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第4話 霊獣と魔物、霊力と魔力

 翌朝――

朝の光が優しく差し込むころ。

リクは裏庭で洗濯物を干していた。



――そのとき。

背後に視線を感じて、びくっと振り返る。



「……!」

ハンナが自分の洗濯物を干していた。



リクは慌てて顔をそらす。


 

「そういえば……この前思ったんだけど……」

ハンナがズンズン近づいてくる。


「えっ、な、なに?」


リクの二の腕を軽くつかむ。

「えっ!」



「……ヤコブ叔父様のほうが、まだ筋肉あるわよ」

「40代の副総監に負けてんの……!?」


「筋肉と霊力は無関係。でもね」

ピシッと指を立てて、ぐっと真面目になる。


「魔物が来たとき、自分くらいは自分で守りなさい。命、落とすわよ」


「分かった……」

 


ふとハンナが何か思い出したように、


「そういえばさ、霊獣と魔物の違い、ちゃんと分かってる?」

「え、えーと……」


「……まさか知らないの!? 10歳で習うやつでしょ!?」


「うっ……」

(転生してきたから、よく知らないんだよね……この世界)


ハンナはため息をついて、仕切り直すように口を開いた。


 

「霊獣ってのはね、ある程度長く生きて、ちゃんと知恵がついた子たち。 で、そういう子たちは“契約”できるの」

「うん、ダンさんがそう言ってた。100年生きて契約できたって」


「そうそう。あれくらい長く生きてると、人の言葉も分かるし、理性のコントロールも出来て、人間と一緒に戦えるくらいの存在になれる」



「じゃあ……魔物は?」

ハンナの表情が少し硬くなった。



「魔物はね、欲望に呑まれて本能だけで動いてる存在。 理性とか、そういうのはなし。ただ、壊したくて壊す感じ」


「怖……」


「怖いわよ。でもよくいるのよね。 魔力が濃い場所とか、山や洞窟とかにうじゃうじゃ湧いてくる」


「……霊獣と魔物って、同じ“魔力”持ってるのに、どうしてそんなに違うんだろ」


「いいとこ突くじゃない」

 

「魔力ってのは、土地とか空気に宿るエネルギー。自然の力みたいなものね。水、火、雷とか」


「で、霊力ってのは、“命”の中にある力。人間や動物が生きてるっていう証、簡単に説明すると″生命エネルギー″かな」


 

「霊獣は魔力も持って、魔法も使えるけど、霊力で“繋がって”契約する相手を選ぶ。 だから一緒に戦ったり支え合えたりするのよ」


「魔物は逆。魔力だけで動いてるから、制御もできないし、欲望のまま行動するの」


「でも霊獣は持ってる霊力が少ないから、霊獣使いから霊力を借りて、魔力を高め強い魔法を使えるの」


「なるほど……なんとなく分かってきたかも」


「良いわね」


「ところでさ……リク、霊獣って“一人一体”が基本って、知ってた?」


「うん、なんとなく。ダンさんも“リクの霊獣になった”って言ってたし」


「そう。霊力を分け合うから、そんなに何体も契約できないの。霊獣側も、一人の人間と深く繋がるのが基本だからね」


 

ふっと得意げな顔をする

「でも――叔父様は別格なの」

「ヤコブ副総監が……?」


「ええ。今の契約数、いくつだと思う?」

「えっ……ニ体とか……?」


「ふふ、甘いわね。正解は――五十体」

「ご、五十!? え、ムリでしょ!?」


「普通はね。霊獣伝書バトだから可能なの」

「霊獣伝書バトだから……可能?」


「そう。魔力がほとんどない、霊獣。 例えば、手紙を運ぶとか、必ず戻ってくるとか

出来る事は限られるけど、契約に必要な霊力も少ないの」


「そうなんだ……」

「あと、視覚共有もできるし、鳴き声での簡易コミュニケーションも可能。 しかも見た目はただのハトだから、敵にもバレにくい」


 

「それを五十体も……!?」


「そう。叔父様は、全ての霊獣伝書バトの視界を並列で把握して、戦況を常に読んでるの」


「……もうそれ軍隊の司令官じゃん……!」



ハンナはちょっと笑って肩をすくめる。

「五十人が同時に動いて、それの動きを全部記憶、理解しながら更に指示を出すの。正気じゃないわよね」


「す、すごいな……ヤコブ副総監……」


(現実世界で例えると……映画を五十作品当時再生で、それを全部理解しながら他の人と、会話する感じ……!? めまいしそう……)



「でしょ?  叔父様はずっと努力を続けて、副総監になったのよ」



「リク、あなたはまだ若いんだから、まずは筋トレから」

「はい……」


ハンナが、ふぅと一息ついて言った。

「さてと……一通り説明できたわね」


「え……?」



ハンナがこちらを見て、にっこり微笑む。

「リク、今から私の部屋に来てくれない?」


「……えっ!?」

(今まで、女の子の部屋なんて行ったことない……)



「ほら、早く」

くいっと手を引かれる。



ハンナの家は、シンプルだった。


テーブルと椅子。 紅茶のカップに、小さな花瓶。壁には鏡と短剣。



どこか整っていて、すっきりとした雰囲気。 でも、その端々には彼女らしい丁寧さがあった。



「ここが私の部屋」


ハンナに手を引かれ、通されたのは彼女の寝室だった。

朝日が差し込み、白いシーツが柔らかく光を返す。


思わず足が止まる。

「ここがハンナの部屋……」



ベッドの横に、ぎっしり詰まった本棚がそびえていた。


ハンナは迷いなく本棚に向かい、慣れた手つきで本を選んでいく。


「えっと、まずは……《霊獣契約本書 第一巻》ね」

「それから……《霊獣魔法 第一巻》」

「……あ、《魔物の基礎図鑑》も忘れちゃだめ。あと……」


「……ハンナ……?」


「うんっ!」



笑顔で、ずしりと重い本を10冊、リクの腕にどんと積み上げる。


「重っっっ!!」



「ちゃんと読んでね。あと、わからないとこはダンさんに聞けばいいし」

「えっ、あっ、うん……」


ハンナは少し視線をそらして、小さく言った。


「……もし本、もっと読みたくなったら、また、ここの部屋にいつでもいいわよ」

「えっ……」


「……ちゃんとノックしてくれれば、だけど」

リクは一瞬きょとんとしたあと、あわててうなずく。


「う、うん! ノックする! 」


ハンナは、ふふっと笑った。


 

本はずっしりと重い。でも、不思議とその重みは悪くなかった。




続く

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