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第14話 初めての嘘

 エルダは完全に消え、

森に爽やかな風が吹き抜けた。


「……終わったのか……?」

リクは荒い息を吐いた。



「戦争を企てた者……?」

「ユダって……誰だ……?」


 静寂は長く続かなかった。


ダンさんは体の水分を使い果たし、ぐったりと動かなくなっていた。


「ダンさん! しっかりしろ!」

リクは必死に呼びかけ、養鶏場の池へ走ろうとした。





──その時だった。

 

 南の畑の奥から、黒い影がぞろぞろと現れた。狼型の魔物の群れ。


「クソッ! なんでだ!」

叫んだ声が震える。


 慌てて弓を構える。

だが矢筒を覗いた瞬間、血の気が引いた。


「矢が……あと少ししかない……」


腕は痺れ、肺は焼けるように熱い。 

体力も霊力も、もうない……。


それでも群れは止まらない。


「何が起きているんだ……」



───


 村の教会。


「うわぁぁ!!」

「また魔物が来たぞ!!」



 村人たちの悲鳴が響く。

養鶏場のマダムは片腕を押さえ、荒い息を吐いた。


「もう……鎌も鍬も残っちゃいない……」

「これ以上は……無理だ……」



───


──その20分前。


 森の奥。


ユダは全てを見届けていた。


「猛毒を……一瞬で無毒化するだと」

「まさか、あの毒スライムまでも……」


彼の声は低く、乾いていた。


「あれ以上の毒は存在しない。……あいつらが“始末しろ”と命じた理由、少しは理解できる」



懐から、小さなケースを取り出す。錠前を外す音が森に響いた。


「さて……これは使いたくなかったが……」


取り出されたのは、紫色に鈍く輝く魔石。



握った瞬間、空気が濁り、不気味な咆哮が森を震わせる。



ユダは空を見上げ、ぽつりとつぶやいた。


「早く……すべて……終わらせて家族に会いたい……」





──


 現在。



リクは走り出す。


ローブの中、ダンさんはぐったりと力を失っていた。

「ダンさん!!」


「……み、みず……」

「クソッ!」


 狼型の魔物が迫る。

リクは震える指で弓を引き絞った。


──ドスッ! 一体が倒れる。



残り矢は一本。


「頼む……これで最後だ!」



息を止めて放つ。

──ズガッ! もう一体が崩れる。


 


だが、矢筒は空。

残る群れは二十体以上。



喉が焼けるように乾き、心臓は破裂しそうなほど打ちつける。



 リクは歯を食いしばり、ダンさんを抱え走る。

「クソッ!! 今は逃げるしかない!」



「リク……」

ローブの中で、ダンさんは脱水で苦しみながらゆっくり話す。



「リク……おいらを置いて……逃げろ……」

「はぁ!? 何言ってんだ!」


「……おいら、丸まれば大丈夫だから……後で池まで……自分で行けるからさ」

かすれた声で、ダンさんは無理に笑みを作る。



リクの胸がざわついた。

(……嘘だ。わかる……ダンさんが、初めて俺に嘘をついた……)

(脱水で……池まで持たないって、わかってるくせに……!)


「なんでだよ……! 今まで一度だって、俺に嘘なんかついたことなかっただろ!!」

声が震え、涙がにじむ。


「リク……」

ダンさんの瞳が揺れる。


「置いていけるわけないだろ!!」

リクは小さな体をぎゅっと抱きしめ、決して離さなかった。




「リク……」




だが、横から十体近い魔物が迫る!


「──!」


牙が迫る気配に、リクは瞼を閉じた。



腕に力を込め、小さな体を強く抱きしめる。

(ごめんな、ダンさん……)







──その瞬間。


「ドラコ! 魂ごと焼き払え!!」


 空気が爆ぜた。

眩い炎が轟音と共に大地を駆け抜け、迫っていた群れを一瞬で灰に変える。


熱風が吹き抜け、リクは思わず目を開いた。


上空には――翼を広げ、光を纏ったドラコの姿があった。






続く

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