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第9話 ハリケーン再来

 昼すぎ。

リクの家で、リクとハンナが昼ごはんを食べていた。


バサバサッ!


窓の外に、一羽の霊獣伝書バトが降り立つ。


「ニコラだ!」

リクが声を上げた。


そのくちばしには、赤い手紙がくわえられている。


「赤……! 緊急警告だ!」

リクは慌てて封を切った。


「またハリケーンか! 去年来たやつと同じルートだ!」


 ニコラは、かつてナナのつがいだった霊獣伝書バト。

今は農業村リリンの守り手として、働いている。

「じいちゃんバト! 村中に知らせてくれ! 山岳地の人は教会に避難だ!」


「バサッ!」と二羽のハトは飛び立っていった。


 リクはぼそっと呟く。

「でもすごいよな……どうやってハリケーン予知してるんだろ」


ハンナは少し表情を落とし、静かに答える。

「……これは、私のお母様のカラスよ」

「えっ?」


「カラスの霊獣ヨセフ。災害の予知能力があるの」

「ただ、人の言葉は話せないから……お母様が夢で“可視化”して読み取るのよ」


リクは目を見開いた。

「ハンナのお母さん、すごいな……てかカラスも」


「ふふ、ありがと」


 リクは気持ちを切り替えるように拳を握る。

「よし、俺たちも家の補強するか。……今年はドラコがいるから、心強いな」


「ハリケーン横断中は、ドラコは教会で待機ね。すぐ動けるように」


ドラゴン使いが荒いわよー!」

窓からひょっこり顔を出したドラコが、ちゃっかり笑っている。


「準備完了!」


 

──ポツ、ポツ。

雨が落ち始めた。


「中に入ろう。強くなる前に避難だ」


ザーッ!

一気に雨脚が強まり、家を打ちつけた。



───


 リビング。

「ダンさん……去年のハリケーンの時、山岳地の人助けるために、巨大岩どかしたよね」

「懐かしいなリク!」


「今年は被害少ないといいな」


──トントン。


「ん? 誰だ?」

「去年もこの時間に来たし……タロさんかな?」


扉を開けると――


「……ハンナ?」


「うん……雨の音、ちょっと怖くて。リクの家で寝てもいい?」


布団を抱えたパジャマ姿。

長い髪を下ろしたハンナに、リクは一瞬フリーズする。


「お、おう……いいけど……」


「おいらは大丈夫!」

奥からダンさんの声が飛んだ。


「じゃあ……おじゃまします」


リクの心臓がドクドクと鳴る。

(ダンさんと三人だからいいか……)




──バァン!


勢いよく扉が開き、デカダンが飛び込んできた。


「兄貴! 白霊米の保護、頼みます!」

「おいらに任しとけ!」


ダンはすでに畑へ向かう準備を整えていた。


「おいら、白霊米の横で土に潜ってるだけだし! リク、ハンナ! おやすみー!」


──バタン。


こうして、家の中はリクとハンナ、ふたりきり。

外は嵐。

風が窓を揺らしている。


「じゃあ……おやすみ」

「……おやすみ」


 ランプが消え、雨音だけが夜を包む。


リクは横になりながらも、胸の鼓動が落ち着かない。


「……床痛くない? 俺が床で寝ようか?」

「えっ……いいよ。来たの私だし……」


「じゃあ……さ」

「リクの隣に寝ていい?」


「────!」


リクは必死に平静を装った。

「いいよ……横どうぞ」


 ハンナが布団に入ってくる。

背中合わせの距離。

ぬくもりがじわじわと伝わってきて――眠れない。


(……寝た、よな)


そっと振り返る。

安心しきった寝顔。長いまつげ。

リクの胸がくすぐられる。


「……リク?」


「っ!」

目が合う。

静かな時間に、心臓の音だけが響く。


「……ねえ……」


 

その時――


バァァン!!!!


轟音。窓ガラスが揺れ、リクとハンナが飛び起きる。


「うわっ!? なに!?」

「きゃっ!?」


カーテンを開けると――


泥だらけのダンさんが、全身で窓に張りついていた。


「おいら……白霊米守ってたら……風に持ってかれて……ッ!!」


リクとハンナ、固まる。


「タイミングがっ……!!」


嵐の夜は、外も内も大騒ぎだった。



───


翌朝。

空は青く澄み、被害はほとんどなかった。


「……お前ら、なんか変じゃない?」

ダンさんが卵の殻をポリポリ食べながら、じろっと見てくる。


「べ、別にぃ……?」

「なんにもないわよ」


ハンナはコーヒーを飲みながら、ちょっと早口。

リクも無意識に視線をそらす。


「なにその空気!」

ダンさんが頭を抱える。


「昨日おいら、体張って白霊米守ったのに!」

「そ、それは……ありがとう」

「うん、本当に感謝してる」


ふたり揃って頭を下げる。


……微妙に噛み合わない朝。


「リク、昨日は泊めてくれてありがとう。朝食ごちそうさま。家に戻るわ」

「うん」



──


 ハンナの家、昼下がり。


ハンナが花を眺めていた。

窓から顔を入れたドラコが、じっと見つめる。


「……リクのこと、気になってるんでしょ?」


「っ……!?」

ハンナが肩を跳ねさせる。


「その反応が答えね」

ドラコは微笑んだ。


「ち、違うってば!」

「ふふ。好きなのね?」


「な、なんでもないって!」


「昨日、何があったの?」

「……なにも……」


「はい嘘ついた。顔に出てる」


ハンナは俯く。

「……お父様は絶対に許さないわよね。“一般霊獣使い”との恋愛なんて」


ドラコは目を伏せ、静かに言った。

「そうね。あの人は地位と霊獣の能力しか見ない」


ハンナの手が、ぎゅっと膝の上で握られる。


「……リクが悪いわけじゃないのに」


ドラコはそっと頷いた。

「大丈夫。悩んでも、葛藤してもいい。でも“誰かを好きになる気持ち”まで否定しちゃダメよ」


「……うん」

ハンナの頬が、ほんのり色づく。


「ふふ。やっぱり、恋してる顔ね」

「も、もうっ! 茶化さないでよ!」


──でもその声色は、どこか嬉しそうだった。




続く

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