『泡沫の槍』
「ここの問題はテストに出るからな〜」
若い男の教師が1人教卓の前に立ち、黒板を指差しながら大勢の学生に呼びかけている。
座っている生徒達は皆教師の方を向き静かに話を聞いているが1人の生徒が窓の方を見て驚いたような声を上げた。
「お、おい!皆外を見ろ!」
その声につられるように窓の外を見ると宙を舞う大きな白い化け物が何十体と居た。
その化け物はこちらに向かって進んできているように見える。
「やばいやばい!!みんな早く逃げるぞ!!」
発見した男子生徒が驚いて立ち上がろうとすると1人の男子生徒が立ち上がろうとする肩を押さえて座らせると窓の外を見て右手を少し上げた。
親指、人差し指、中指を胸の前辺りで突き立てるとその指の先に鮮やかな青緑色の球体が現れた。
『創造』
そう言うと少年はその球体を右手で握りつぶし、
『序』
と言い人差し指と中指を下に向けて指す。
その瞬間外の化け物の頭上に大きな水の槍の様なものが現れた。
化け物達も困惑しその場に立ち止まっている。
『泡沫の槍』
と語り、少年が右手をパチンと鳴らした瞬間、水の槍の様な物は空飛ぶ化け物たちに突き刺さり。
消滅した。
× × ×
『廻魔』
この世界に存在する「魔力」の乱れから発生する魔力を有した化け物の名称だ。
乱れを引き起こした大きさや乱れが発生した魔力の量、濃度によって廻魔の凶暴性は変わり使う魔術の威力も大きく異なる。
廻魔の凶暴性や術の威力によって階級が割り振られ、下から『初』『序』『中』『終』『怪』に分けられる。
『初』の位の廻魔は基本害はなく自身の魔力を制御出来ないまま自然消滅していく。
ごく稀に自身の魔力を制御するものが現れるが全て『序』の位までにしかならない。
『序』や『中』、『終』の位になると自身の魔力を制御し始め害を及ぼし始める。
その他の部分は使用する魔術以外の点に置いてそこまで大差は無い。
しかし『怪』の位に関しては全くの別物である。
『怪』の位に属する廻魔は完璧なまでに自身の魔力を扱い他の位の廻魔に比べ圧倒的な威力の魔術を使用する。
その中でも歴代に『怪』に属した廻魔の中で討伐しきれず封印された廻魔達を『災害廻魔』と呼ぶ。
そんな廻魔達を討伐するのが俺たち『魔術師』の使命だ。
× × ×
「こちら『天城』、突如『終』の廻魔が複数体発生した為討伐した。階級と数的にかなりの乱れがあると見られる為調査を頼む」
魔力の乱れの調査を依頼する為連絡していると校庭の方では学生たちが招集され、職員達が集まって話し合っているのが見えた。
突然空飛ぶ化け物が現れて全て討伐されたのだから心情は全員困惑の一言なのだろう。
「さぁてと、俺もそろそろ行きますか」
「そろそろ行きますかじゃねぇだろ馬鹿野郎」
「お、今回はかなり早かったな「愛美」最速記録更新なんじゃないか?でももっと早く来れると思うけどな〜」
「私の術じゃこれが限界だっての。おまえの基準で話すな」
この初手からクソみたいな態度で来たのが同じ魔術師で同期の「秋条 愛美」
ちなみに使う魔術は身体能力上昇と治癒である。
「あ〜そっか〜君の術だと僕に追いつく事も出来ないもんね〜」
「くっっそ腹立つなおい。まぁ事実私の術よりお前の方が速いからなんとも言えないのがさらに腹立つ」
俺の使用する魔術は『泡沫』という固有の特殊な魔術と圧力を操る魔術の2つだ。
俺のように2つの魔術適性を持っている者は「怪傑魔術師」と呼ばれる。
俺は圧力を大きくし横からのみかけることにより高速の移動を可能にさせているため空気中の圧力によって加速している俺と身体能力を増幅させて加速している愛美では考えずともどちらが速いか分かる。
「はいはい、私がお前に敵わないって事はもう嫌ってほど知ってんだよ。いいからお前は慈悲と手加減を覚えろっての」
「慈悲と手加減は知ってるよ。ただただ君に使うつもりは無いけどね」
「うぜぇ…マジでこの面ぶん殴ってやりてぇ」
「俺に拳を当てるのは無理だって知ってるくせに」
「しね」
俺の体には物理や魔術の攻撃が来た時に自動的に遅くさせる圧力をかける様になっている。
その為愛美がいくら身体能力を上昇させて最速で殴っても俺の体に届くまでには2秒というラグが発生するのだ。
「ほんとに元の身体能力が高いくせに能力で更に加速し攻撃はほぼほぼ無効化。そんでもって簡易的な治癒能力もあるとかどうかしてるよほんとに3回くらい死んでくれ」
「最後にどさくさに紛れて暴言を吐いてくるんじゃねぇ。そんなんだからモテねぇんだぞ」
「喋んな!!これでも1部の年齢層にはモテるんだぞ!!」
「何歳くらい?」
「…幼稚園児」
「保育士かよww」
「笑うんじゃねぇよ!!いいだろ幼稚園児にモテてもモテてるって言って!!」
愛美が全力の拳を叩きつけてきたため俺はそれを避けた。
愛美の通常の強化で届かないとはいえ今は怒りによる加速が入っている為0.5秒ほどのラグで届く。
それに魔術で止めると更にぶち切れそうだからだ。
「はいはい、そんな事はどうでもいいから早く退散するよ〜」
「元はと言えばてめぇがあんなクソ派手な術を使って殲滅するから私が来ることになったんだぞ。」
「でも俺の中では地味な方だったんだけどな〜」
「お前の術は全部威力がバケモンなんだよ。圧力かけて押し潰せばいいだろ」
「そんな事したら数十体もの巨大化け物の血が吹き出るけどいいのか?」
「…よく術を使って倒したな!!いい判断だ!」
「ほんとに良い性格してるよ」




