第20話 白霊米の納品と霊獣達の追跡
ハンナが王都に帰ってから2日後。
王都から馬車がやって来た。
祭事者らしき男がダンさんに深く頭を下げ、厳重な木箱を差し出す。
中には、白霊米が納められていた。
その後ろから、ゆったりとした足取りで王族が一人。
退屈そうにあくびをし、足を組んだまま椅子に腰を下ろす。
第一王子――マルコ。
祭事が進む間、マルコは飽きた様子で辺りを見回す。
ふと、その視線がダンさんへ……そしてリクへと向けられる。
ジロリと、冷たく見下ろすような目。
無言の圧に、リクは思わず背筋を伸ばした。
(……ん? なんだ?)
儀式が終わると、マルコは面倒くさそうに立ち上がった。
「さっさと王都に帰るぞ」
その声に合わせ、雷神鳥とその霊獣使いドゥ、火竜とその霊獣使いトアがリクへ駆け寄ってくる。
「おい、リク!」
「王都の時の……」
かつてダンさんを馬鹿にしていた連中だ。
「王都の時はありがとうな」
「いいよ」
「今日はどうしたの?」
「今日は第一王子と白霊米の護衛だよ」
「……これ王都からのお土産」
「スパイス? ありがとう」
「リク……王都で必要なものあれば何でも言ってくれよな」
「あぁ……そうだ……ヤコブ副総監からリクに渡してくれって」
「えっ……ありがとう」
渡されたのは、王都の紋章もなく、ヤコブのサインだけが書かれたシンプルな封筒だった。
「今日ヤコブ副総監が来ると思ったんだけど」
「最近……そういえば……見ないよな、ヤコブ副総監」
「えっ…? そうなの?」
「ずっと本部に引きこもってるって話だよな」
「総監もいつも忙しいよな」
「そうなんだ」
「さっさと帰るぞ、霊獣使い共!」
「あっやべぇ……マルコ王子機嫌悪いんだよな」
「じゃあなリク!」
「ありがとう」
──
リクは静かに自分の家でヤコブの手紙を開封する。
リク君
元気かい? これは副総監としてではなく、ハンナの叔父としての個人的な手紙だ。
ハンナと仲良くしてくれてありがとう。
ハンナは今、隣国の牽制としてノルディアに駐在している。
良かったらハンナに手紙を書いてくれないか?
伝書バトのニコラがハンナに届けよう。
「えっ……」
「なになに? ヤコブだっけ?」
「あいついい奴だよな」
「そうだね……でもハンナになんて手紙書こう……」
「想いのまま書けばいいじゃん!」
「ん? 会いたいとか……」
チチチと否定する。
「リクは……子供だな……」
「ん?」
「君の笑顔は世界一可愛いよって!」
「直球すぎて恥ずかしいわ!」
がたっと立ち上がる。
「……結論それなのに……」
「人間にはいろいろ順序が必要なの! ダンゴムシと一緒にすんな!」
「……人間って複雑! おいらわかんない!」
リクは座り直し、黙って手紙を書き始めた。
────
───森林の川沿い
二人の男は布で体を拭いていた。
「ララがここまで神経質だとは、ダニエル君も大変ですね……」
「そうなんっすよ! 一時間おきに体拭けって……鬼でしょ!?」
犬神ララがギロリと睨む。
「あんた達ね! 二年前の残り香を追うって、どれだけ大変か分かってる!? 今は嗅覚を拡張してるから、ちょっとの匂いでも失神しちゃうのよ! 後、私の背中に乗ってるだけでしょ!」
マタイが苦笑する。
「すみませんね。私達は夜の警護くらいしか出来なくて……。ララさんのおかげで二週間の捜索で、ここまで来られました。ありがとう」
「フク、周辺を頼む」
「スキャン!」
霊獣フクロウの右目が光り、川沿いをなぞる。
「……ありました。二年前の焚き火の跡。さらに、血痕と複数の足跡が」
「詳しく」
「血痕は……ユダ本人のものと思われます。顔面からの出血。足跡は二手に分かれています」
「二手?」
「ええ。一方はユダを含む大人二人。ユダは途中から引きずられています」
「そしてもう一方は……子供一人、女性一人、男二人。子供は途中から抱えられていますね」
マタイは眉をひそめ、
「ユダの家族は妻と娘一人と情報がありますから間違いないでしょう」
ダニエルが顔をしかめる。
「……ってことは、ユダと家族を運び、ここで分けて連れ去ったってことか」
「おそらく」
マタイは静かに川面を見つめ、呟いた。
ダニエルは拳を握り、
「……許せないっすね」
「ここで二手に別れますか?」
「そうっすね」
その様子を伝書バトが遠目から見つめる
───
霊獣管理協会本部
「さすが……優秀な部下だな」
ヤコブはふっと笑う。
続く




