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第10話 化学兵器の発明者と上空からの監視者

 湿った地下室。

赤黒い油ランプが、ゆらりと揺れる。


壁にかけられた薬瓶、異形の器具、割れた試験管。


机の上のガラスケースの中には、ゆっくりと呼吸をするかのように動くスライムが一匹、存在していた。


白衣を着た中年の男は机に両肘をつき、そのスライムを見つめながら、ぼそりと呟く。



「……ダンゴムシのクセに」

「俺が調合した重金属の毒を……無毒化しやがって……まさか腹の中でイオン結合出来るとは……」

「しかし……妙だな……。ヒ素は結合不可能なはず……本来であれば腹で溜まって死ぬはずなのに……」


「なぜだ……霊獣使いのせいか……?」


歯をギギギと食いしばる。

目の奥には、常軌を逸した執念が宿っている。

「……あの霊獣使い。あいつの“霊力容量”が異常に大きいのか……」

「ダンゴムシごときが生き延びた理由は……奴が支えているからか……」


男の指先が机をコツコツと叩く。

「つまり……奴を排除すれば、全て崩れる……」



男は椅子から立ち上がり、狂気を含んだ笑みを浮かべた。


「……そして!」

「このスライムの毒なら……」


その体は透明で、しかし微細な黒い粒が絶えずうごめいている。


「……イオン結合は出来ない。だからあのダンゴムシも無力」

「伝説の霊獣 ドラゴンが浄化魔法を放っても、数時間はかかる……」



「火で焼けば、有毒ガス。村は壊滅……」

「フフ……あの霊獣使いがいくら足掻こうと、数時間も保たない……」



「ハハ……ハハハハハ!! 絶対に消せない、“魔物”の完成だ!!」



そこへ、影の男が再び現れる。


「計画は順調か?」



男は深く一礼し、狂気を秘めた眼で答えた。

「例の物はすでに湖に投入しています」


「あと一ヶ月後、白霊米はくれいまいの収穫が終わった頃……ちょうど湖に効果が出てきます」


影が静かに頷いた。


「よかろう。失敗すれば……お前の命はないと思え、ユダ」


影が闇に溶ける。


ユダは瓶を手にしながら、にやりと笑った。



「問題ない……俺が“科学”の勝利を証明してやる……」

「そして……あの霊獣共を必ず葬る……今回は絶対失敗できない……」



「ふっ……あの霊獣使い……観察していたが……女といたな……」

「せいぜい……恋愛でも楽しんでおけ」



影のような声が薄暗い地下室にこだまする。



────



 王都・霊獣管理協会本部。


分厚い書類の山の向こうで、ひとりの男が深く息を吐いた。


副総監ヤコブ――霊獣伝書バトの霊獣使い。


彼は今、五十羽の伝書バトと同時に視覚を共有していた。

窓の外に広がる青空も、路地裏の影も、すべてが彼の意識に流れ込む。


 

 額に汗が滲み、瞼は鉛のように重い。

 


「……やっぱり、見つからないか……」

 誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟く。



その時

扉が静かに開き、総監ヨハネが入ってきた。

白髪混じりの鋭い眼差しが、ヤコブを真っ直ぐ射抜く。


「どうだ?」

短く、それでいて重い問い。


ヤコブは目頭を押さえ、やつれきった顔で答えた。

「……すみません。何の手がかりもありません……」


「………」



ヨハネは肩に乗っている。

霊獣 不死鳥ふしちょうに向かって

不死鳥ふしちょう少し、部屋から出てくれないか?」

「はぁ……!? なんでだよ?」


「私はヤコブと話したい事がある」

「わかったよ……クソ……だりぃ…」


不死鳥はふわっと窓から飛び立っていった。





ヨハネは部屋の鍵をかけ、声を低める。


「話せるか?」


その声色に、空気がさらに重くなる。

「昨年の隕石の科学毒……隣国リザエルの攻撃ではないかと噂されている」


「しかし、証拠はない……」

ヨハネは机に手をつき、目を細める。



「……我らの国の優秀な科学者、ユダ。

 二年前から行方不明だ。そしてその家族も……」


 

「まさか……ユダが……?」

「わからん。金か……名誉か……人の心は、どう転がるか誰にも読めん」


ヤコブは拳を握りしめた。

「あまりにも情報が足りません……私が、もっと……」


「お前は少し休め」

「しかし……」


「一番大事な時に、疲れ果てていては元も子もないだろ」


「……家に帰れ。妻が心配するぞ」


 

その言葉に、ヤコブは一瞬だけ驚いたように目を開く。


任務では“冷徹非道”と囁かれる総監だが、前線では必ず自ら身体を張る――。


(……好きですよ、そういうところ)

心の中で呟く。



「総監も……お年ですから、無理はしないでくださいね」


「……黙れ」

 

ヨハネは短くそう返したが、その横顔にはほんの僅かに笑みが浮かんでいた。




 



続く

科学毒、重金属、ヒ素について

いろんなサイト、海外の和訳論文を確認していますが、ダンゴムシは重金属であればイオン結合出来るそうです。しかしヒ素は取り込めるけど、イオン結合出来ず無毒化不可能みたいです。※排出出来ると考える方もいるそうです。


現実世界と違っていたら……そこは異世界ファンタジーという事でぼかします。すみません……^^;

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