21 学園(春)
「今日もお二人は麗しい」
入学式から2ヶ月が経った。昼時、私は植物研究棟の3階部分から、オープンカフェ風の食堂で友人とランチを楽しむエミーリア様を見ている。少し離れた所で同じく友人と食事をしているルイス様も見逃しはしない。
ここは3階といいつつも屋根がなく、屋上といっても良いような実験用の植物園になっている。日当たりもよく眺めが良いので人気スポットにもなりそうだが、セリア以外の人は見当たらない。
ここに生えている植物が普通じゃないのだ。魔物の森に生息する怪しいものや、見た目がグロテスクな植物ばかりで、自由解放されてるのにも関わらず誰も寄ってこない。
恥ずかしがり屋なのか、研究員も気配はあるのに姿を見せない。
そんな所ではあるが私はここで昼食を食べている。学園は貴族ばかりで、商人でもない平民の私と友達になる人はおらず基本的にボッチ飯。
週に一度程度はルイス様がここに来てくれて、エミーリア様に内緒で一緒に眺めながら食べるときもある。
リリスと食べることも考えたけれど、彼女は商会のパイプを繋ぐために貴族との交流に積極的に関わっているようだから、邪魔はしたくなかった。
エミーリア様も同様だ。ここでの貴族同士の交流は、将来馬鹿にできないほど重要。「クラスが違うためランチだけでも一緒に」とエミーリア様は言ったが、友人といるよう説得した。
特に1年生のスタートは大切だと判断してのことだ。
そのせいでエミーリア様とは平日は基本的に朝のおはようと、夜のおやすみの挨拶程度になってしまった。その反動なのか、休日の甘えっぷりが凄まじい。
ひとりは寂しい?そんなことはない。本当にここからの眺めが素晴らしいのだ!
植物園の生け垣の隙間からはエミーリア様とルイス様のお姿が丸見えで、誰にも邪魔されず、双眼鏡を片手にランチを堪能できるのだ!
これは夜景と高級ディナーに匹敵すると思う。
そして、お二人に変な虫が付いていないか確認するのも忘れない。まだ実際に行動を起こす者はいないが、エミーリア様を狙う男子生徒はチェック済みだ。
ルイス様は何故か令嬢に熱視線を送られるだけで、誰も話しかける様子はない。
ついでに他の人間観察も行う。今は見当たらないものの、目立つのはやはりアランフォード殿下だ。
どこにいてもすぐに見つかるほど、常に人に囲まれている。それを爽やかな笑顔で対応し、疲れを見せない殿下は常人ではない。
また殿下だけではなく他の権力者のモテモテ令息もいて、まるでリアル乙女小説だなぁと他人事のように眺める。
人間観察をしていて最近気になる事はあるが、夜の寮部屋で情報通のリリスに聞いてみよう。
学園の昼休みは、貴族たちが食後のお茶も出来るよう配慮されて時間が長い。私はお弁当箱を片付けて、レジャーシートを広げた。
「さて、やりますか」
何もせずにボーッとするのは勿体ないので、ストレッチをして腹ごなしをする。そうするとストレッチの後に食べるお菓子とお茶がいつもより美味しく感じるのだ。
お菓子は料理長から教わった『初心者でも美味しく作れる混ぜるだけ簡単スイーツ』のレシピ集を見ながら、料理長のオリジナルブレンドの魔法の粉で作る。前世でいうホットケーキミックスにあたるだろう。
誰にも見られないので、制服のブレザーだけ脱いでワンピースのまま、シートの上でストレッチをする。エミーリア様の安全のためにも日々の鍛練は怠れない。
数分もすると植物園に賑やかな声が近づいてくる。珍しいなと思い、誰かなぁと近くの木に足をかけ覗き見ると、賑わう団体よりこちら手前に隠れる銀髪と目が合う。
「──!」
「……(あ、察し)」
すぐに木から飛び降りて、団体にバレないよにさっと銀髪の彼に近づき声をかける。
「殿下、ここでは見つかります。姿勢を低くしたままあの木の下まで進んでください」
殿下が頷くと私はあえて団体へと向かい姿を見せる。案の定、不気味な植物園を恐れて中には入らず、出入口から声をかけられる。
「そこの貴女!この近くでアランフォード殿下を見なかったかしら?早く答えなさい」
団体はいかにも高位の貴族令嬢であろう4人。いつも殿下の近くにいるのを見るが、殿下が聞いているかもしれない所で上から目線の発言とは……ここは一応、平等を掲げる学園内というのに。
「見ておりません」
「嘘よ!この建物に入っていくのを見かけたのよ」
トップであろう令嬢が反論し、他3人も同調してうるさい。これは殿下も逃げたくなる。いつも大変なんだなぁ……ここは守ってあげなければ!
「そうなんですか!?では遂に殿下にこの植物園の素晴らしさを伝えるチャンスが来たのですね!あぁ虫をパクっと食べる姿が可愛いあの子や、血のような分泌物を出す美しいあの子をご紹介しなければ!それに」
「も、もういいわ、十分です!」
トップの令嬢がドン引きして後退る。
「こんな恐ろしい場所に殿下がくるはずありませんわ」
「こんな危ない方に見つかっていたら、今頃殿下は説明地獄に合われてるわよ」
「確かにそうね、見間違えたかしら……別の階に行きましょう」
とコソコソ話して、最後に「失礼するわ」と言い残し去っていった。あれだけドン引きしていたから、余程の事がない限り再び来ることはないはずだ。
肉食令嬢が階段を下りるのを見送り、木の下へ戻る。
殿下の背中が見えると少し震えているように見える。それだけ令嬢が恐怖だったのか……まだ若いのに苦労してるなぁ。
私に気付き殿下が振り向く。初めて近くで見たが、超イケメンで眩しい。
「助かった。気遣いありがとう」
「恐れ入ります。私はこの場を離れますので、殿下はこのままお寛ぎ下さいませ」
王族とは関わる気もなく、一緒にいるのも気まずいので植物園から出ようと挨拶を続ける。
「そこのシートはお使いください。この場に残していただければ、放課後にでも回収いたします」
「あぁ、すまない」
「では失礼致します」
そう言葉を交わすと殿下が微笑んだ。そのイケメンパワーは最強で、令嬢たちが猛獣と化してまで狙うのも仕方がないのかもしれない。
まぁエミーリア様とルイス様の微笑みには及ばないが……ふふ、二人を思い出してニヤケそうだ。私は感情が表に出ないように軽く淑女の礼をして、その場を去った。
そして教室に戻ってから大変なことに気がついた。
「あ、おやつとお茶忘れた」
あの令嬢たちが殿下を追いかけ回さなければ、食べ損ねることは無かったのに!今さら戻って殿下に知られるのも恥ずかしい。
とおやつが出来なかった私の午後のやる気は半減され、令嬢に対する食べ物の恨みは倍になった。
ついでに制服のブレザーも忘れた。




