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47 伯爵家

 

「セリア、ようこそグレーザー家へ」

「エルンスト様、お招きありがとうございます」

「僕たちも招待してくれて嬉しいよ。リア、テオもお礼を」



 ルイス様に促されエミーリア様とテオも頭を下げた。

 今日は先日のお礼と約束を果たすためにエルンスト様のご実家グレーザー伯爵家にお邪魔している。エルンスト様は穏やかな笑顔で私たちを出迎えてくれた。



「もちろんだ、ルイス。エミーリア嬢、執事のテオさんで良いか?皆さん歓迎するよ。俺の方にも急な参加者がいるから気にしないでくれ」



 エルンスト様に案内されて門を通り、エントランスホールまで行くと見覚えのあるゴージャス美人が待っていた。



「セリアさん、お久しぶりね。夏のパーティーで急にヘアセットをお願いした時以来かしら」

「はい。アンネッタ様、お久しぶりです。アランフォード殿下よりお聞きしました、各お茶会でエミーリア様の悪い噂を否定してくださっていたとお聞きしました」

「いいえ、あまり効果がなくて申し訳なかったわ。それと、エルのご両親が領地視察で不在だから、今日は私が皆様をおもてなしするわね」



 エルンスト様の従姉弟のアンネッタ様も微笑んで出迎えてくれる。エルンスト様と同じ藍色の髪に、王族と同じ空色の瞳をもつ社交界の華と呼ばれる美人でエルンスト様と噂のあるお方。

 エミーリア様とルイス様もアンネッタ様にお礼を伝えると、エントランスホールから移動する。



「アンナ、セリアが運動着に着替えられるように部屋に案内してくれ。俺はルイス達と先に訓練室に行ってる」

「分かったわ。さぁセリアさんこちらへ」



 エルンスト様たちと途中で分かれ、アンネッタ様が自ら私を客室に案内してくれた。しかし部屋に入るなりアンネッタ様の雰囲気が柔らかいものから、ピリッとした鋭いものに変わる。



「ねぇセリアさん……貴女はエルの事をどう思ってるの?正直に答えて」

「……同じ主人を守る人間として尊敬しております。その、今回も訓練の一環でアンネッタ様がご心配するような関係はございません」



 アンネッタ様はエルンスト様と私の仲を疑っているらしい。婚約はしていないものの、周囲はエルンスト様とアンネッタ様は良い仲だと思っているわけだし……本当の話なのかも。きちんと否定しておく。

 するとアンネッタ様は残念そうに溜め息をついた。



「嬉しいけど残念ね」

「はい?」

「貴方がエルの黒猫への憧れを利用する悪人でなくて嬉しいの。だけどエルの事を何とも思ってないのは残念ね」

「尊敬してますよ?」

「ふふふ、今はね。これからはどうかしら」



 まるで謎かけにあった気分だ。尊敬ではダメなんだろうか?

 着替えが終わったので訓練室へ向かうと、まるで前世のジムのような光景が広がっていた。



「エルンスト様、凄いです!なんて素敵なんでしょう!さすが伯爵家」

「良かった。気になる器具を試して、体が温まったら組手をしようか」



 訓練室の広さも驚いたが、この世界にはないと思っていたランニングマシンに酷似した魔道具なんかもあって、羨ましすぎる環境が眩しい!



 そしてエルンスト様は専属トレーナーのように使い方を丁寧に教えてくれた。難しい器具を扱うときには補助をしてくれるのだが、近い距離感に少し緊張してしまう。

 ふと香る彼の匂いに、ハグを思い出してしまうのだ。



 ちなみにルイス様、エミーリア様、テオはガラス張りの向こうの休憩室でアンネッタ様のおもてなしを受けている。テオは普段はもてなす側なので、慣れてないのかどこか緊張した面持ちでコチラを見ていた。


 目線が合ったので手をふると、テオは返してくれた。するとエルンスト様は補助の手を止めた。



「なぁ、セリア。あの執事とは仲が良いのか?」

「はい。テオはダーミッシュ家に拾われたときから文字とか教えてくれた兄のような存在です。たぶん…………そうだ!さぁエルンスト様、そろそろ組手をしましょう」



 先日の『妹とは思っていない』発言を思い出し、気分が少し沈みかけるが隠すように組手を提案する。


 エルンスト様は剣術が本職だが、体術派の私に合わせてくれる。補助の時よりも距離は近く、触れ合っているけれど先程のような妙な緊張感はない。気のせいだったのかな?

 集中し直して攻撃を仕掛けているが、エルンスト様にギリギリで捌かれてしまう。私の体力の限界が来たので、一度手を止めた。



「はぁ、はぁ。エルンスト様、以前対峙した時とは大違いですね。さすがです……良かった。本当にいつものエルンスト様が戻ってきて良かったです」

「セリア……あの時は本当にありがとう。お陰でアランの信頼を失わずにすんだ。セリアはいつも俺を助けてくれるな」


「偶然ですよ」

「偶然でも事実だ。あれから体術も少し研究したんだ。セリアに負けっぱなしは情けないし、次は俺がセリアを守れるくらい強くなりたかったから」


「私を守る……?」

「闘いに強くてもセリアは大切な女性だ。俺は大切な人は守りたい主義だからな」



 優しい笑顔でエルンスト様は真っ直ぐに言った。私を守りたいと言った人は初めてで、なんだかくすぐったい気持ちになる。


『大切な女性』という言葉なんて本当に初めてで…………浮わついてしまいそうになるが、勘違いしてはいけない。エルンスト様にはあの方がいる。私はあくまでも彼の友人でいなければならない。



「ではアンネッタ様は特に幸せになれそうですね」

「なぜアンナ?」


「公表していないだけでアンネッタ様はエルンスト様の婚約者なんですよね?」

「違う。婚約なんかしていない。アンナも俺も従姉弟という家族の関係としか思っていない。俺はセリアを守りたいんだ」



 エルンスト様は優しい表情から真剣な眼差しになり、その言葉にどこかホッとしている自分がいた。なんでだろ?

 でもエルンスト様は違うと思っていても、アンネッタ様は彼を家族ではなく異性として見ていたら?



 あれ?異性って……この状況って最近似たような……ハッとなり休憩室をみる。



 すると機嫌が良さそうなアンネッタ様、複雑そうな表情の義兄妹、冷たい目のテオがいた。

 いや、そんなはずは……駄目だ。今は伯爵家にお邪魔してるから考え込んではいけない。そう思い疑念は頭の片隅へとしまった。



 そのあとは終始充実した訓練時間を過ごせた私はすっかり上機嫌だった。帰るために元のワンピースに着替えようと客室に行くと、またアンネッタ様に質問される。



「どう?エルと一緒だと楽しいでしょ?」

「はい。充実した時間を過ごせました」

「これからも仲良くしてあげて下さらない?エルは強くて容姿もよくて性格も真面目な優良物件よ」

「…………?」

「気に入ったら引き取ってくれても良いのよ?ふふふ、なぁんてこれ以上はエルに怒られちゃうわ。とにかくあの子を宜しくね」



 本気なのか冗談なのか分からないアンネッタ様の発言が頭の中をぐるぐると回りだす。

 宜しくって……友達としてって事ですよね?でも優良物件を引き取るって、その言い方はまるで――――ということはアンネッタ様はエルンスト様を好みの異性として見てないという訳で。



 じゃあテオが言っていた『異性』と意味は一緒?ならテオが言いたかった事は…………あれ?

 どんどん分からなくなって、ダーミッシュ家の屋敷に帰ったあと私は今世で初めて寝込んだ。


 知恵熱である。


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