第3話 魔物襲来
白霊米がすくすく育ち、リリンの田んぼは今日も平和だった。
浮き輪をつけて、水田の中をぷかぷか移動するダンさん。
「ふぅ〜……のどかだなぁ」
――しかし、その時。
地鳴りのような音が響いた。
ドドドド……!
草原を揺らしながら、イノシシのような魔物がよだれを垂らして迫ってくる!
「はっ……!」
リクの背中に電流のような感覚が走った。
「なんだこの気配……!」
「ダンさん!!」
「おう、来たな魔物!」
「こんな感じ初めてだ」
「リクの危機管理能力が魔物の気配に反応したんだ!」
「白霊米が少し育ったからかな?」
「この前田植えしてた時、来た鳥型の魔物よりデカい……」
リクとダンが外に出ると――
ドラコが庭先で昼寝していた。
「えっ、ドラコ!? ハンナは?」
「……んあ? 寝てたのに騒がしいわねぇ」
あくびをしながら顔だけ上げるドラコ。
「ハンナなら温泉行ってるわよ」
「何か近づいてきてるぞ!」
「知ってるわよ」
「なんでそんなのんびりしてるんだよ!」
「はいはい、わかったわよ」
ふわっ……
ドラコの巨大な身体が、まるで空気のように浮き上がったかと思うと、一瞬で姿が消えた。
「えっ……!? ドラコ?」
次の瞬間――
ズドォォン!!
空から何かが落ちてきた。
それは、魔物のイノシシだった。
地面に叩きつけられ、すでに絶命している。
その横に、優雅に着地したドラコ。
「今日はしし鍋にしましょう♪」
「えっ!? 倒したのか……?」
「しかも、ハンナ抜きで……?」
「こんな雑魚、私の尻尾で一発よ」
「……ドラコ、強っ……」
その時、頭にタオルを巻いたハンナが帰ってきた。
「ただいまー。魔物来てたんでしょ?」
「知ってたのか!?」
「うん、でも雑魚だったから。ドラコに任せて、そのまま温泉入ってたわ」
「お前……龍使い、荒すぎるぞ……」
「いいじゃない。ドラコ、イノシシ好きなのよ」
リクは苦笑しながらつぶやいた。
「やっぱこの2人……強ぇわ……」
───
ドラコは、大きな爪を器用に使い、イノシシの魔物をさばいていた。
ザク、ザク……。
まるでプロの料理人のような手つきで、筋を断ち、骨を外す。
「魔物は“魔障”をまとってるから、そのまま人間が食べるとお腹痛くなるのよ」
ドラコは、肉全体に淡い白い光をまとわせると――魔障をすっかり浄化した。
ダンさんは驚いた様子で
「ドラコは浄化魔法が使えるのか……他にもなにか、魔法が使えるのか? 龍は複数の魔法が使えるって聞いた事がある!」
「ふふ、ヒ・ミ・ツ」
フリーズするダンさん
「………」
「おいらは、土を豊かにする魔法だけだからな……」
「すげぇ……」
リクは思わずつぶやく。
「おぉ! 魚ばっかりだったからな、久々の肉は嬉しいなぁ!」
タロさんが目を輝かせた。
「これ、村のみんなにも振る舞おうぜ!」
「おいらも賛成ー!」
リクは、メモにサラサラと文字を書く。
近くの丸太の上で羽を休めていたおじいちゃん伝書バトに話しかける。
「おじいちゃんバト! 村の皆に“今夜ここでしし鍋”って伝えて! このメモ皆に見せて」
ポッ……と鳴いて、伝書バトがのんびり空へ飛び立っていく。
ハンナは、それを黙って見ていた。
「……この村の人たちって、霊獣使いと仲がいいのね?」
「うん。よく一緒にご飯食べるし、収穫祭の時は皆、誰の家にも自由に出入りするよ」
「…………」
「ハンナ、どうしたの?」
「……ううん、なんでもないわ」
「普通……霊獣使いは一般人と仲良くできないって思ってた」
「えぇ? なんで?」
「……」
「お母様も霊獣使いだけど、過去……街を歩いてるだけで、『税金どろぼう』『普段何もしないクセに』って物投げられたって聞いていたから……」
「私達霊獣使いは、嫌われていると思っていたわ」
