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第11話 炭鉱とエネルギーの街エデン

※残酷描写ありです。苦手な方はお戻りください

「……ダンディ、だと……?」

毒スライムの瞳が激しく揺らいだ。



ダンさんは真っすぐに睨み返す。

「そうだ……お前、忘れたのか? 昔を……」



その言葉を合図に、スライムの脳裏に――遠い記憶が蘇る。



───


 約四百年前――


炭鉱とエネルギーの街″エデン″。

ここは炭鉱資源を持ち、無尽蔵のエネルギーを生み出す街として栄えていた。




そして街の外れでは、霊獣も魔物も、共に平和に暮らしていた。

害のない魔物にも人々は寛容で、街は炭鉱の恵みに潤い、活気に満ちていた。



先代の霊獣「ダンゴムシ」ダンディ(百歳)と、若き「スライム」エルダ(百歳)も――そこに暮らしていた。


「エルダさん、甘い苺が採れましたよ。どうぞ」

「ありがとう、ダンディ」


小さなやり取り。

そこには、確かに平和と友情があった。


───


「パパ、苺おいしいね!」

まだ半透明の小さなスライムが、体をぷるぷる震わせながらはしゃいだ。


「エルダさん、本当にありがとうございます」

「皆、今度ダンディに会ったら礼を言ってくれ」

同族たちが微笑み、差し出された赤い実を分け合う。


「みんなで食べる苺は格別だな」

エルダはゆっくりと頷き、家族や仲間を見渡した。


笑い声が響く。

苺の甘い香りが漂う。

そのひとときが、何よりも幸せだった。




───


 だが――人々はさらなる力を求めた。


「わずかな炭鉱から、無限のエネルギーを……!」


 しかし……実験は失敗し、街の中心で大火災が発生。


人々は避難を開始する。


町長が叫ぶ!

「魔物達! 頼む! 人間が避難するまでお前達が消火してくれ!」

エルダら魔物は必死に水を撒き、街を守ろうとした。


町長はボソっと独り言のように話す。

「こうゆう時の為に魔物を街に置いといて良かった」

「えっ……」


「お前ら頼んだぞ!」 


(聞き間違いだよな………)

(優しい人間達がそんな事を思う訳がない……)



一時間後。


魔物達が叫ぶ!

「保管庫に火の粉が!! 逃げろ!!」


「──!」

保管していた化学油とエネルギー物質に引火した。




爆炎が街を飲み込む。


家は吹き飛び、かつて“エネルギーの街”と呼ばれた姿は、土煙に掻き消された――。


エルダは吹き飛ばされ、意識を失う。




───


二十四時間後。


土煙が晴れ、エルダの目に映ったのは――。

爆心地に溜まった重油。


魔物や小動物達の大量の死体。

人々の姿はどこにもいなかった。





「う……げほ……! なんだ……ここは……毒?……魔物の俺でも……耐えられ……」


エルダは嘔吐し、色を変え、黒く濁っていった。


空気には科学毒が漂い。生物の命を確実に蝕んでいた。



「エルダさん! 大丈夫か!?」

駆け寄ったダンディは、いつも通り落ち着いていた。



「……なぜだ、ダンディ……なんでお前は平気そうなんだ……」


「儂らダンゴムシは毒を取り込んで腹の中で無毒化できる。だから生きていけるんじゃ」


「ただ……なぜか街の周りに金属の壁が建てられ外に出れないんじゃ……」

「壁だと!?」


「そんな……! 私の家族は!? 同族は!?」


ダンディは視線を逸らした。

「……」



エルダは慌てて走り出した。

かつての住処へ。大樹の元へ。



「あぁ……大樹が黒焦げに……」

(嫌な予感がする!)



「なんだ……これは……」 


そこにはスライム達が苦しんでのたうち回っていた……。



「パパ……苦しぃ……」「エルダさん……ぅぅ…」

「お前達大丈夫か!?」


「身体が小さいから皆……毒を取り込めないのか……」



「すぐ外に避難しよう! こんな毒まみれの所逃げよう!」



しかし

エデンの街の周りは高い金属の壁に覆われ、外に出ることが出来なくなっていた。


壁の周りには小動物や魔物が集まり、叫び声が響く。

「出せ!」

「おい! ここから出せ! 子供が死にそうなんだ!」

 

