第29話:人力好感度検索機
言い出しっぺの法則というのがある。
言った本人が責任を持ってことに当たる、というもの。この場合は何故かわたしがグラフィティアートの設計図を書くことになっていた。
「どうしてわたしなの……」
静かに嘆いた。嘆かざるを得ないでしょこんなの!
誰が好き好んで陽キャのお手伝いなんて……!
グラフィティアートを言い出したのはわたしという手前、やはりすべてを否定はしづらい。
かと言って、慣れない設計図の作業をわたしひとりでやるというのは、あまりにも酷だ。
「思い出すにしても、まずは各ヒロインの好感度を調べないとなぁ」
漠然と宙にペン先を揺らして万葉さんの動向を思い出す。
というのも、このグラフィティは万葉さんの好感度によって内容が変わるという代物だ。
わたしも苦労したなぁ。イベントスチルコンプのために全ルート入ったことを思い出す。
個人的に好きなのはまゆさんのルートだった。デレたときの彼女も可愛いし、不意に照れた姿もまたよし。メインヒロインの中じゃ一番好きな子だ。
だからあんな女神がわたしの前で微笑んでくれていることが、未だに現実味なくて時々頬をつねってはまゆさんに困惑されるんだ。
許しておくれ。君が可愛いのが悪いのさ。
冗談はさておき、誰ルートになるかはちゃんと考えなくてはならない。
既存のメインヒロイン3人なら描くのは容易いし、他のキャラでも的が絞れれば描きやすいのは間違いない!
善は急げ。陰キャはこう言うとき臆したらダメだって、なんかどっかで書いてた気がする!
「ということで誰か好きな人はいますか?」
「何がということで、なのかも分からないし、どうした急に」
「……い、今の忘れてください」
でも本当に直球で聞くバカがどこにいるんだ、この美鈴!
陰キャ特有の話しかけられたらもう親しいが発動して、急に距離感を詰めた話し方になってしまった。うぅ、万葉さん絶対に引いてる……。
「忘れるも何も、流石に聞き流せないだろ今の」
「いや、その。……いらっしゃるのかなー、と」
「……すまん。相沢がそんな話題ふっかけるとは思ってもみなかったから」
ごめんなさいね、陰キャであまり表に出ない質で!
キャラと言ったら、間違いなく言いそうにないキャラなのは分かる。
昔の相沢美鈴ならいざしらず、陰キャのわたしがそういうことを聞くのはなにか変だと思うから。
だがこれもわたしが生き残るため。さっさと万葉さんにはくっついてもらって、わたしはゆるゆる過ごすんだ。
「逆に聞くけど、なんでそんなこと聞くんだ?」
「えっ?! いや、その……。ちょっと気になったので」
尻すぼみに小さくなっていく声を物語るように、ただでさえ小さいわたしの身体が縮んでいてく感じがする。
主人公オーラ、強すぎて怖い。陽キャこわい。
「まぁ、そうならそれでいいか」
「うぅ、すみません……」
「謝ることはないだろ。って言っても、俺も言えることあんまりないけどな」
曰く。「特に誰を好きとかはないらしい」
アテが外れた、というか。それはそうだろうなぁ、という展開。
この段階で好きな人がいたら、猛烈アタックしてるだろうしね。さすがのわたしだって、そうしてたら誰が好きかなんて分かっちゃうよ、うん。
「ありがとうございます。グラフィティアートの参考になりそうです」
「えっ、今ので?!」
「フィ、フィーリング的に?」
意味のわからないことはおいておいて、とりあえず次!
えーっとメインヒロインその1は、この女神だ!
「えー、好きな人ー?」
「はい。まゆさんにはいないのかなー、と」
「んー、考えたことなかったなー」
彼女の人差し指が頬に押し当たっている。か、かわよ! 考え事するだけでこんなに可愛いのかこの女神様?!
