第16話 リクの灯火
ポタ……ポタ……。
生ぬるい液体の中で、ダンさんは目を覚ました。
「リク……?」
瞼を開けた先で、リクが腹部から血を流し倒れていた。
「リク!? 嘘だろ……!」
「ぐ……っ……!」
その前に立つ影。
刃物を握ったユダだった。
「悪いな……俺も、ここまではしたくなかった」
「任務が失敗すれば、俺の家族が殺される」
「リク!!」
「土よ! 豊かになれ! リクを豊かに!」
必死に叫ぶダンさん。
だが光は虚しく消える。
血はゆっくり広がっていく。
「リク……リクぅ……! おいらの魔法じゃ……なんもできないよ!」
涙混じりの声が響く。
「なんで……なんでこんなことをする!? リクがお前に何をした!?」
「……」
ユダは冷たい目で答える。
「始末しろと命令された……化学兵器を簡単に浄化するお前らが邪魔なのだろう」
「おいらを狙えばいいだろ!? リクは……関係ない!」
「……何も分かってないな」
ユダの声は低く震えていた。
「一年前……本来なら、俺の調合の毒で……お前は死んでいた。だが生きている……理由は、その霊獣使いの霊力量だ」
「そいつが生きている限り、脅威は消えない。……俺の家族は囚われたままだ」
「……」
ユダは胸ポケットに忍ばせていたケースに手を伸ばす。
(この毒を使えば終わる。……終わらせられる。リリ……エミリ……お前達に生きて会える……)
その瞬間──脳裏に声が響いた。
『お父さん!』
『科学の力ってすごいね! 皆幸せになれるんだね!』
「──!」
──脳裏に響く幼い頃の娘の声。
あの笑顔、あの温もりが、確かにそこにあった。
「……っ」
ユダの手から力が抜け、試験管がかすかに震える。
ゆっくりと目を閉じ、手を下ろした。
「もう……おしまいだ。私の完敗だからな……」
声には、先ほどまでの冷たさはなかった。
ふっと背を向け、歩き去るユダ。
「クソッ……待て!」
残されたのは血を流すリクと必死に叫ぶダンさんだけだった。
「リク! リク!!」
ダンさんの声が聞こえる……。
寒い……。
すごく寒い……。
身体が震える……。
死んだら……どうなるんだろう……。
「リク!」
ダンさんの声が遠く響く。
(ごめん……最後、油断した……)
(ダンさん……泣かないで……)
血が地面を赤く染めていく。
ダンさんは小さな身体で傷口を押さえる。
「だめだ……血が止まらないよ……」
「誰か助けを……どこか……」
(……最初の霊獣使いも病で苦しんでいて……薬草取りに戻って帰ってたら……もう冷たくなってた……)
(多分……間に合わない……)
「……リクぅ……」
「土を聞かせろ! リクを豊かに!」
「土を聞かせろ……リクを……豊かに……!」
「リクを豊かに……リクぅ……!」
光は虚しく消えていく。
「おいら……身体小さくて何も出来ない……」
「すぐ干からびるし……」
「助ける事も出来ない……」
「ごめんな……リク……おいらがリクの霊獣で……」
「おいら……何も出来ないよ……」
その時、リクが震える手を伸ばした。
「ダンさん……そんな事…………言うなよ」
「リク!!」
「ダンさん……けっこう……俺、楽しかったよ」
「俺の霊獣になってくれてありがとう……」
ふっと、口元に笑みを浮かべる。
力が抜け、意識が薄れていく。
「リク! リクぅ!! 起きろ!!」
「リクぅ──!!!」
続く




