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第13 王都はもうこりごり

 農業村リリンの空は、いつも通り青かった。

湖畔の空気は澄み、畑には朝露がきらめいている。土を耕すダンゴムシたちが、今日もせっせと働いていた。


「リク、今日のカレーはカニ入りだぞ!」  


「贅沢すぎない?  ダンさん……カニの霊獣に怒られない?」  

「平気、平気! カニの霊獣いないから!」



「今日風が気持ちいいから、外で食おう!」

 釣り人のタロさんと一緒に、屋外でカレーの試作をしていた。


土鍋の中では、海と大地のうまみがふつふつと踊っている。


テーブルとイスを屋外に出し、昼食の準備をしていた。



 そんな穏やかな昼下がり、王都から数台の馬車がやってきた。


 馬車から降りてきたのは、貴族服をまとった数人の官吏たち。緊張に包まれたその表情が、場の空気をわずかに引き締める。

 


タロさんは慌てて、屋内に逃げる

「なんだ! なんだ!」


窓から外の様子をのぞく



 「霊獣ダンドドシン様!  王国民一同、深く感謝申し上げます!」



 官吏は深く頭を下げた。 その後ろには、王都の旗を掲げた兵士たちが整然と並んでいる。


 「瘴気の浄化、隕石の処理、王都の守護――  そのすべてが、あなたとリク様のご尽力によるものでした」


「国としては、ダンドドシン様を“農林大臣”に任命したく――」  

「さらに王都の一等地に、霊獣居住区をご用意いたしました」




ダンさんはきっぱりと答えた。  

「湿り気がないから、やだ!」


官吏が目を瞬かせる。   

「えっ……?」



「王都の空気、乾いてて苦手なんだよな。  おいら、ここの土と野菜の方が合ってる!」




「……ですが、世界の英雄として――」



「ありがとな! でもこの村が好きなんだ!」


「おいら土と一緒に生きたい!」





官吏たちは明らかに困惑していた。

だが、それ以上は何も言えず、深く礼をして馬車に戻っていった。



残されたひとりが、静かに歩み出る。


「おっす」


 肩に伝書バトを乗せた男――副総監ヤコブだった。


 「ヤコブ副総監……!」


 「ナナの墓参りに来た」

低く抑えた声が、湖畔の空気に滲んだ。


後ろに控えていた部下たちが、きびすを返す。


「副総監、我々も同行を――」

「いや、いい。ここから先は私のプライベートだ」

「お前たちは先に王都へ戻ってくれ」


「……了解しました」


「私はのんびり歩いて帰る。ちょうどいい運動だ」


 ヤコブはリクの方へ向き直る。

「リク君、改めて感謝を。君の働きが、王都を救った」


「ありがとうございます」

リクがまっすぐ頭を下げる。



「ナナの墓の場所、案内してもらえるか?」

「わかりました」


ダンさんはぴょんとイスに飛び降りる


「おいら、タロさんとカレー作ってここで待ってる!」

「わかった」



「ヤコブさん、向こうです」


「ありがとう」

ヤコブは景色を眺めながら歩き出す



 湖のほとり、いちばん大きな大樹の根元。


そこに、ナナのための静かな石碑が置かれていた。


ヤコブの肩にいた伝書バトがバサバサと羽ばたき、石碑の前に降り立つ。



 その小さなくちばしで、石をそっとついばむようにすりすりと寄り添った。


「こいつ……ナナのつがいだったんだ」

「そうだったんですね……」


 

「どうしても……連れてきたかった」

ヤコブの目元が、少しだけ濡れていた。


トウモロコシの入った布袋をそっと置く

そして、石碑を優しく撫でる。



「ナナ……お前は私の最初の霊獣だったな。

いつも私が頼るばかりで、結局お前を守れなかった」


「けど、これからは違う。私のやるべきことを、必ず成し遂げてみせる。見ていろ、ナナ」



「また、私は来るからな」


リクはヤコブの姿を見て、目頭が熱くなった。




ヤコブは大きく息をはき、

湖の景色をしばらく眺めていた。



「王都には、霊獣をただの“駒”として扱う者も多い。

 でも私は違う。……君のような霊獣使いが増えると、いい世界になると思う」


「僕も……ダンさんと、もっと頑張ります」 




「リク君、王都で私の元で働かないか?」

「えっ……」


「霊獣管理協会本部なら、敷地内に噴水だってある。ダンドドシンも暮らせる」



リクは視線をそらす。

「とても嬉しい事ですが……お断りします。ダンさんとここで暮らしたいです」



「そうか、それは残念だ」

「すみません……」



ヤコブはふっと微笑み。

「気にするな」



 そこへ、どこからともなく声が飛んできた。


「おーい、軍服のあんた!  カレー食ってくかー?」


 タロさんが屋外のイスに座りながら手を振っている。


タロが目を細め、ヤコブをみつめる

「なんか……肩にいっぱいついてるようにみえるな……あんた、偉いのかー? 」 


「いや! 偉いやつがこんな田舎来るわけないか! アハハ!」


「タロさん! この方は、副総――」


「いやいや、今はただのヤコブだ。

 プライベート中だからな。その、カレーという物、ぜひいただきたい」


 「おお、そうかそうか。食うなら今だぞ―。 冷める前にな!」


 (……知らないって、ある意味すごい)


 リクは小さく苦笑いを浮かべ、ヤコブとともに屋外に設置されたテーブルへ向かった。





続く



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