジョンを行く!
***
カチュア達は今、ダンジョンの二十階まで来ている。
トーナメントで八位入賞するため、レベルアップを最優先したメンバーのレベルはレベル30に達していた。(カチュア、除く)
十五階以上は階×1.5のレベルが推奨なので、無理なく先に進めそうだ。
次に目指すのは、二十五階に咲くという月下美人草。
ガンマチームの前に立ちはだかる次の難関は、二十三階にある『力試しの岩戸』と呼ばれる石だった。
これは巨石の扉で人力でしか開かないそうだ。
何十人とパーティーメンバーがいるチームなら集団で力を合わせることも可能だが、カチュア達のような少人数パーティーで、しかもメンバーにはローラやカチュアのような非力な女性も含まれている。
『剛力手袋』、『筋力のポーション』などのアイテムや筋力アップの巻物などで力を底上げすることは可能なので、そうした道具を利用してなんとか扉を開けようと考えている。
となると必要なのは、それを買うお金……。
「二十三階まで行く間にお金、貯めとかないとねー」
二十一、二十二階は順調に過ぎて、チームは二十三階に到達した。
道中お金を貯めて、筋力アップグッズを買い込んだが、実際岩戸を開けられるかは試してみないと分からない。
今日は様子見がてらの初挑戦だ。
二十三階は坑道タイプと呼ばれる、鉱山の坑道を思わせる、岩をくりぬいて作られた狭い道が続くエリアだった。
「うわー、ここかぁ」
「すごい」
モンスターを倒しながら歩いて行くと、直前まで狭苦しかった道が急に開け、天井の高い場所に出る。
目の前には道を塞ぐように大きな岩があった。
この石が『力試しの岩戸』だ。
噂通りに大きな岩だった。
幅は三メートル以上、高さもそのくらいという巨石で、形は丸いので転がりはするだろうが、めちゃくちゃ重そうだ。
地上にあったら観光名所になりそうな立派な岩の扉だった。
コレ、五人でなんとか出来るの?
と誰もが息を呑んだ。
「…………」
ローラは『力試しの岩戸』をじーっと見つめ、
「魔法爆弾で壊そう」
と物騒なことを言った。
確かにそれが一番手っ取り早そうだが、そう簡単にはいかない。
「破壊防止の魔法掛かってるって聞いたわよー」
ちなみに一度扉を開いたら岩戸は開いたパーティーを『覚えている』ので、通してくれるそうだ。
「ま、とりあえずやってみましょう」
アンの一言でカチュア達は岩戸を押すことにした。
アンとオーグとリックは筋力アップグッズを身に付けて、ローラとカチュアの分は予算の都合で買えなかったので二人はそのままだ。
「…………」
アンはふと、パーティーメンバー以外、誰もいないはずのダンジョン内を警戒した様子で見回した。
『力試しの岩戸』周辺は何故かモンスターが近寄らないので、安全なはずだが……?
「どうしたの?アン」
カチュアが聞くと、アンは肩をすくめる。
「……いや、なんとなくね、誰かいるような気がしたのよ」
「うーん」
カチュアも周囲を見回すが、辺りは薄暗く、よく分からない。
「誰もいない気がするけど……」
「そうね、気のせいだったみたい。さ、始めましょう」
「ぐぐぐぐぐー」
「ふんすー」
「重いー」
チームは力を合わせ懸命に岩戸を押した。
非力ながらローラもカチュアも三人の後ろで協力する。
「無理ー」
「ツライ」
「頑張って! 行けそうよ」
「本当?」
「ちょっとですが、動いてるッスー!」
確かに岩戸はミリ単位で動いているが、五人の体力は限界に近づいていた。
「も、もう駄目」
とカチュアの力が尽きそうになった時――。
「?」
何故か、突然、岩戸が動き出した。
「ゴゴゴゴッ」と大きな音を立てて岩は転がり、扉が開く。
「やった!」
「動いたー」
「開いたー」
「疲れたー」
「うん」
皆、立ち上がれずにしばらくその場に座り込んでしまった。
それでも、扉がいつまで開いているのか分からない。
元気な若者達から立ち上がり、
「先に進もう!」
「よし、行こう!」
「楽しみ」
と扉の奥に入って行く。
カチュアもヨロヨロしながらそれに続いて岩戸の中に入り、なんとなく後ろを振り返った。
「……?」
岩戸を押していた時、カチュアは一番端っこだった。
あの最後の瞬間、誰もいないはずの場所に、誰かが居て、その人が岩を押してくれたような、そんな気がしたのだ。
振り返っても、もちろん誰もいない。
「気のせい、よね、うん」
カチュアは自分を納得させるように呟いて、皆の後を追った。







