第七話 封印記録庫の番人
ヤコブの屋敷内、食堂。
エトは朝食を食べながら、ふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、リク。少し調べ物がある。今から本部に一緒に行くか?」
「え……俺も行っていいんですか?」
「今は一時的とはいえ、捜索隊所属だろ。立場的にも問題ない」
「……そうですね」
そう答えながら、リクは自分の立場を改めて意識する。
農業村リリンを離れてから、まだ実感が追いついていなかった。
二人は並んで、霊獣管理協会本部へと向かった。
「本部には、霊獣管理協会の記録書がある」
歩きながら、エトが説明する。
「過去、契約の儀式で霊獣と契約した履歴をまとめたものだ。能力の傾向や記録も含まれている」
「そんなのが……」
「ああ。誰が、いつ、どの霊獣と契約したか、全部な」
少し間を置いて、エトは付け加えた。
「……もっとも、王族のデータはないけどな」
「え? なんでですか?」
思わず足を止めたリクに、エトは肩をすくめる。
「決まってるだろ。一般の霊獣使いを止められるのは、王族だけだ」
「……」
「把握される側の記録は残すが、把握する側の記録は残さない」
その言葉に、リクの脳裏にハンナの言葉がよみがえった。
(霊獣ミカエルの能力は、王族と身内しか知らない)
胸の奥に、重たい違和感が沈む。
「自由だ、民主主義だって言いながら……」
エトは淡々と続ける。
「結局は、支配してるんだ」
「……そんなもんさ」
リクは黙ったまま、本部の建物を見上げた。
本部二階。
エトが指導官室の扉をノックする。
「救助隊所属エト、臨時捜索隊所属リクです。封印記録庫に用があります」
「どうぞ」
室内には書類の山。
霊獣[フクロウ]フクが止まり木から二人を見下ろしていた。
指導官マタイが穏やかに頷く。
「確認しました。エト君、リク君、お疲れ様です。記録庫へどうぞ」
右手で奥を示す。
「ありがとうございます」
「……ところで、記録庫の番人のことは知っていますか?」
(番人……?)
エトが答える。
「俺から説明します」
「助かります。すみません……報告書が溜まっていまして」
「マタイさんも、無理しないでください」
「ありがとうございます。終わったら仮眠しますよ」
一瞬、机の書類が目に入った。
『白霊米倉庫盗難……』
読んではいけない気がして、リクは視線を逸らした。
廊下を進みながら、エトが小声で言う。
「マタイさんは、フクロウの能力で嘘を見抜ける」
「過去に、スパイが書物を盗もうとした事件があってな」
「それ以来、ここで入室者を管理している」
「じゃあ、マタイさんが番人なんですか?」
「いや。本当の番人は、中にいる」
【封印記録庫】
赤文字で刻まれた、異質な扉。
扉の前に立った瞬間、リクは妙な気配を感じた。
一歩、踏み込んだ、その時。
「……っ!」
こめかみに、鋭い痛み。
「な、なんだ? 今ちくって……」
「気にするな」
エトは平然としている。
「ここには霊獣[サソリ]使いがいる」
「えぇ!?」
「侵入防止だ。入室者全員に、自動で毒針が刺さる仕組みになってる」
「ええええ!?」
「安心しろ。出る時に抜ける」
「そういう問題じゃ……!」
その時、奥から間の抜けた声が響いた。
「おつ〜、エトちゃん。ひさしぶり〜」
視線を向けると、椅子にだらりと腰掛けた女性がこちらを見ていた。
続く




