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第31話:「私を監視してほしいなー!」

 夕日が差し込むオレンジ色の教室。

 そんな中でせっせとノートに何を描きこんでいるのわたし? 知らんのか、グラフィティアートの設計図だよ!

 陰キャで元引きこもりのわたしがまさか放課後にまで教室に残っているとは、過去のわたしは思うまい。


「恋の応援、かぁ……」


 わたしだって恋のひとつやふたつ、したことないわけではない。

 青かったころの春の思い出。わたしが今と同じ高校生ぐらいの話じゃったよ、ほっほっほ。


 そんなことはさておきじゃ。

 鈴鹿さんの恋の応援のためにはこのグラフィティアートが不可欠。

 何故かわからないけれど、ルート別にイラスト部分が違う仕様を活かさなければならない。

 未知のルートである鈴鹿ルートに突入するためには、これが必要なのだ。


 イメージはできてる。赤と緑のコントラスト。

 まるで森林を燃やしているような。それでも温かみのある素敵なイラストにしたい。

 幼いころに培ったノートの肥やしを思い出せ。大丈夫、わたしはできる!


「わっかんない……」


 デザイン専攻だったわけではない。

 だから一朝一夜で素敵イラストなんて、できるわけないでしょうが!!

 しまったなぁ。こんなことなら前世はデザイナーになるべきだったか。


「あれ、美鈴ちゃん?」


 ふと天使の声がする。

 誰だこのおかわいらしい声は?! その正体はこの女ー!


「と、尊花さん?!」


 あらまびっくり仰天! 素敵なお声の正体は市川尊花さんだったのだー!

 あー、天使のささやきで癒される……。身も心もささげてしまいそうだ……。


『くれぐれも、市川には見つかるなよ』


 ……そうだ思い出した。

 万葉さんが言ってた。尊花さんは委員長であるため、バレればグラフィティアートの作戦は失敗に終わる。

 だって傍から見たら、これって大迷惑な落書きのようなものだし。

 真面目な委員長肌の尊花さんにとって、百害あって一利なし。ご、誤魔化さねば……!


「急にお腹を抱えて、どうしたの?」

「え、えーっと……。ちょっと生みの苦しみといいますか……」


 間違ってない。人か創作かという違いはあるけれど。


「……何か隠してる?」


 ギ、ギクーーーーーッ!!!

 ありのまま全部ぶちまけてやりたいけれど、ぶちまけたら結果損するのは万葉さんと鈴鹿さん。そして巡り巡ってルート通りにいかなかったわたしがとんでもない目に合うかもしれないのだ。

 例えば……。例えば…………。何ルートになるか分からないけれど、ごみ収集車ひき肉エンドとか? それは前世の死因だった。


「カ、カクシテナイデスケド?」

「嘘だー、絶対隠しそうな顔してるー」


 だって見られたくないですしーぃ!!

 じりじりとジト目で迫ってくる尊花さんを見て、「あ、かわよ」なんてのんきに思う自分と、必死に隠さねばという自分が相反する。

 さ、流石にバレてはいけない。半ば無理やりだったけど、引き受けたのはわたしなんだから。


「お、お腹が痛くてー」

「じゃあなおさら保健室に行かないと。美鈴ちゃん、すぐ気絶するんだから」


 それはあなたが尊いだけなのですが。

 くっ! 自分の虚弱体質がここで裏目に出るなんて!


 さぁどうする。このままじゃ確実に10割委員長のジャッジキルだ。

 手札は、もうないです。オワタ!


「美鈴さーん、グラフィティの進捗どうー?」

「え、グラフィティ?」

「あっ……」


 はい終わったー! もう詰みましたー!

 ここからどう言い訳しても、事実は覆らない。弁明のしようがないほどの決定打だ。

 まゆさんも「あ、しまった」みたいな目をまんまると広げ、口をあんぐりと開き呆然としてしまった。


「ご、ごめんねー、美鈴さんー!」


 かと思えば両手を前に突き出しながら、わたしに泣きついて膝をつくまゆさん。

 はうわっ! かわよ……。

 でもそのまま抱きしめられると、心に終焉が訪れるのでわたしを手を前に出してみた。

 触れ合う手と手。あー、美少女に触れるとこんなにもあったかいんだー。じゃなくて!


