第2話 ハンナの歓迎会
「リク、この村の事、いろいろ教えてくれない?」
ハンナが小さく首をかしげて、真っすぐリクを見た。
「あっ、うん。いいよ」
頭上でドラコが翼を広げる。
「私は上空から偵察するわ」
「ドラコお願いね」
その横で、ダンさんがひょいと手をあげる。
「おいら田んぼ戻る!」
「ダンさん了解!」
残ったのはリクとハンナ。二人だけ。
リクとハンナは、並んで村を歩く。
案内するのは、教会、養鶏場、酪農舎。
そして、最後にたどり着いたのは湖だった。
夕日を反射し、金色に揺れる水面。
風がさざめき、空気そのものが幻想めいていた。
「……本当に綺麗な村ね」
ハンナが目を細め、湖を見つめる。
金色の髪が光を返し、その姿は景色に溶け込んでいた。
俺はその瞬間、目を離せなくなった。
リクはふと思い出し、口を開く。
「そういえば……ハンナたちの住む場所、どこなのの?」
「えっとね――リクたちの隣のログハウスよ」
「えっ!? ……お、隣?」
「霊獣使い同士、仲良くしましょ?」
ハンナはさらりと笑う。
「……!お、おう」
思わず言葉が詰まるリク。
慌てて目をそらす俺を見て、彼女は笑った。
──その時。
「おーい! 霊獣使いの子、夕飯リク君の家で皆で食わないか?」
タロさんの大声が飛んできた。
「えっ……霊獣使いの私が……いいんですか?」
「皆で食った方がうまいだろ」
タロさんは笑う。
「ありがとうございます」
「まったく……タロさん勝手に決めすぎだよ」
「いいだろ、家族みたいなもんだ」
そんなやり取りを、ハンナは静かに見つめていた。
湖面に風が渡り、空気がやわらかく流れる。
──
その夜。
ログハウスの土間では、ささやかな歓迎会が開かれた。
窓を開け放ち、初夏の風が吹き抜ける。
木の香り、土のにおい、そして料理の匂い。
「今日はサーモン釣れたからな!」
タロさんが掲げる魚は堂々としていた。
「ムニエルにするぞ! 香ばしく焼く!」
ジュッ、と油がはじける音。
もう一方のフライパンでは、にんじん、ズッキーニ、パプリカ、玉ねぎ、ナス、セロリ……
リリン自慢の野菜が鮮やかに炒められていく。
「ハンナちゃん、農業村リリンへようこそ!」
掲げられたワイン。ハンナも笑顔でグラスを合わせる。
テーブルに並ぶのは、黄金色のサーモンムニエルと野菜ソテー。
飲み物は、タロとハンナがワイン、リクとハンナはぶどうジュース、ダンさんは水。
そしてドラコは――窓の外から、顔だけ突っ込んでいた。
「ありがとうございます、みなさん」
ハンナが一口食べ、目を見開く。
「……美味しい! 野菜も魚も、素材の力がすごい!」
「だろ? リリンのご飯は最高なんだ」
リクも思わず笑う。
ハンナがやわらかく微笑み返す。
心地よい空気の中で、ふとハンナが尋ねてきた。
「ねぇ、リクってお酒、飲まないの?」
「え? あ、うん……」
(日本じゃ二十歳からなんだけど)
「この国は十八歳から大丈夫。もう“大人”でしょ?」
リクは少し考え、肩をすくめる。
「……じゃあ、ちょっとだけ」
タロさんがニヤリと笑い、グラスを差し出す。
「おお? ついに飲むか、大人の階段!」
窓辺で風に揺れるルビー色の液体。
「ジュースとそんなに変わらないだろ」
そう言って口に運んだ瞬間――
「……にがっ!」
顔をしかめるリク。
「ふふ、それがワインよ」
ハンナが笑った。
リクは頬をかきながら、苦笑いする。
「……ハンナの方が、大人っぽいな」
村の夜は涼しく、風が気持ちいい。
だけど俺の胸の鼓動だけが、不思議と熱を帯びていた。
──俺はきっとハンナに一目惚れしてしまった。
続く
※日本の飲酒は20歳からです。
フランスでの飲酒は18歳から可能です
こちらの世界観はフランスの南地方の田舎を想像しています。