「農業村リリンは、皆いい人だから大丈夫だよ」
ふっと笑う。
「心配なら俺の横で一緒に食べようよ」
「………」
(最初、村人に嫌な顔されるのかもってかなり気を張っていたけど、ここの人は皆優しい)
(特にリクは普通の霊獣使いとは……違う)
(霊獣使い側も何もできない一般人を見下していて、ずっと距離があると聞いていた)
(ヤコブ叔父様が言っていたのは――こういうことだったのかもしれない)
────
村人はハンナを歓迎し、
ハンナも最初は緊張していたが、次第に笑顔を見せ、打ち解けていった。
猪鍋を食べ終え、片付けをしていると――
「リク、今日はありがとう」
「ん? 俺、何か特別なことしたか?」
「……なんでもない。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
その表情は、先ほどまでの硬さが取れ、穏やかさを帯びていた。
ドラコが二人の様子を、静かに見守っていた。
───
リクは、サウナで汗を流し、湖にゆっくり浸かったあと――
芝生の上に、ごろんと横になっていた。
夜風が気持ちいい。虫の声も遠くて、静かだった。
そこに――
ふわっと風が舞うように、ドラコが現れた。
「おお? ドラコ、どうした?」
「ハンナは?」
「寝たわよ」
「ちょっと、リクと話そうと思ったのよ」
「ふーん……」
「リクってさ、ハンナのこと、気になってるの?」
「ぶふっ!」
いきなり核心を突かれて、リクはむせた。
「いいじゃない。男同士の話だし?」
「お前……どっちなんだよ、本当に」
「外見はオス、中身は乙女よ」
「名探偵コ◯ンかよ……」
「1000年以上生きてると、どっちでもよくなるのよね」
「そういうもんか……」
しばし、ふたりの間に沈黙が落ちた。
湖面を撫でる風が、草をかすかに揺らす。
ドラコが、ふっと遠くを見つめながら言った。
「長生きって、素晴らしいって思うじゃない?」
「でもね、出会いがある分だけ、別れもあるの」
「霊獣使いはね、これまでに300人以上と契約してきたわ」
「みんな……死んじゃった」
「寿命で?」
「……戦争よ」
「……え?」
「今でこそ、この国は一つにまとまってるけど――
昔は違ったの。国が分かれていて、日々、戦争だった」
「私たち霊獣は、そのたびに“戦争の道具”として使われてたのよ」
「……私は、元々は“竜”だった。霊獣使いの相棒を守るために――たくさんの霊獣を殺したわ。同じ、竜の仲間さえも……」
「……」
「何年も、何十年も、何百年も戦争が続いた。関係のない子どもたちが死んで、霊獣も、霊獣使いも、次々に命を落としていった。それでも、人間は変わらなかった……」
「……」
「ようやく、ここ百五十年は戦争もなくなったけどね」
「戦争が終わって、私たち霊獣の仕事も、“魔物から人を守る”って平和なものになった」
「それで……気が抜けて、今の“オネェ”になったってわけ」
ドラコは冗談めかして笑ったけど――
その目は、遠くを見ていた。
「本当に怖いのは人間よ。魔物なんて、かわいいもの」
「……ドラコ」
「だからね、ハンナには……生きてる間だけでも、幸せになってほしいの」
「……」
「リク、ハンナには霊獣 龍使いのハンナではなく、一人の“女の子”として接してあげて」
「……ああ。わかった」
「ふふ。ありがとう」
ドラコは優しく微笑んだ。
「じゃあ……おやすみ、リク」
風がそっと通り過ぎ、ドラコの姿も、草の揺れの中に溶けていった。
続く
これからのダンさんやリク、ハンナ、ドラコの展開をお楽しみに♪♪
投稿が不定期ですみません……。
ブックマークをして頂けると最新話が読みやすいと思います。後、作者が飛び上がるほど喜びます
ヾ(。>﹏<。)ノ゛✧*。執筆頑張ります
タルトタタン




