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第五話 ダニエルとララの会話術

 薄暗い地下室。

指揮官ダニエルは、重たい意識の底からゆっくりと浮上した。


 後ろ手に縛られ、壁に寄りかかった体勢。

少し離れた牢の中では、霊獣[犬神]ララが足枷の鎖につながれ、ほとんど身動きも取れない。


(まさか……第一王子マルコが黒幕とはな……。この国も終わりだ)


 胸の奥で苦く笑った瞬間、小窓の端で何かが揺れた。

(やっぱりか……。何かに監視されている)

 ダニエルは瞬きを一度だけし、息すら殺して丸一時間、徹底して音を立てないでいた。


 そして足元に転がっていた小石を指先でつまみ、ゆっくりと牢の外へと転がす。


 コロ……コロ……


途端、黒い影が窓の内側に寄ってくる。

(聴覚を共有出来るって言っていたよな……拡張の能力を使う事も出来る……)

(……完全に音だけで監視出来るわけね)


 状況は最悪。

しかしダニエルは、むしろ静かに頭を回し始めた。

(無音にして、逃げようとしてもバレるわけね……だったら)


「おいララァ! 起きろ!」


突然の声に、ララがびくっと跳ねる。

「ちょっと! いきなり何よ!」


「腹減ったな〜、ララ」

「なぁ……死ぬ前に何食べたい?」


「……」


「俺は上等の高級肉……食いてぇな……貴族しか食えないからな……一度でいいから見てみたいよな」

(※訳:上を見ろ)


「ララは他に食べたいものはあるか?」

(※訳:他にこうもりはいるか?)


 ダニエルは目線だけで小窓を示し、ララに合図。

 ララは静かに首を上げると、嗅覚で地下室の生物の位置を正確に把握する。



 ひとつ、ウインクを返した。


「そうねぇ……他はいらないから……せめて上等の高級肉は3人分は食べたいわね……」

(※訳:上の3体以外にはいない)


 会話はあくまで自然に。

監視に悟らせないよう、芝居は続く。


(マルコの正体を知った俺たちは、人質としての価値を失えば即処分……)

(ヤコブさん……足を引っ張ってすみません……伝書バトモーセがいない……俺が気を失っている間に処分されたか……)


 胸が軋む。

だがダニエルは心を切り替えた。


(後悔はあとだ。今は……生き残る算段を立てろ)

(しかし……マルコ王子は何を考えている? リザエルの協力者? なぜだ?)


「あぁ!! 腹減った!」

(たまに大声出して聴覚拡張発動させないようにしないとな……)



「なぁ……ララと最近食べたご当地グルメなんだっけ?」

(訳※なぁ……ここどこだと思う?)


「シュトーレンよ」

(訳※北の地だと思う)


「そうだ! シュトーレンだったわ!」

(訳※北の地か)


「シュトーレン、薄く切って焼くとドライフルーツの香りが引き立っていいわよね」

(訳※北の地しか咲かない花の香りがする)


「いいよな! 食いたくなったぜ!」

(訳※さすがだな)




───


 マルコ私室。

耳を研ぎ澄ませ、ダニエルとララの会話を確認する。

(こいつ……声がでかい……拡張を使うと耳が痛い……)




 窓枠のこうもりは、ただ静かに。

しかし確実に二人を監視し続けていた。





続く

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