28話 最終話
いよいよ最終話です(●´ω`●)
セオドア様は一度牢へと入れられることになり、私はアズール様が来てくれたことや無事に魔物を退けることに成功したからなのか力が抜けてしまい倒れそうになった。
アズール様はすぐに私のことを抱きとめると、そのまま私を抱き上げた。
「大丈夫か?」
私はうなずくと、アズール様に言った。
「力が抜けてしまいました。すみません」
そう告げるとアズール様は苦笑を浮かべ、それから私を抱き上げたまま城を歩いていく。
どこへ行くのだろうかと思っていると、その瞬間、大きな歓声が聞こえてきて私は驚いた。
アズール様に抱き上げらたまま、広間が見渡せる位置へと移動し私が見たのは、集まるシュルトンの人々の姿であった。
私達が姿を見せた途端大きな声が響いて聞こえた。
「国王陛下万歳! シュルトンの女神に感謝を!」
「魔物を退けた英雄に感謝を!」
「アズール国王陛下万歳! シャルロッテ王妃万歳!」
まだ結婚をしていないと言うのにそんな声まで聞こえてくる。
私は驚いてそれを見つめていると、アズール様は言った。
「シャルロッテ嬢。本当にありがとう。君のおかげで、この国を守ることが出来た」
その言葉に、私は首を横に振った。
「いいえ……いいえ」
私は唇を噛むと、アズール様に告げる。
「私は、自分の感情を我慢するのが嫌だと言う自分勝手な理由でシュルトンへ来たのです。それに今回の一件も、もとをただせば私のせいで……ですから感謝されるなんて……そんなの」
自分勝手な理由である。しかもセオドア様の今回の一件も、私を連れ戻すためである。だからこそ感謝などと思ったのだけれど、アズール様は私のことを見て微笑むとはっきりと言った。
「君のおかげで魔物が退けられたのは事実。それが出来たからこそ、シュルトン王国は今を生き延び、そして不毛の大地を脱しようとしているのだ」
それは結果論であってと私が言おうとすると、アズール様は肩をすくめて言った。
「いいではないか。君のおかげでこの国は救われた。それが真実だ。シュルトンの民は、もし君がそれでもそれをひけめに思うと言うのであれば、これからシュルトンの為に、一緒に頑張っていってくれたら俺は嬉しい」
「アズール様……」
「さぁ、だが今はまずこの歓声に答えよう!」
アズール様はそういうと、片腕を天へと突き上げて言った。
「神に感謝を! シュルトンに女神を遣わしてくださった天に感謝を!」
アズール様の言葉に呼応するように、シュルトンの民が同じように拳を天へと突き上げて声をあげる。
私はその様子を見つめながら、唇を噛んだ。
生まれながらにして持っていた自分のこの能力は、自分の感情を表すことの枷となり、自分をこれまで苦しめてきた。
けれど、今はその能力がシュルトンの力になることが出来た。
私は、自分にこの能力があってよかったとそう思った。
「アズール様、ありがとうございます」
「俺ではないさ。君が自分でつかみ取った、民の信頼だ」
見渡せば、皆が喜ぶ姿見えた。
私はその姿を見て、心からシュルトンに来ることが出来て良かったと思えたのであった。
その後セオドア様はすぐにリベラ王国側に引き取られることになった。
引き取られる時、私は今回の一件を説明するために一度リベラへと向かう事となった。
アズール様は一緒に来てくださると言ったけれど、魔物の侵入があってすぐにシュルトンを離れるのは国民が不安になると私は話しをして、一人で向かうことにした。
ただ、交渉の為に、アズール様の弟のダリル様もついてくることとなった。
「気を付けて」
魔法陣のある部屋までついてきてくれたアズール様に見送られ、私は笑顔でうなずく。
「行ってまいります」
牢から出され、騎士に縄でしばられながら歩くセオドア様は魔法陣に入った直後から懇願するように話始めた。おそらくそれまでの間はアズール様が睨んでいたので口をつぐんでいたのだろう。
「シャルロッテ嬢! なぁ! 頼む。俺のことを助けてくれ! このままでは俺は別の国へ嫁がされる!」
私はその言葉を無視しながら、それも、もう難しいのではないかと考える。
「あぁっ。頼む。俺は、君が恋しくて、そもそもこんなことをしたのだぞ!」
魔法陣が光はじめ、すぐに私とセオドア様とダリル様はリベラ王国へと着いたのであった。
シュルトンとは空気から違う。
リベラ王国に帰って来たのだと私は思いながら顔をあげると、そこにはお父様と国王陛下と騎士達が並んでいた。
国王陛下は憎々し気にセオドア様を睨みつけると声をあげた。
「罪人を牢へ入れろ」
その言葉に、セオドア様が悲鳴を上げた。