あー、最高。この子本当に前世は女神だったんじゃないだろうか。
女神転生。そういうことか。メガテン様かわよい。
「じゃあ、美鈴さんとか?」
「うっ!!」
胸を抑えた。
だって満面の笑みでそんな冗談を口にするのだ。こ、この女、可愛すぎる!
冗談だったとしても、わたしにそんな好印象を持っていただけるなんて恐れ多い。多すぎて砂上の城のように波にさらわれて消えてしまう。べちょーって!
「あ、え?! 大丈夫?!」
「えへへ……。はい、わたしは元気です」
「元気そうに見えない生返事だけど?!」
この女神 かわいすぎだろ 最上川
俳句を詠むのはこの辺りでいい気がする。あとは介錯していただければ、わたしはもう本望だ。
こちらも冗談は半分さておく。
わたしとの交流がメインで気づいてたけど、どうやらまゆさんではなかったらしい。
となるとやはり最後はこの人だろう。
図書室にやってきたわたしは部屋の一角に恐れながらも声をかける。
「………………」
あの。無視はやめていただきたいのですが。陰キャ死んじゃいます。
響さんは家族の間柄とは言えども、元は他人同士。昔から万葉さんを好いていたという設定もある。
原作通り行ってくれるなら、きっと万葉さんを一番好きなのは響さんに決まっているはずだ。
わたしという異分子がいる時点で、原作通りもクソもないのですがね。はっはっは。
「あの、響さーん……」
「聞こえてる。要件はなんだい?」
聞こえてるんじゃん! だったら返事してよ。マイペースなのか変わり者なのか。まったく……。多分両方か。
それより要件はさっさと伝えよう。こんな空間にいるとものすごく気まずいから。
「えっと、好きな人がいるかなー、と」
「ごほっ!」
「思いまして……」
むせた、この人。
本の壁の隙間からわたしを覗いてきてる。目だけが! 怖い!
「き、きみは、冗談が言える質だったかい?」
「冗談とかじゃないんですけど、その。気になって」
「……バカバカしい。いるわけないだろう、常識的に考えて」
「万葉さん、とか」
「げほっ!」
「思いまして……」
またむせた。これは図星かもしれない。わたしの交渉テク最強か?!
本の隙間から覗き込む視線が5倍ぐらい鋭くなった気がする。怖い……。
「あいつは、まぁ好きではあるが。家族としてだ、家族として。一個人の感情を持ち合わせるには十分すぎるだろう?」
「恋愛とかは?」
「きみは本当にぼくを怒らせるのが得意と見える」
ぴぃ! また鳥の鳴き声を口にしてしまった。
さっきの5倍視線が鋭くなったから、当社比的に25倍もの鋭さです。怖いを通り越してもう痛い!!
「しかしきみが色恋沙汰に興味があるとは知らなかったよ。後ろで引きこもっているだけの同類だと思っていた」
「同じ陰キャであることは間違いないですが……」
「……それに関しては否定はしないがな」
しないんだ。新人賞受賞の小説家が陰キャとか言わないでください。反応に困る。
「しかし。きみも元アイドルだと言うなら自分の立場も考えた方がいいぞ?」
「え?」
「きみが気にしていないだけで、周りはかなり過敏になっているということさ」
鋭かった視線はどこかへと消えた気がする。
代わりに残ったのは、なんとも気分の悪い違和感だけ。気にしてないって、わたしが元アイドルなのってそんなに聞きづらい雰囲気だったかな。
まぁいいか。とりあえず教室に戻って、グラフィティの設計図でも描こう。
「きみに一つ忠告しておく」
「はい、なんでしょうか?」
「あの悪ガキでか女には注意することだな」
「へ?」
鈴鹿さんのことかな。口は悪いけど、あの人に注意することなんてトラブルぐらいしか……。
「……オマエ、万葉のことが好きなのか?」
「…………へ?」
教室に戻ってきた途端、その鈴鹿産のトラブルが発生した。




