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55 卒業

 

 今日はついに王立学園の卒業式。ルイス様にとっては学生最後の日である。

 卒業式は講堂にて卒業生とその父兄のみ参加となり、夕方からは在校生も加わり大ホール、大庭園、小ホールを全て繋げて大規模な卒業パーティーが行われる。


 今日は平民であっても全員参加が求められている。ドレスや礼服は学園長のご厚意により無料で貸し出されるため、数少ない平民たちは普段は縁のないパーティーをとても楽しみにしている。

 そして私も今日はドレスな訳で……



「すごいわ……寸分の狂いもなくピッタリね」

「セリア、とても似合ってるわ」



 リリスが感心し、エミーリア様が褒めてくれる。私は今、数日前にエルンスト様から頂いたドレスとアクセサリーを身に付けているのだ。

 藍色の生地に銀糸の刺繍とビーズが胸から足先までセンスよく散りばめられ、まるで前世の天の川のような模様が輝いている。



 無駄なフリルやレースはついておらず、体のシルエットにフィットしているマーメイドに近い大人っぽいドレスだ。それに、シンプルな宝石がついたネックレスとイヤリングをつける。


 装飾が少なく体にピッタリとしたデザインは私の好みで、お直しなしで驚くほどジャストフィットしている。体のサイズなんてエルンスト様に伝えたことないのに……サイズと好みが合うなんてすごい偶然だ。



 支度を終えて3人でパーティー会場へ向かう。タイトなドレスが珍しいのか視線が突き刺さる上に、馴染みのない服装だからかソワソワと少し緊張する。



「では私はお義兄様と入場するからまたね」

「またねエミーリア様、ほらセリちゃんもお相手がお待ちよ。またね~」



 卒業生との入場でルイス様のパートナーであるエミーリア様と離れた。そして私よりも先にエルンスト様を見つけたリリスもウィンクをして離れていく。

 人混みの中でも長身のエルンスト様は私に気が付くと、顔を綻ばせ近づいてくる。



 社交界シーズンでもアランフォード殿下の護衛として参加していた彼は詰め襟の騎士の制服が多かった。だけど今日は他の貴族と同じように礼服に身を包んでいるのだが、長身と鍛え上げられた逞しい体のシルエットが綺麗で……



「セリア待たせたな。ドレスが間に合って良かったし、それに」

「…………」

「セリア?どうした?」



 わぁお、その格好良さは反則だ!エミーリア様とルイス様の美しさで精神を鍛えていたが、エルンスト様はまた違った要素で目を惹き付けられる。

 やっぱりエルンスト様って格好いいよなぁ~とじっと見つめた。



「エルンスト様の礼服姿が新鮮で格好よくて見惚れてました。さすがです」

「――――っ、セリア。絶対に二人きりの時には言うなよ。色々と困る」

「……?はい、わかりました。あ、入場が始まるみたいですね」



 音楽が鳴りはじめ、卒業生とパートナーが二階の階段から並んで入場してくる。パートナーは家族だったり婚約者を伴う卒業生が多く、ルイス様も義妹エミーリア様と入場だ。



 そして卒業生の列が途切れ、音楽が変わる。すると最後の入場者、卒業生アンネッタ様がアランフォード殿下にエスコートされ登場する。教会のステンドグラスのように洗練された二人に注目が集まる。



 二人は階段から降りることなく立ち止まり、会場全体を見渡すとその場で婚約宣言をした。政略結婚にも関わらず、二人は仲睦まじく寄り添っている。



 アランフォード殿下とアンネッタ様にそれぞれ思いを寄せる人達からは声にならない悲鳴が聞こえるものの、会場は祝福ムードで満ちた。

 そしてアランフォード殿下の開会宣言を合図に音楽が流れはじめ、卒業生によるダンスが始まった。もちろん私はあの二人に釘付けな訳で。



「エミーリア様とルイス様のダンスが素敵過ぎます。なんとお美しい」

「ふっ、相変わらずセリアは兄妹の信者だな。二曲目から俺たちも踊るぞ」

「え、踊るんですか?」

「踊れると知ってるんだからな、行くぞ」



 曲が変わるタイミングで手をひかれダンスの輪に混ざる。エルンスト様の力強いリードのお陰で、履き慣れないヒールでも踊りやすい。



「やっとセリアと踊れた。夏にルイスと踊っているところを見て、彼が羨ましかった」

「え、まだ黒猫だとバレてませんよね?」

「言っただろう、黒猫じゃなくても惹かれてたと」



 本当に黒猫とは関係なくセリア(わたし)を好きになってくれたんだと改めて知り嬉しくなる。このあと思い出話をするのも良いかもしれない。

 曲が終わるタイミングでダンスの輪から抜けようとするが、エルンスト様が腰に当てていた手に力を込めて私を引き寄せた。


「まだ駄目だ」

「え?もう一曲ですか?」

「婚約者同士なら二曲続けるものだ。それに、もう少しこうやって独り占めしていたい……今日のセリアは特に綺麗だから」

「──ぇ」



 ストレート過ぎる言葉に恥ずかしくなり、ステップを間違えてしまうがエルンスト様がきちんと支えてくれる。今日のエルンスト様は糖度が高い。これ以上彼を意識してしまうとステップをまた間違えそうで邪念を振り払っていると、ふとこちらに向けられる視線が多いことに気が付く。



「エルンスト様、皆さん見てますね」

「……攻めすぎたな。みんなセリアを見てるんだ」

「え?エルンスト様ではなくて?」

「あぁ、アドバイスを参考にシルエットが綺麗に見えるドレスを選んだのだが……色気が、な」



 エルンスト様が悩ましい顔で告げる。私とは無縁と思っていた色気が出ているらしい。

 少し前なんて男装姿でキャーキャー言われて自信を失いそうだったけど、ついに私も男から女に近づいたようで心でガッツポーズを決める。



「どんどんセクシーで攻めましょう」

「いや、俺が困る。現に今も困っているんだ……」

「むー」



 女らしくなろうと提案したのに、すぐに却下されてしまう。今もエルンスト様は悩み顔であることから、彼は黒猫好きとあって男っぽい方が好きなのに、女っぽい今に困ってるのかもしれない。



 私は少し拗ねた気分で、ダンスのステップに集中することにした。


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