「父上! 罪人ではありません! どうか私の話を聞いてください!」
「お前の謝罪を期待した私がバカだったのだ。お前はもう私の子ではない!」
「父上!」
泣き声を上げるセオドア様に、国王陛下は静かに言った。
「離宮に……元恋人を住ませていたことも確認済みだ。しかも地位を奴隷に無理やり落としていたとは……はぁ、お前はもう二度と、日の目を見ることはないと思え」
「父上! ご、誤解です! お願いします!」
「連れていけ」
悲鳴を上げ、泣きながらセオドア様は騎士に連れていかれそうになった時、私に向かってセオドア様が叫んだ。
「シャルロッテ嬢! お願いだシャルロッテ嬢! お前は俺を愛していただろう! 愛していた男だぞ! なぁ、愛しい男がこんな目にあってもいいのか!?」
その声が響き渡った瞬間、お父様が顔を真っ赤にして怒りに耐えているのが分かった。
私は最後にはっきり注げようと一歩前へと進み、国王陛下に一礼をする。
「発言する許可をいただけるでしょうか」
「あぁ……許可しよう」
私はセオドア様の方を見つめると、セオドア様はどこかほっとしたような表情を浮かべていた。
「シャルロッテ嬢、あぁ、やはり俺のことを愛しているのだな」
そんな勘違いも甚だしい言葉に、私ははっきりと告げた。
「もう一度はっきりと申し上げますが、愛しておりません。愛していた過去は変えられませんが、今は、もう、全く、愛しておりません」
「は? しゃ……シャルロッテ嬢!? 何故!? ふざけるな!」
「セオドア様、私が貴方様を愛さなかった、ただそれだけのことでございます」
「シャルロッテエェェ!」
セオドア様は暴れまわり始め、騎士に押さえつけられる。
そして騎士に連れられてセオドア様は牢へと連れていかれてしまったのであった。
「シャルロッテ、大丈夫だったか?」
お父様との再会に、私はうなずいたのであった。
その後、私はセオドア様の一件について話しを細かにし、その後はダリル様との話し合いの場に移ったのであった。
私とダリル様は話を終えると、シュルトンへと帰るために魔法陣の中へと入る。
お父様は一泊していけばいいのにと残念そうであったが、私は、シュルトンへと帰ることを選んだ。
「シャルロッテ、幸せかい?」
お父様に尋ねられ、私は大きくうなずいた。
「はい。私、幸せです」
お父様が優しく安心したように微笑んでいた。
その後、私とダリル様はシュルトンへと帰るとアズール様へと報告へと向かう。
リベラとの関係性はどうなるのだろうかと思っていると、アズール様は私の母国だから悪い関りにはならないと言ってくれた。
セオドア様の件についても、シュルトンへ二度と関わらないことを条件にリベラ王国に任せるとした。ただし、賠償金と今後十年分の国交における関税をシュルトンに有利になるように現在は交渉中なのだと言う。確定はまだしていないようだが、ここはアズール様の弟のダリル様がとても良い笑顔でほくほくとしていた。
「いやぁ、今回の一件で周辺諸国はさらにうちの国を重視してくれましたし、リベラ王国からの賠償金と今後の国交も有利に運べそうです」
怪我をした騎士は多少いたものの、大きな被害はなかったのでここで納得がいくが、もし人的被害があればこうはならなかっただろう。
魔物が人の住む町に降りなかったことが、今回の救いであったのだ。
書類を確認していたダリル様は私とアズール様を見て笑顔で言った。
「いやはや、兄上は幸せ者ですねぇ。今ではシュルトンの女神と呼ばれるシャルロッテ様を妻に迎えられるのだから」
とても幸せそうな笑顔でそう言われ、私は少し恥ずかしくなる。
アズール様は同意するようにうなずく。
「あぁ。本当に。そのことについてはセオドア殿に唯一感謝しているところだ」
「本当に。あのような阿呆が国を継いでいた未来もあったのかと思うと、心底恐ろしくなりますがね」
わざとらしく身震いするような動きをダリル様はした後、書類をまとめて立ち上がった。
「では僕は後処理をしてきます! 楽しみにしてくださいね~。賠償金も、もう一度見直してもう少し引き上げられないか頑張ってみます!」
「ほどほどにな」
「はい。では、失礼します」
ダリル様はそう言うとほくほく顔で部屋から出て行った。
そんな様子に私とアズール様は苦笑を浮かべたのであった。
私達は庭へと出ると、一緒に散歩に出かける。
以前までは閑散としていたシュルトンの庭であったけれど、今では緑で溢れている。ただし、リベラ王国の庭とは違い、植えられている物は殆どが食べることが出来る植物ばかりである。
そんな庭を歩きながら、アズール様が口を開いた。