壁のすき間から出てきた人間は鳥のくちばしをしたマスクをかぶり、叫ぶ。


「魔物達! 外に出るな! 汚染が広がる!」

「人間の避難は完了した! お前らはここで待機だ!」


「お前らが……汚染させたのに……他の生物は見捨てるか?」


「黙れ! 魔物のくせに!」



かもめが塀を飛び立とうとすると矢が放たれ、撃ち落とされた。


「汚染を外に広がる訳にはいかない! 外に出ようとする者は狙撃するからな!」


「なんだと……」


──


 エルダはただ呆然と自分の住処に戻る。


ダンディがスライムの子供に魔法をかけている。


「ダンディ……お前浄化魔法が使えるのか! 子供や皆を助けてくれ!」


「……ごめんなさい。わしは土を浄化する事しか出来ない……。皆の身体の毒を浄化するにはわし一人では霊力が足らない……」


「お前! 契約している霊獣使いの人間は助けに来ないのか…」



「……きっと来ないでしょう」 

「そんな……」


その時。

「パパ……くるしい……」

「──!」


「僕……助かる?」


「助かる! 助かる! 助けが来るぞ……だから頑張れ!」


「そう……良かった……僕……頑張る……」



(嘘だった……誰も助けになど来ない……)


(人間は汚染された我々が死滅するのを待っている……残酷だ……)


(これは……地獄か……目の前の子供が苦しんでいるのに……何も出来ない)



三日後。

小さなの子供のスライムは苦しむように亡くなっていった。


何も出来ず無力に……。


「……あ……ぁぁぁぁぁあッ!」



一週間後。

スライムの一族は全滅し、他の種族も同じように苦しむように亡くなった。


霊獣ではない小さなダンゴムシ達も浄化能力が追いつかず力尽きるように全滅した。



ダンディとエルダは黙々と生き物達を土に埋葬する。


スライム達の亡き骸は大樹の元に。




「エルダさん……街中を探しましたが私達だけのようです」



「ダンディはなぜそんなに冷静でいられる……」


震える声。

その瞳に、憎悪の炎が宿る。


「人間のせいだ……この街を……自然を……人間が汚染した……!」


「エルダさん……」



「必ず復讐してやる……!」

「ダンディ! 一緒に人間を滅ぼそう……! このままでは他の種族も……同じように……!」



「お前だって……霊獣使いの人間に散々な扱いを受けていただろう。そして今回も助けには来ない……! お前は見捨てられた!」



ダンディは首を横に振る。

「……わしは怒っておらん」


「なぜだ!? 理解できん!」


「わしは、この地を浄化する」



「馬鹿か!? この広さを!? この猛毒を!? 何年かかると思ってる!」


「……何年でも……何十年、何百年でもかけて」



「なぜだ!? 人間が汚染させたのに……!」

「わしは自然に従うだけじゃ」



「……話が合わんな。ダンディ……」

「私は行く……人間を滅ぼす……家族も同族も苦しんで殺されたんだ……」


「エルダさん……」


「……」


「また、ここが綺麗な街に戻ったら……苺を食べませんか?」


「フッ……戯言を……」


───


 壁をゆっくり登るスライム。


マスクをかぶった男が叫ぶ!

「まだ魔物が生きている! こっちに来るな!」


エルダはニヤリと笑う。

「お前は子供はいるか?」

「なんだ? それがどうした! 来るな!」


矢がエルダに何本も突き刺さる。しかし動きは止まらない。


「目の前で自分の子供が……三日間苦しみながら死んだらどう思う?」


「親として……何も出来ない無力さの……苦しみが分かるか……」

「なんだと!」


「お前をあの時殺しておけば良かった……」

エルダは飛び上がり、男の背中に飛び移る。



マスクを奪い、毒を男に吹きかける!

「ゲボ!!……ゲボゲボ!」


「……苦しぃ!……肺が痛い! 助けてくれ!」


「すぐ死ねない毒だ……三日間苦しんで死ねばいい……人間め……」 


「これは私の子供の分だ……」




「さて……逃げた人間どもを探すか……同族の苦しみを味わうといい……」


「人間などいらない……」





───


 それから――。

スライムは200年、憎しみを抱え続けた。

世界の毒を取り込み、記憶は薄れ……家族の顔も、友も、苺の甘さすら思い出せなくなっていった。


残ったのは――人間への恨みだけ。


やがて心を蝕まれ、理性を失い、人を襲う存在へと堕ちていった。


そして毒スライムは科学者に捕獲され、長き冷凍の眠りに閉じ込められる。


……2年前。

科学者ユダによって解凍され、その力を利用されることとなった。



  


続く

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