第13話 もう戦争が起きないように 後編
戦争の話です。暴力、残酷シーンがあります。
生々しい描写、セリフがあります。
※苦手な方はお戻りください
南サハラと北カナン。
その間を流れる運河を隔て、領土をめぐる戦争は何十年余りも続いてきた。
そして今、その最終局面が迫っていた。
竜使いは主に攻撃魔法を担い、常に最前線に送り込まれる。
18歳の霊獣使い・ミルカと、火と風の魔法を操る火竜バビロンも、即戦力として戦地に出された。
運河の向こうに、敵の旗がはためいている。霊獣の群れと、霊獣使いが見える。
「来たぞ!」
サハラ司令官の号令とともに、ラッパが鳴り響いた。
「カナンの北の連中を撃て!」
ミルカの瞳が暗く影を落とす。
「バビロン、烈火の熱風で迎撃を! 運河を渡らせないで!」
「了解!」
「でも……霊獣使いには当てないで。霊獣だけを無力化して」
(……俺が本気を出せば、1時間で焼き尽くせる。でもそれは――)
───
北カナン側。
運河から突如、巨大な水竜巻が巻き上がる。
「……水竜か。広範囲すぎるな」
サハラ軍の司令官がつぶやいた。
竜巻に青白い電光が走る。
「はっ、空から雷撃か――全員、電撃に備えよ!」
霊獣使いたちは素早くマントを巻き、身を伏せる。
ザァァッ……バチバチッ……!
「ぐっ……防げきれない……!」
「マント越しでも……痛い……!」
身体の小さい霊獣は電撃の痺れで倒れ、数人の霊獣使いが意識を失った。
───
怒ったサハラ司令官がミルカに詰め寄り、胸ぐらをつかむ。
「お前、何をしている! さっさとバビロンで北の連中を焼き払え!」
「このままだと、我々が全滅する!」
一瞬、言葉を切り、司令官の瞳が揺れる。
「……俺だってな、生きて帰らないといけない! 家族が待っている!」
「嫁に……子供が出来たんだ……来月、生まれるんだ!」
「死ぬわけにいかない!」
声が震え、しかし次の瞬間、怒号に変わる。
「俺が悪魔のように見えるか! 守るためだ!」
「ここにいる霊獣使いの家族を! 未来の子供、国のためだ!」
「だから──さっさと北の連中を焼き払え!」
ミルカは苦しげに目を伏せる。
「……わかりました」
「バビロン……最大火力で攻撃して。苦しまないよう、一気にやって……」
「……わかった。ミルカが望むなら」
バビロンが咆哮と共に、炎の渦を吐き出した。
一瞬で対岸は真っ赤に染まり、炎が人影を飲み込んでいく。
やがて、黒煙と共に、鼻を突く酷い匂いが戦場を覆った。
──人や獣が焼けた匂いだった。
戦闘は、たった1時間で終わった。
───
「これで終わりだ!」
サハラの司令官が叫ぶ。
「長き戦も、これで決着したぞ!」
「……っ、おえっ……!」
ミルカは嘔吐し、泣いていた
そして、その場に座り込み、震える膝を抱えていた。
「ミルカ、大丈夫か?」
「……近寄らないで……」
小さく震える声。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「ごめんなさい……私のせいで……カナンの霊獣使いたちは……」
「だが、戦争は終わった。これからは……」
「普通に暮らせないよ……ごめん。一人にさせて」
「……わかった。近くにいるから、何かあったら呼べ」
──背後の茂みが、ざわりと震えた。
振り返る間もなく、黒光りする大蛇が飛びかかり、ミルカの首筋に牙を突き立てた。
「──ッ!」
焼けるような痛みが走り、全身が一気に熱く痺れる。
視界がぐらりと揺れたそのとき、川面を割って人影が現れる。
水飛沫を散らしながら、黒衣の女が川を渡ってくる。
右半身の衣服は溶け、顔はただれ。
腕の皮膚は溶け一部指先まで落ちていた。
その肩には、まだ血と毒を滴らせる大蛇が巻きついていた。
「……お前のせいで……はぁ……はぁ……」
女の瞳は、狂気と悲哀で濁っていた。
「私の婚約者は──目の前で焼け死んだのだぞ!!」
「この……人殺しがッ!!」
腰から短剣を抜き、ミルカの胸元に突き立てようと踏み込む。
「──ッ!」
バビロンが稲妻のように動き、女の首を切り裂いた。
同時に、その腕が蛇を鷲掴みにし、引き千切る。
黒い血が飛び散り、川面を汚していく。
女の身体は音もなく崩れ落ち、蛇も痙攣しながら動かなくなった。
ミルカは膝から崩れ落ち、浅い呼吸を繰り返している。
「ミルカッ!!」
「ミルカ! しっかりしろ!」
噛まれた首から血が流れ、止まらない。
「クソ……毒蛇使いだったのか?」
「早く! 不死鳥を呼べ」「急げ!」
バビロンが叫ぶ!