「こう、もう少し煌びやかなものを植えても良かったのではないか?」
私はアズール様の言葉に、小さく笑うと、アズール様の手を引いて、庭の小さな一角へと進んでいく。
その一角だけは、美しい花をたくさん植えたところであった。
「おぉ! そうそう。こういう美しい花を植えたらいい」
アズール様はやはり美しい花々が好きなのだなと私は思いながら、アズール様に喜んでもらえるようにまた考えてみようと思った。
「こういう可愛らしい花は、君に似合うな」
「え?」
その言葉に、私は少し驚きながら口にした。
「あの、アズール様の好みに合えばと思い植えたのですが……」
尋ねるようにそう口にすると、アズール様は少しばかり目を見開いて、小首を傾げた。
「えっと、いや、俺も美しい花は好きではあるが……好みがある程では……むしろシャルロッテ嬢が好きな花を植えてもらえた方が嬉しいが」
「えっと……私、アズール様がお花好きな方なのかと、勘違いしていました」
「え? あぁ、えっと、いや嫌いではないぞ?」
「はい……」
まだまだアズール様のことが分かっていないなと反省していると、アズール様は嬉しそうに何故か微笑むと、私の手を握った。
「なんだろうか、すごく、嬉しい」
「え?」
顔をあげると、アズール様が楽しげな様子で目を細めて微笑みを浮かべた。
「君が、俺のことを知ろうとして、喜んでもらいたいというような思いを抱いてくれているのだなと嬉しくなった」
その言葉に、私は大きくうなずくと言った。
「私、アズール様のこと、もっと知りたいです」
もっといろいろと教えてほしい。
好きな物、好きな食べ物、好きな遊び、色々なことを知っていきたい。
「私、アズール様のことを教えていただきたいです」
真っすぐにそう伝えると、アズール様が一瞬固まり、その後、顔を赤らめると小さくうなり声をあげた。
「……すまない……その、君に好かれていると……うぬぼれてしまいそうだ」
私はもう一度大きうなずいた。
「好かれております」
「え?」
「え?」
私達は顔を見合わせたまま、動きを止める。
私は何かおかしなことを言っただろうか。
アズール様の反応が不思議で、私は自分の中に芽生えた思いを口にした。
「アズール様のことが知りたいのです。アズール様の喜ぶ顔が見たいし、アズール様と一緒にいると幸せです……その、これは、恋、なのだと思います」
真っすぐに、そう伝えると、アズール様は口元を抑えて、三歩ほど私から離れる。
一体どうしたのだろうかと思う。
「アズール様、どうしたのです?」
「少し待ってくれ。君を今すぐ抱きしめたくて理性と戦っている」
その言葉に、私は驚きながらも、両手を開いた。
「抱きしめてくださいませ」
体の大きなアズール様に抱きしめられるのはすごく心地がいいし好きだ。
してくれると言うのであればいつでもしてほしいと思う。
そう思い両手を開いたのだけれど、アズール様が突然うめき声をあげた。
「アズール様?」
「純粋すぎる君が……はぁぁぁ。可愛らしい。罪だ。君の可愛さは罪だ」
「え?」
「結婚が遠い……」
「抱きしめて、くださらないのですか?」
次の瞬間、アズール様は私のことを抱き上げるとぎゅっと抱きしめてくれた。
温かで逞しい胸に顔を埋めると、それだけで幸せな気持ちになるのだ。
「ふふふ。幸せです」
「俺も幸せだ……そう、幸せだが、っく……」
私はアズール様に抱きしめられながら幸福な時間を、堪能する。
すると、空からキラキラとした光が降り注ぐ。
「天も祝福してくれています」
私がそう言うと、アズール様は言った。
「君が来てから、本当にシュルトンは変わり始めたな」
「そうであれば嬉しいです」
現在シュルトンは畑を作り始め、比較的育ちやすい物から育て始めた。
そして名産品となる者を作るべく動き始めてもいる。
「これからが楽しみですね」
「あぁ」
私達はシュルトンを見つめながら微笑み合う。
傾国には現在美しい花が咲きほこっており、魔物が入ってくることもなくなってきている。
ただ、今回の一件で、道を作る方法はあるということが危険視され、渓谷の監視が強化されることとなった。
問題はあるが、これからも少しずつシュルトンを豊かな土地にしていこうと私は意気込んだのであった。
「アズール様、これからもよろしくお願いいたします」
「あぁ」
私達はこれからのシュルトンに思いを馳せながら微笑み合ったのであった。
移しい新芽が、ひょっこりと顔を出し、風に揺れていた。
おしまい
2023.10.10
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