「……美鈴ちゃん、わたしには言えないことなの?」


 うっ! 死にそう!

 隠し事をしている手前、罪悪感が胸の奥深くをかき乱してくる。

 そんな困ったように眉をひそめられたら、どうしようもなくなってしまう。

 なにしろ今回は鈴鹿さんの恋を応援するという名目でも頑張っているゲーム内イベント。わたしだって頑張りたいんですよ。

 鈴鹿さんと尊花さん。天秤にかけたとき、どちらに傾くだろうか。


 ……言うまでもなかった。


「すみません! これには、なんというかその。深い事情がありまして」


 全部洗いざらいぶちまけることにしましたー!

 だって最推しに隠し事なんてできませんし!

 すまぬな鈴鹿。これも葦名のため……。


 そんな感じですべての計画を洗いざらい申告したところ、尊花さんは大きくため息とついた。


「美鈴ちゃんとまゆちゃんが何か隠し事してるなー、とは思ってたけど、まさかそんな悪事の片棒を担いでいたとは……」

「違うんだよ! まゆさんが勝手に誘ったことで……」

「大丈夫だよまゆちゃん。美鈴ちゃんを庇わなくても」


 ……わたし、庇われるか弱い人間の立場だったのか。

 とはいえ、まゆさんが嘘をついてまで庇ってもらう理由はない。

 わたしはまゆさんの手にそっと触れて、意図を汲み取る。


「美鈴さん……」

「大丈夫ですよ。わたし、そんな弱い人間じゃないですから」

「……え?」


 まさかの反応。尊花さんもびっくりしてるし。


「え、なにその反応は?! ここはもっと『わかった、信じるよ』みたいなノリじゃないんですか!?」

「だって強い人は頻繁に気絶したりしないし」

「うっ!」

「だよね。まゆさんは美鈴さんの保護者なんだよー」


 初耳なんですけど。

 なに、まゆさんは出来損ないの子供を見る目でわたしを見てたってこと?

 それはそれでバブみを感じてしまうなぁ。


「まぁ、でも。さすがにクラスの委員長としては無視できないんだよねー」

「そこをなんとか! わたしに出来ることなら何でもするので、秘密にしてほしいんです!」


 わたしに使える技なんて家事手伝いとかそういう身体を売るようなことだけだ。

 ソシャゲの周回でもなんでもしますよ?


「……美鈴ちゃんは、あの2人に無理やりやらされてるわけじゃないの?」


 そう来たか。わたしだって気づいてないわけじゃなかった。

 尊花さんはわたしに対して、異常なぐらい過保護な気質がある。

 風邪の時はそれはもう熱心に看病してくれたし、他のことだって尊花さんに迷惑かけっぱなしだ。

 確かにわたしは頼りないかもしれない。

 けれど、自分の尻ぐらいはちゃんと拭けるつもりだ。


「違います。最初は成り行きでしたし、その場のノリでデザインを考えることになりました。ですが今はデザインを考えるのも楽しいですし。それに……」


 思い浮かべるのは、近づきたいと思っているのになかなか言い出せずダル絡みしてしまう赤い彼女のこと。

 これがファンディスクの鈴鹿さんルートなのだとしたら、応援する他ない。

 でもこれは人の恋。他人のわたしがむやみやたらに振りまいていいものでもない。

 だから無理やりにでも納得してもらう。


「とにかく! 今はちゃんと目的を持って動いてます! 怒られたって、かまいやしません!」

「……美鈴さん」


 ここに来てから随分と前向きになった気がする。

 それは間違いなく、この2人のおかげだ。なら、ちゃんと成長したところを見せなくちゃ。


「分かりました。美鈴ちゃんがそこまで言うなら、条件付きで秘密にするね」

「……その条件とは」


 ゴクリ。

 思わず生唾を飲み込む。

 真剣な表情の尊花さんがゆっくりと目を閉じ、そして――。


「私を監視してほしいなー!」

「……え?」


 満面の笑みで、わけのわからないことを口にした。

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