「もういいよ……バビロン…」
バビロンの顔を、ミルカの小さな手が優しく撫でる。
「……多分助からない……もう……感覚がないの……」
「ぐっ……」
「最後のお願い……聞いてくれる?」
「バビロン……伝説の龍になったら…」
「……もう戦争が起きないように……あなたが、この国を守って……」
「……ミルカ……」
「弱い人たちを……守ってあげて」
「……約束する」
ミルカは微笑む。
「私……普通の女の子みたいに……恋してみたかったな……」
───そのまま、
そっと目を閉じた。
「ミルカ……!」
バビロンは静かにその身体を抱き上げた。
──数分後。
足音を荒げ、ひとりの青年が駆け寄ってくる。
だが、その光景を目にした瞬間、青年の足が止まった。
「不死鳥! 早く回復魔法を!」
不死鳥は視線をそらし
「わりぃ……もう手遅れだ……死んだら俺の魔法でも、生き返させる事はできねぇ……」
「……っ……」
「……でも少しでも綺麗に治してやる」
光の円に包まれ、
ミルカの首元の傷がゆっくり塞がれ、
顔色は戻り……。
──ただ穏やかに眠っているように見えた。
震える手で、ゆっくりとミルカの身体を抱き寄せる。
「一緒に……帰ろう、ミルカ……」
「不死鳥、バビロン……ミルカと2人きりにしてくれないか?」
「わかった…」
力なく垂れた腕を、自分の胸の中に包み込む。
歩き出しながら、まるで起こそうとするように、優しく語りかけた。
「なぁ……ミルカ……寝てないで、起きろよ」
「いつもみたいに、笑ってよ……」
グッとミルカの顔を力強く引き寄せる。
涙がミルカの頬に落ち、ゆっくり伝う。
「うぅ……」
「俺さ……お前のこと……好きだった」
その声は、嗚咽にかき消されていった。
数時間後、王国サハラはカナンを統一。
──戦争は終結した。
霊獣使いの死とともに、契約は失われる。
その後、何十人もの霊獣使いが現れたが、戦争は再び起こらなかった。
人と霊獣は、魔物に対抗するため手を取り合ったのだった。
───
そして今。
「私は……あの子の分まで、生きるって決めたの」
目を閉じて微笑むドラコ。
「だからこそ――ハンナには、笑っていてほしいのよ」
「恋して、幸せになって。あの子が願った未来で、生きてほしのよ」
「そうか……」
「だからダンドドシン、二人の邪魔しないであげて」
「おいら、ダンゴムシだから、わかんないけど……なるべく気をつける!」
ダンさんが小さくあくびをする
「おいらもう寝るわ……おやすみドラコ!」
「ありがとうダンドドシン。おやすみ」
ダンさんはリクの家に戻っていった。
ドラコは湖畔を眺め
──ミルカの笑顔を思い出す。
『この戦争が終わったら、告白するの!』
そっと目を閉じ、ドラコの頬に涙が伝う
(………戦争なんて……クソ喰らえだわ……)
続く
この物語はファンタジーの世界を舞台にしていますが、願いはひとつ——戦争のない未来です。
どんなに美しい世界でも、戦争は家族や恋人、大切な人を容赦なく奪っていく。
だからこそ、現実に近い感情を込めて描きました。
穏やかな日常があることに、心から感謝します。
この物語を通して、戦争によって命を奪われた方々へ、深い祈りと敬意を込めました。
どうか、誰かを想う気持ちが届きますように。




