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第6話 霊力の矢とリクの挫折

「奥さーん、卵の殻、もらいに来ましたー!」


 リクは、村の外れにある養鶏場を訪れていた。

ダンさんや、ちびダンゴムシたちのカルシウム補給のためだ。



元気なマダムがにこにこしながら出てくる。


「そこに麻袋あるから、好きなだけ持ってって〜。あ、倉庫の方にも少し残ってたかも」



「ありがとうございます」


礼を言いながら、リクは奥の鶏用倉庫に向かった。



中は予備の餌袋が雑多に積まれ、少し埃っぽい空気が漂っている。


その隅――ふと目に留まる、木製の何か。


「……ん?」


近づいてみると、それは一本の古びた弓だった。

木のフレーム、擦り切れた弦。



けれど、手に取った瞬間――懐かしい感触が、ふっと手のひらに宿った。


「……奥さん、この弓って、もう使ってないんですか?」


「ああ、それね。昔、害獣が出たときに使ってたのよ。今は使わないし、処分するつもりだったの」


「……もしよければ、もらってもいいですか?」


「もちろん。好きにして〜!」


リクは礼を言って、弓を胸に抱えた。


(……アーチェリー部だったな、俺)


記憶の底から、静かにあの頃の情景がよみがえってくる――



────


 前世

高校のアーチェリー部



夏の風が吹く、屋外練習場。


遠くから聞こえる部員の声、リクは弓を構える。


ハンドルに手を添え、矢をそっと持ち上げて固定し、弦にのせる。


ぐっと右手を引き絞り、口元の位置で止める。


(……集中しろ)


左目を閉じ、的の中心をまっすぐに見据える。



『カチッ』とクリッカーの音が鳴り――


──シュパッ!


耳のすぐ横をかすめるように、風を裂いて矢が飛ぶ。


──バンッ!


的の中心に、矢が真っ直ぐに突き刺さった。




「咲夜先輩、今日もすごいですね……」


「実力だけは、全国レベルだからな」

「ふっ……実力“だけ”な」



そんな会話を木陰で聞きながら、リクは額の汗を拭った。


(練習なら、できるのに……)




けれど――



───


 県大会当日


(大丈夫、大丈夫……いつも通り、的を見て、弓を引いて……)


リクは自分に言い聞かせながら立っていた。

けれど、足はガタガタと震え、手のひらは汗で濡れていた。


矢をセット。


ガタガタと震え、角度が定まらない。


(くそっ……なんで……!)



ドクン、ドクン、と心臓の音だけがやけに大きく響く。


『カチッ』


──シュッ


放たれた矢は、的の外へ。


続く二射も、端、また端。

結果は、目を背けたくなるほどのスコアだった。


控え席に戻る途中、背後から聞こえてきた小声。


「……三年であれかよ」  

「一年の俺の方が点数いいじゃん。練習だけできても意味ねーな」



(……わかってるよ。俺がいちばん……わかってる)


(本番で結果を出せないのは、全部、俺の弱さだ)



その日を境に、俺はアーチェリー部に顔を出さなくなった。



───


 そして今、異世界で。

リクは、古びた弓を胸に抱きしめる。



「俺は……もう逃げないって、決めたんだ」

握る手に、少しだけ力が入る。



これは、逃げ続けた過去への、小さなリベンジ。

でもきっと、今の自分なら――


また、前を向ける。



───


 翌朝


リクは庭に出て、木の幹に的を張っていた。

手には、一本の弓を持っている。


そこへ、ダンさんがやってきた。


「おぉ! リク、どうした?」


「この前、養鶏場に行ったらさ。古い弓矢があって、もう使わないからってもらったんだ。ちょっと試したくて」

 

(昨日、弦は張り替えて、弓は磨き、蝋で手入れした)

 


 そう言って、リクは一度構える。

「えっと……矢は左手の人差し指に一時的に置く感じか……」

 

(アーチェリーとは全然違う……けど)

 

片目を閉じ

ギギギ……と弦がきしむ

  

シュッ!



