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感情が天候に反映される特殊能力持ち令嬢は婚約解消されたので不毛の大地へ嫁ぎたい ~魔物を薙ぎ倒す国王陛下に溺愛されて幸せです~  作者: かのん


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 シュルトンの王城へと着いたレクス様を、アズール様が歓待するために部屋を準備させ、そして食事の用意などを整えていく。


 レクス様と共に数名の使者も来ていたようで、レクス様の要望で隠れてついてきていたのだという。


 使者というよりもレクス様の安全を守る騎士兼侍従のように陰ながらレクス様を見守る役目らしい。


 私はアズール様にこっそりと部屋に戻るように言われたのだけれど、レクス様に手を掴まれた。


「シエルも一緒に食事しよう。アズール、いいだろ」


 私は首を横にブンブンと振った。


「い、いえ。私は……」


 そこで、早々に自分がシャルロッテであると話をした方がいいのではないだろうかと私は思った。


 このまま偽ってはいられない。


「あと、アズール。間違っても俺の前に、お前の婚約者とかいう女を連れて来るなよ」


 一瞬で空気が変わった。


 レクス様は冷ややかな瞳でアズール様を睨みつける。


「俺は低俗な女は大嫌いだ。虫唾が走る」


 アズール様はその言葉に言い返そうと口を開いた。


「シャルロッテ嬢は低俗な女性ではない」


「……女はバカで欲にまみれたハエだ。お前がどんな考えかは知らないが……俺に近づけるなと言っている」


 威圧的な言葉と雰囲気に、私の背筋はぞわりと粟立つ。


 これが、レジビア帝国の王か。私は一筋縄ではいかない相手なのだとそう思った。


 さらに言い返そうとするアズール様を私は視線で止めた。


 正面からいって、意見を変える方ではないとそう感じたからだ。


 アズール様は小さく息をつく。


「わかった。だが、シエルは退席させるぞ」


「はぁ。わかった。その代わり明日からのシュルトンの視察、シエル。お前が俺の世話係をしろ」


「え!?」


「なっ!? レクス。どういうつもりだ。私はこれ以上シエルを君に関わらせるつもりはない」


 はっきりと告げたアズール様とレクス様の間に緊張が走る。


 レクス様が冷たい瞳でアズール様を捕らえる。


「……俺はレジビア帝国の王だぞ。俺に、異を唱える気か、きさま」


「ここはシュルトンであり、この国の王は私だ。そしてレクス。君は今、身分を隠し使者として来ているのだろう?」


 バチバチと火花が散り、レクス様が舌打ちをする。


「……俺に意見するなどお前くらいのものだ。まぁ、嫌いではない。だが、シエルは案内役にしろ」


「だめだ」


「お前がだめだと言うと、どうしてもさせたくなるから不思議なものだな」


 私はどうしたらいいのだろうかと、緊張したまま見守っていると、レクス様が立ちあがった。


「よし、ならこうしよう」


「なんだ?」


「ひと勝負と行こうじゃないか。剣で勝負だ」


「剣で?」


 アズール様とレクス様は睨み合う。


 そしてアズール様がうなずき言った。


「では、剣で負けたならばシエルのことは諦めてくれ」


「ははは。まーそうだな。じゃあ一戦と行こうか」


 とんとん拍子にその場は進み、アズール様とレクス様は王城内にある訓練場へと移動をする。


 そして練習用に使われる模擬刀を手にしたのだ。


 試合前、私は急ぎアズール様の元へと向かった。


「あの、アズール様、私はレクス様の案内をするのはかまいません。ですから、どうか危ないことは辞めてください」


 私がそう言うと、アズール様は肩をすくめてみせた。


「大丈夫だ。怪我はさせない」


「アズール様……」


「行ってくる」


 アズール様とレクス様は訓練場の中央へと進み出る。


 どこから情報を聞きつけたのか、会場には他の騎士達も集まり始めていた。


 そこへ私の侍女であるローリーも駆けつけ、私の横にやってきた。


「し……シエル様。これは一体何がどうなっているのです? あの方は?」


「ローリー……困ったことになったわ。彼はレジビア帝国の王、レクス様よ。すぐに、ダリル様に知らせて」


「か、かしこまりました!」


 ローリーは急ぎ城の中へと戻り走っていく。


 私は、アズール様とレクス様を見つめる。


「アズール。こうやって剣を交えるのは二度目だな」


「あぁ……若い頃が懐かしい」


「ははは。あの時は俺が勝った。そして今度も勝つのは俺だ」


 模擬刀同士がぶつかり合い、アズール様とレクス様が睨みあう。


 何度も何度も打ち合い、そして距離を取ってはつめ、そしてまた距離を取る。


 対人戦は魔物戦とは違う。


 アズール様はあくまでもレクス様に怪我を負わせないようにと戦っているのが分かる。


 それを見て、レクス様が笑みを消した。


「……舐めてくれたものだな」


「剣を引くなら今だぞ」


「はっ……バカが」


 レクス様はアズール様と互角に剣を打ち合わせていく。


 その様子に会場からは歓声が上がる。


「すごいな! アズール様と互角だ!」


「どこの騎士だろうか!」


 ただ、次の瞬間、会場がシンと静まり返った。


 レクス様が胸元から短剣を取り出すとそれをアズール様に向けたのだ。


「アズール様!? 危ないっ!」


 私は悲鳴を上げたが、アズール様は容易くそれをよけ、レクス様へ低い姿勢から一撃を入れようとした。


 それをレクス様は片腕で、受けた。


「が……はっ……やるねぇ。だが、これは?」


 次の瞬間、レクス様は持っていた短剣を、私に向かって投げつけようとした。


 アズール様は瞬時にそれに気付くと、自身の持っていた模擬刀を迷うことなく力いっぱいに短剣に投げつけた。


 空中で模擬刀と短刀はぶつかり合い弾けるようにして地面へと落ちる。


 体勢を崩したアズール様のその背中をレクス様が模擬刀で打ったのだ。


「ぐ……」


「アズール様!」


 私は、目の前で起こったことに衝撃を受けた。


「はっはっは……俺の勝ちだ」


 高らかに笑い声をあげ、ぎらついた瞳でアズール様を見下ろすレクス様。


 私は、地面に転がる模擬刀と……本物の短刀を見つめた。


 あの人は、勝つ為ならば手段を択ばない。


 もしあれが本物の剣であったならば、アズール様は背中を切られていた……。


 手が震え、私は思わずしりもちをつくと、天候が乱れ始める。


 晴れていた空に雲がかかり、稲光が走る。


 雨が降り始め、騎士達は慌てて練習場の備品を片付け始める。


 アズール様は、私の元へと走ってくると私を抱き上げた。


「大丈夫か? 怪我は!?」


「あ……ありません」


「良かった……」


 そこへ、ローリーとダリル様が駆けてきて、アズール様はダリル様に命じた。


「レクスを客間へ案内してくれ」


 それから、睨みつけるような視線でレクス様の方へと視線を向けた。


「レクス、一度着替えよう。いいだろう? 後ほど、話しをしよう」


「……あぁ……もちろん」


 私を抱きかかえてアズール様は私室へと向かった。




卑怯極まりない男!(/ω\)

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