第11話 最強霊獣ダンドドシン
異常な光景が王都に広がっていた。
火竜、雷神鳥……名だたる霊獣たちが地に伏し、霊獣使いたちもその傍らで倒れていた。
「……みんな……倒れてる……!」
リクの声が、音を失った王都に響く。
聖竜フレアもその場に倒れていた。
魔物の瘴気を無効化できる“最強の霊獣”。その隣では、かつてダンさんを侮辱した霊獣使いが胸を押さえ、苦しんでいた。
ダンさんは、丸まりながら地を這うようにして、隕石落下地点へ進んでいく。
王都中心の自然公園のゲートをくぐる
「ダンさん……空気が……皮膚がピリピリする」
「……違う、これは魔物の瘴気じゃない。すでに浄化されてるはずだ。これは……別の汚染だ!」
そのとき。リクは王都の公園の砂場に
隕石を発見!!
「ダンさん!! 見つけた!」
「あの青く光ってる石だ!」
「なんだ!? かなり小さい隕石じゃないか!」
拳サイズの小さな隕石が
脈打つように光始めた。
「リク、お前はここにいろ。おいらが行く!」
「待って! 俺も――」
リクの言葉を遮るように、ダンさんはころりと転がり、リクの横に来た。
「ありがとな。リクだけだったよ。おいらのことを、本当の“霊獣”として見てくれたのは!」
水タンクの残りを自らに浴び、ダンさんは隕石へと突進する。
「ダンさん!!」
「土よ、声を聞かせろ……!」
「瘴気の正体を教えろ!! 必ず豊かな土においらが戻す!!」
ダンさんの甲殻が白く輝き始める。 関節が震え、腹部が発光し、まるで命そのものが光になろうとしていた。
「これは……鉛、カドミウム、ヒ素……化学毒だ! 魔物の瘴気なんかじゃない!」
「リク、早く逃げろ! 人間の身体じゃ、科学毒の近くには耐えられない!」
「化学毒!? 霊獣の魔法も効かない!?」
「ダメだ。あいつらは体が綺麗すぎて、化学毒に耐えられない!」
ダンさんの声が静かに響いた。
「でもな……おいらは違う。何百年も、汚染された土を喰って生きてきた!
……重金属を喰らって、腹の中で結晶化させて生き残ってきた!」
「それが!おいらの生き方だ!」
「土よ! 豊かに戻れ!」
甲殻の奥で、無数の重金属がイオン結合し、無毒化された物質に再構成されていく。
銀色だった表面は、白く染まり、やがて蒸発するように輝きを放った。
「あっちぃ……っ!」
バキバキと甲羅にヒビが入り、ダンさんの足が痙攣する。
「もう……少し……なのに!」
脱水が限界を超えていた。
「ダンさん! 水を……今、持ってくるから!」
だが、リクの肺に化学毒の霧が入り、
激しく咳き込みながら膝をついた。
肺が焼けるように痛む。
。
下を見ながら
ダンさんにゆっくりと一歩、一歩近づく。
──苦しい。
──視界が滲む
「リク!! お前が飲め! その湖の水なら化学毒も浄化できる。おいらはもう……いい」
「……」
「リク……だけだったんだ! 三百年生きてて……おいらを褒めてくれたのは!」
「おいら充分幸せだった!」
リクは、かすかに笑った。
「俺は……もう、逃げないって決めたんだ!」
その水を――ダンさんにかけた。
次の瞬間。
リクは崩れ落ち、意識を失う。
「リク………」
ダンさんの目から涙が溢れる
「土よ! 聞かせろ!」
「おいらが! 全部浄化してやる!!」
「土よ! 豊かになれ!」
ダンさんの甲殻が、真っ白に輝く。
光が爆発するように広がり、王都の空、隕石の核、汚染した土――そのすべてが、浄化されていく。
土はふかふかになり、風には甘い香りが戻ってきた。
やがて。
リクは目を覚ました。
化学毒の霧は、完全に消えていた。
「ダンさん……!?」
「……うそだろ……」
真っ白になって動かないダンさんの姿。
「ダンさん……」
「………」
絶望が喉を詰まらせたそのとき――
「今、脱皮するから……待ってて」
「えっ?」
甲殻が静かに割れ、中からつややかな新しいダンさんが現れる。
「重金属を吸いすぎると、真っ白になるんだ。おいら!」
「ダンさん!!」
ダンさんを抱きかかえる
リクはボロボロと泣き出す
「……生きててくれて……本当にありがとう」
ダンさんは小さく丸まりながら、そっとつぶやいた。
「終わったな……」
そこへ、倒れていた霊獣たち、霊獣使いたちがふらふらと近づいてくる。
険しい顔をしながら、彼らは深々と頭を下げた。
「悪口言って……すまなかった……!」
「本当に……すみませんでした!」
火竜も雷神鳥も、
そして最強の霊獣・聖竜フレアもダンさんの横に降りて、そっと顔を伏せる。
「何かお手伝いできることがあれば……いつでもお申し付けください、ダンドドシン様……!」
ダンさんはのそのそと立ち上がり、ひとこと。
「……じゃあさ、水くれない? 干からびて、死にそう……」
霊獣たちは慌てて噴水へ走り出した。
「……ダンさんらしいね」
「王都乾燥してるから!」
続く
ダンゴムシは、鉛、カドミウム、ヒ素などの重金属を取り込み、腸内で結晶化させる能力を持ちます。これにより、重金属で汚染された土壌でも生存できるのです。
作中のダンドドシンも、この性質をもとにした“最強に地味で、最も強靭な霊獣”として描かれています。
タルトタタン