矢が飛び、見事に的に命中する。

 

「………」

  

(クリッカーがないから、感覚でやるしかないけど……今でだいたい分かった)

 


シュッ!

シュッ!

 

矢はすべて的の中心に刺さっていた


 

「えっ!? リク、弓矢すごい! なんでそんな上手いの!?」


「俺、前世の時、アーチェリー部だったんだ」


 

「でもさ……練習しか上手く出来なくて……結局、途中で辞めちゃったんだよね」


 

「でもさリク! その弓に“霊力”のせて撃ってみたら!」

「霊力を……のせる?」



「そう! 霊力のせた矢なら、魔物にも攻撃が効く!」

「リクは霊力の容量、多いからさ。ちょっとくらい放っても大丈夫」


「え、でも……どうやって霊力をのせるの?」

「おいら霊獣だから、そこはわかんない!」


「……じゃあ、ハンナに聞くか」



 家の方へ向かい、眠そうなハンナに声をかける。

「ハンナ。どうやって霊力って矢にのせるの?」

「……朝起きたばっかなんだけど」

「ごめん……俺たち、朝起きるの早くて」


「ふふ。いいわよ、教えてあげる」

ハンナはまぶたをこすりながら、やさしく言った。


「霊力は"鮮明に想い描く事"が大切なのよ」

「想い?」


「そう。たとえば今は、“的の中心に当てたい”って思ってるでしょ?」

「でも、霊力をのせるには、もっと強くて具体的なイメージが必要なの」


「たとえば――“この木を破壊する”って思い描くの。心の中で、鮮明に」


「えっ? 木を……?」

「まあ、たとえばの話」


「じゃあ、試しに――右の枝を“薪にするために落とす”って想いながら撃ってみて」


「……わかった」

リクは息を整えて、弓を引いた。


(当てる……絶対に……そして、あの枝を薪の材料にする!)


シュッ!!


矢が放たれ、枝に命中した瞬間――


「パァンッ!」という音を立てて、枝が弾かれるように折れて落ちた。


普通の矢では絶対に折れないはずの枝だった。


「い、今のって……!?」


「リク!! すごいじゃない! できてるわよ!」

「これなら雑魚魔物くらいなら、十分倒せるわ!」


「……マジで?」



(けど……俺は、本当に……本番で撃てるのか……)




──その時!


上空に、不気味な影が差し込んだ。

鳥型の魔物が、鋭い鳴き声を上げながら急降下してくる!


「ドラコ!」

尻尾を構えたドラコに、ハンナが慌てて声を飛ばす。


「待って! リク! 矢で狙ってみて!」


「──っ!」

「わ、分かった!」



リクは弓を構える。

(練習通り……大丈夫、落ち着け……)


けれど、ドクンドクン……と胸の鼓動がうるさいほど響き出す。


(出来たはずだ……同じように……!)


片目を閉じ、ギギギ……と弦を引き絞る。


目前まで迫る鳥魔物!

──シュッ!


矢は……魔物の横をすり抜けた。


(外した……! くそっ!!)


思わず手元を見る。

指先はカタカタカタ……と震え、狙いをつけても弦が定まらない。


「なぜだ……! なんで俺は……本番でだけ……!」


必死に撃つが、矢は虚しく空を切る。


迫る鳥型の魔物。

リクめがけて一直線に――!


「──っ!」


瞬間、ハンナが飛び出し、短剣で魔物を切り落とした。

羽ばたきが止まり、地面に転がる魔物の残骸。


「リク、落ち込まないで!」

ハンナは真剣な目で言う。


「鳥型の魔物は動きが複雑なの。外したって仕方ないわ」


「……」

(いや……これは違う。魔物のせいじゃない……俺の、心の弱さなんだ)


ダンさんは黙ったまま、心配そうにリクを見つめていた。






続く


※クリッカーは常に一定の引き尺で引くための道具です。アーチェリーでは小さくカチッと音がします。

※改稿でリクが本番で失敗するシーンを追加しました。

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