第12話 副総監・霊獣伝書バト使いヤコブ
ダンさんが水を浴びて、ぺたりと座り込んでいたそのとき。
「ぜぇ……ぜぇ……君たち……もしかして、霊獣ダンドドシンと、使いのリク君……か?」
振り返ると、霊獣管理協会の軍服を着た中年の男が、木の枝を頼りにふらふらと歩いてきた。
「誰……?」
とリクが警戒をにじませると、男は苦笑した。
「おっと、すまない。私は霊獣伝書バト使いのヤコブ。霊獣管理協会本部の――副総監だ」
「副……!?」
リクが反射的に背筋を伸ばす。
ヤコブはリクに軽く頷いてから、ダンさんに視線を向ける。
「ダンゴムシの霊獣……土壌を浄化するっていうのは知っていたが、聖竜でも浄化出来なかった瘴気を浄化できるとは……」
「おいら、隕石の瘴気の正体が科学毒とは思わなかった!」
「たまたま得意分野だっただけ!」
ダンがぴちゃぴちゃと水を飲みながら、ぼそりと呟く。
ヤコブは、その言葉に微かに目を伏せると、ふと何かを思い出したように顔を上げた。
「……ナナは無事か? あの特命伝書バト、まだ戻ってこないんだ……」
リクは、慎重に言葉を選びながら答える。
「……特命伝書バト・霊獣ナナは……手紙を届けたあと、亡くなりました」
「……えっ」
ヤコブの顔から血の気が引く。
木の枝が滑り、彼はその場に膝をついた。
「そうか……全速力で、届けに来たんだな……あいつ……」
「うぅ……」
ヤコブは溢れる涙を止める事が出来なかった
小さな嗚咽が、静かに漏れる。
「頑張ったんだな……ナナ……」
「でも……間に合って、よかった……」
リクがそっと寄り添いながら言う。
「最後……穏やかな顔してました」
「……そっか……そうか」
ヤコブの肩が小さく震えた。
「霊獣ハト一羽って思われがちだが……あいつは、にとっては……大切な、大切な相棒だったんだ……」
「……悲しいですよね……すごく……」
「……リク君、優しいな」
(大切な相棒を失うのはつらい……。真っ白なダンさん見た時、胸が張り裂けそうになった……)
(今は寄り添うことしか俺にはできない……)
「すまないな……ありがとう」
「ずっと悲しんでいたら、ナナに怒られそうだ」
涙を拳でぬぐう
ヤコブは顔を上げ、少し鼻をすすってから立ち上がる。
「私たち、霊獣管理協会本部の霊獣や使いたちは……君たちの浄化が三十分遅れていたら、死んでいた。総監は意識不明で一番危なかった」
彼は深く、ゆっくりと頭を下げた。
「霊獣管理協会本部を代表して、礼を言わせてくれ。ありがとう、霊獣ダンドドシン」
「おいら、ちょっと土を食って、重金属を片づけただけだぞ……?」
ダンさんは照れていた。
ヤコブはその様子を見て、静かに笑った。
「君にしかできなかった。……本当にありがとう」
ダンさんはくるりと丸くなった。
「おいら、褒められるの照れる!」
「リク君、君もずっと、ダンドドシンを支えて、素晴らしい霊獣使いだな」
「いえ……自分は何も……」
「君がいたから、ここの王都の霊獣、霊獣使い、住民は助かったんだ。胸を張って欲しい」
「ありがとうございます」
「私はまだ、たくさんやることがあるから、霊獣管理協会本部に戻るよ。総監はまだ動けないからね。私が指揮しないといけない」
「副総監、何か手伝います!」
「じゃあ……農業村リリンに戻って……ナナを木の近くに埋めてあげて欲しい。あいつ……自然の中で景色見るの好きだったから」
「……わかりました」
「じゃあ気をつけて!」
会釈して去っていくヤコブ
「副総監なのに、いい霊獣使いだな!」
身体を半分丸め、コソッと話した。
「リク〜、王都、乾燥しててイヤだー!」
リクが笑った。
「帰ろうか。農業村リリンへ」
ふたりは、ゆっくりと歩き出した。
続く
霊獣たちの舞台裏
本編では描ききれませんでしたが――
王都を襲った隕石災害の背後では、霊獣たちの懸命な働きがありました。
最初に異変を察知したのは、霊獣フクロウ。
北西の空に異常な発光体を確認し、即座に霊獣管理協会本部に報告。
雷神鳥が指令を受け、雷撃による迎撃、
隕石は上空で粉砕され、衝撃は最小限に抑えられました。
しかし、それでもごく一部の破片が王都上空へ。
その瞬間、聖竜フレアが出撃。中心街への落下直前、霊力による“浄化”魔法を展開。
現場対応にあたった総監(※あの総監です)も、自ら現地で状況を確認し、負傷者が出た時に備え、回復魔法が使える不死鳥を待機させていました。
通常の隕石であれば、王都の公園に石が落ちる程度の被害で、住民達は、隕石が落ちた事も知らないはずでした。
霊獣管理協会本部は実は凄いのです。




