天候令嬢の侍女 【天候令嬢発売記念】
天候令嬢10月10日発売!
それを記念して短編です(●´ω`●)
私の暮らすシュルトン王国は、魔物が侵入してくる渓谷のすぐそばにあり、私自身も結婚するまでは騎士として働いていた。
女であろうと、男であろうと、戦える者は剣を持つ。
シュルトン王国ではそれが当たり前であり、私も剣を取った。
死ぬまで剣を握っていようと思った私だったけれど、結婚を機に最前線で働くのではなくシュルトンの国王であるアズール様の花嫁様の侍女として働くことを決意した。
最初は自分に侍女が務まるのだろうかとも思ったけれど、婚約者としてシュルトンに訪れたシャルロッテ様に仕えるようになって私はなんと幸運だったのだろうかと思った。
真面目で一生懸命で、一つ一つに意欲的。
そして小さくて可愛くて、こちらを見上げてくる視線が何とも言えない。
こんな気持ちに自分がなるとは思っていなかった。
「ねぇローリー。今日は洋服の仕立て屋さんがくるでしょう? でも、私、もう洋服は揃っているし必要ないと思うの。だから」
「いいえ。きっとアズール様はシャルロッテ様の新しい服を楽しみにしています」
そう答えると、私の仕えているシャルロッテ様は動きを止め、それから恥ずかしそうに言った。
「楽しみに……されているかしら?」
一つ一つの動きが可愛らしいなと思う。
シュルトンに生まれる者は基本的に皆力強い。土地柄なのか、シャルロッテ様のように天使のように可愛らしい人のほうが珍しい。
「きっと楽しみにしていますわ。あの……よければ私もシャルロッテ様の服を選ばせてもらいたいです」
実はずっとシャルロッテ様の服を選んでみたかった。
勇気をもってそう言うと、シャルロッテ様は嬉しそうに微笑んで言った。
「嬉しいわ! なら、ローリーに選んでもらって、一着は買うわ」
可愛らしく微笑む姿が、こちらの胸をきゅんとさせる。
私自身は既婚の身だけれど、結婚前に出会っていたら、私はシャルロッテ様にメロメロになって自分の婚期が遅れていた可能性があるなと思った。
それほど可愛らしい人なのだ。
その後洋服の仕立て屋がくると、私はシャルロッテ様に似合うように、そしてアズール様が喜ぶようにとデザインを仕立て屋に伝えていった。
アズール様は基本的に可愛らしい服が好きだ。
それは分かっているけれど、私の好みはもう少し大人っぽくて、それでいて可愛らしいもの。
つまり、私の今回のコンセプトは小悪魔である。
きっとシャルロッテ様が来たら大変可愛らしいだろうなと思い、私は出来上がるのを待っていた。
そして、出来上がった洋服を仕立て屋に持ってきてもらい、私はにやにやが止まらない。
「可愛い。これは、これは可愛すぎるわ」
翌朝、私はシャルロッテ様にそのドレスを着てもらう。
「あら……なんだかいつもとは雰囲気が違うわね。それに、その、ドレスで、スカートなのだけれど……」
シュルトンでは緊急時にそなえて、基本的にドレスよりもズボンが推奨される。
なのだけれど、どうしても小悪魔なこのドレスを着てもらいたかったのだ。
「大丈夫ですわ。ほら、下に短いズボンを履き緊急時の場合はスカートを取り外せばいいだけですから」
「あぁ、なるほど」
鏡に映ったシャルロッテ様はまさに小悪魔。
ちらりと見える胸元の鎖骨、そして大きく開いた背中。
これはきっとアズール様もメロメロ間違いなしだ。
私もシャルロッテ様の可愛らしさに胸がときめいてしまう。
「可愛いです! 最高です!」
「ふふふ。ローリーが喜んでくれて嬉しいわ。アズール様も喜んでくれるかしら」
「もちろんです!」
その後、ドレスをアズール様へと見せに行くとアズール様はすごく喜んでいた。
私も嬉しくて、その日の夜、仕事が終わってから、旦那でありアズール様の弟であるダリル様の腕の中で私は声を上げた。
「シャルロッテ様、本当に可愛かったの。すごく、すごくね」
じゃれつくようにダリルに言うと、ダリルは眼鏡をはずし、それから私の唇にキスを落としてから言った。
「私も見たよ。可愛らしかったね。うんうん。だけれど、私にとって一番可愛いのは奥さんである君なので、君にも可愛らしいものを着てほしいなぁ」
そう呟かれ、私は肩をすくめた。
「私よりシャルロッテ様の方が可愛いじゃない」
「うーん……私にとってはローリーが一番だから」
甘い雰囲気のダリルに、私は少し恥ずかしくなる。
「……剣ばかりにぎって来た私を、可愛いなんていうのはダリル様くらいよ」
「私にとって君が一番可愛いからね。それで、可愛い服、着てくれるかい?」
「……まぁ、考えるわ」
「うん。じゃあ今度シャルロッテ様と一緒に選んでくるよ」
「え?」
驚く私にダリル様は微笑んで言った。
「シャルロッテ様が選んでくれたものなら。絶対に着てくれるだろう? 私が頼んでも最終的にはのらりくらりと躱されそうだからね」
そういわれ、彼は私のことをよくわかっているなぁとため息をついた。
自分が着ても可愛いとは思えないのだ。
だからあまり期待とは思わなかったけれど、シャルロッテ様が選ぶならば別である。
「あー。たまにシャルロッテ様にやきもちをやいてしまうよ」
私はその言葉にくすくすと笑い声をもらした。
「やきもち嬉しいわ。ふふふ。でもこんな私の姿を見れるのは、貴方だけよ」
私は、ローブをはらうと、夜のナイトドレス姿の自分をダリル様へと見せる。
シュルトン王国では夜は基本的に可愛らしいナイトドレスを女性は着るものだ。
そしてそれを見ることが出来るのは夫だけ。
「ふふふ。嬉しい?」
「もちろん。私の可愛い奥さん」
私達は笑い合いながらキスをする。
夫婦になってからいろいろあった。
侍女になってからも色々あった。
だけれど、シャルロッテ様が来てから、シュルトン王国には光が差し、時代が動き出したかのような感じがする。
「ダリル様、大好きよ」
「私も大好きですよ」
私はダリル様とじゃれ合いながらキスをする。
幸福だ。
ちらりと窓の外を見つめると、月が美しく輝いていた。
読んでくださりありがとうございました!
天候令嬢10月10日より書籍発売開始となります(*´▽`*)
よろしくお願いいたします!
かのん






