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第30話 ライバル役が必要のようです

お読み頂きましてありがとうございます。

「君ねえ。何で毎度毎度、ウチの奥さんにチョッカイ掛けてくるの。」


 慌てて『中田』さんが自分家の玄関からリビングに駆け込んでいくと彼だけを叩き起こす。ノーメイクなのに間近で見ても可愛い女の子に見える。さっきは隣の女の子と比較出来たから男の子に見えたが、ひとりで立っていると女の子にしか見えない。


「えっ。井筒家の掃除の最中に赤ちゃんが泣き出したと思ったら、もう片方も泣き出して彼女がパニックになってたからさ。手助けしただけよ。おしめを替えてミルクを上げたところかな。今日はオフなのに朝早くから『れいな』お姉さまに叩き起こされたから眠くって。」


 眠そうに目をこすっている姿は猫のようで可愛い。


「私だって夜勤明けなのに叩き起こされた口よ。怪我人もいたんだから宮内庁病院は国会議員は対象外ですとか言ってられないわよ。私は隈だらけノーメイクでもいいんだけど、和重が出るなってうるさいだもの。エステもメイクも必要となるとトモくんしか思い浮かばなかったんだから。」


 志保さんは宮内庁病院にお勤めらしい。このマンションに皇族もいらっしゃるとかで簡単な病院設備も用意されているらしい。クーデターの最中とはいえ有名女優が隈だらけのノーメイクとか外聞が悪すぎるか。


「まあマッミーの自業自得だな。」


 結局は『ロリコン男』が子育てを手伝いもせず、志保さんにくっ付いてきたのが原因らしい。これは彼女を奪われても自業自得としか言いようがない。


「お義父さん。それはですね。部屋に缶詰めを言い渡されていた志保さんが診察が終わって帰ってきた途端、ふらふらと出て行ってしまって。」


 ふらふらっとソフトクリームを食べに行ったんだな。マンションの外には出てないようだがほかにもふらふらしていたらしい。


「彼らの案内は渚佑子様から依頼された僕だけで良かったんだ。マッミーはクーデターの最中だってのにフラフラしやがって。」


「それって、志保さんも同罪だよね。何で僕だけっ。」


 それは娘さんを放置された父親としては当然の反応だ。


「あれっ。このところ毎回最前列のセンターで見てくれる子だよね。アタシ、トランスジェンダーアイドルしている『チヒロ』よ。いつも来てくれてありがとう。そうか社長の知り合いだったんだ。あの席結構倍率が高いから不思議だったの。」


 ようやく目を覚ました『チヒロ』くんがこちらへ振り向く。やっぱり可愛いなあ。


 俺は例によって『超幸運』スキルで最前列のセンターというかぶりつきで見れるところを毎回占有している。確かに毎回客席に降りてきた『チヒロ』くんとハイタッチをしたがまさか相手も覚えているとは思わなかった。


「トモくんを知っていて、何で私を知らないの。何処の田舎モノよ。」


 志保さんが不満そうな顔をする。『チヒロ』くんと志保さんの関係性は周知の事実らしい。この世界の常識なのだろう。俺も静香さんに教えて貰わなければ『チヒロ』くんを知らなかっただろうし、興味が出てきて主演作品を見たぐらいで他には何も知らないのだ。


「いや最近アメリカのウエストバージニア州から引っ越してきたばかりなんだよ。」


 貰ったばかりのアメリカ国籍のパスポートを開いて説明する。捏造された出生やウエストバージニア州での滞在記録の資料も貰ったがまだ覚え切れてないのだ。


「訳ありね。解ったわ聞かないから。」


 嘘なんかバレてる。どういうことだ。滞在先はCIAが管理している街でどこから問い合わせがあっても俺の人となりを教えてくれることになっているはずだ。


「君は知らないだろうが、この街の隣にフラウさんという女性が住んでいて、そのまた隣の街にアポロディーナさんという女性が住んでいたらしいんだ。どちらもこのマンションの管理人をしているんだが彼女たちのことを聞いても渚佑子様は笑って何も答えてくれないんだよ。」


 おいおい『知識』スキル持ち。文書化されていることなら、スラスラと答えれるんじゃ無いんかい。後で山田社長にチクっておこう。


「そうです。その訳ありです聞かないでください。」


 諸手を上げて降参する。山田社長の知人たちなら問題ないと思うことにする。


「ねえアイドルに興味ないかな。君なら直ぐにナンバースリーになれるよ。」


「えっナンバーツーは決まったの?」


 『チヒロ』くん以外のメンバーの人気はドングリの背比べで『チヒロ』くんの人気には遥かに及ばなかったはずだ。


「今度発売されるミュージックビデオの特典映像で謎の美女「プッ」がアタシのライバル役で出現することになっているわ。もう・・・『れいな』お姉さま笑わないでよ。」


「だあって思い出したら笑えてくるんだもの。大丈夫よ大葉くん。謎の美女は2度と出ないことになっているから。」


 志保さんの知り合いらしい。トランスジェンダーアイドルで美女なら男性だよな。誰なんだろう。管理人さんに聞くと馬鹿にされそうだから、今度山田社長に聞いてみよう。


「大丈夫も何もゲイでもトランスジェンダーでも無いからやらないですよ。『チヒロ』くんのファンですけど、推しは応援するためにあるんです。ライバルにはなりたくないですよ。」


 今回撮らせて頂いた写真も一生ものの宝物になる予定だ。


「じゃあ友だち、友だちになろうよ。」


 今度は手を差し出される。そういうのは憧れる。少しだけ心が揺さぶられるが推し活ってそういうものじゃない。


「そういうのもちょっと・・・推しは見るもので推しの世界に干渉する権利はファンには無いというか。そのごめんなさい。」


 断ることさえ推し活に反している気もするがそれはそれ、これはこれだ。


「あーあ。なんかそういうファンが最近多いのよね。『れいな』お姉さまみたいにストーカー化するのも嫌だけど、触れ合え無いのも嫌。」


 志保さんのファンはストーカーするのか。でも数多くの男性と噂になっているところをみると自重しない性格らしい。


「トモくんの触れ合いは男性をからかいたいだけでしょ。この間、本気で好きになられて困っていたくせに弄ぶのも大概にしたほうが良いと思うよ。」


「男のスケベ心を弄ぶ『れいな』お姉さまだけには言われたくないセリフですっ。」


 なんかふたりとも良く似ている気がする。

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