18 受験
「リア様、本日の髪型はいかがなさいますか?」
「ダンスの稽古があるから、シンプルに…………そうね、今日のセリアとお揃いが良いわ」
「かしこまりました」
私は15歳になって、侍女の仕事も多く任せてもらえるようになった。
髪もエミーリア様と同じ髪型ができるほど長くなり、たまにお揃いを希望されるのが嬉しくて切れずにいる。屋敷に来てから栄養状態がよく、身長も伸びてエミーリア様より頭半分高いくらい。
エミーリア様はもう天使そのものである。蜂蜜色の髪は輝きを増し、肌は白く透き通り、少し化粧をした目元は翠の瞳が大きく、唇は瑞々しく光る。前世の僅かな記憶を駆使し、自らの手でエミーリア様の髪や肌の手入れを行い、化粧を施す。あぁ、至福である。
あれから平和な約4年を過ごしてきたが、今年エミーリア様は14歳。来年の王立学園の入学を目標に、受験勉強が始まろうとしている。
王立学園は試験に合格できれば平民でも入学できる、グランヴェール王国直轄の唯一の学園である。試験のレベルは低くなく、ほとんどが水準の高い教育を受けてきた貴族やその縁戚で構成されている。学園内での身分差別は校則違反とされているが、学園は小さな社交界とも言われ、入学できれば一種のステータスとなっている。学園で培われた人脈は将来大切になるため人気が高い。
年齢は15歳から入学可能で上限はなく、3年のカリキュラムをこなして卒業する。たいていは15~18歳で入学して、遅くとも20歳までに卒業するのが一般的だ。
ルイス様は昨年16歳で入学し、今年で2年生の17歳。微笑みのルイス様は健在で、学園でも密かにファンがいると噂では聞いている。
今はダーミッシュ男爵家の屋敷から馬車で学園に通われている。エミーリア様とはシスコン、ブラコンと言えるほどの仲の良さで、私の目は潤いまくっている。二人が並んだ姿は天使の戯れのようだ。
テオも17歳になった今も一人前の執事を目指しながら、ルイス様の従者を続けている。今はすっかり身長が高く伸び、燕尾服が決まっている。紅茶が飲みたいと彼の部屋を訪ねても入れてくれず、最近どこかよそよそしいのが寂しい。
「できました。どうですか?」
「いいわ!上手になったわねセリア」
自分の髪型をベースに編み込みを足して、少し華やかにしたのは正解だったようだ。うん、今日も天使は美しい。
エミーリア様に巻き込まれて始まった淑女教育は、残すは音楽のみ。
マナーは侍女になる上でも大切なため、ニーナさんのスパルタ教育もあり何とか合格。ダンスは運動神経でカバーして、誤魔化しながら合格。どちらも先生はおまけで合格させてくれた感が半端ない。音楽は諦めようと思う。理由は聞かないで欲しい。
「ダンスレッスンの間は今日も特訓なの?」
「はい、護衛の皆様に鍛えてもらう予定です。リア様をお守りするために、頑張りますね」
「えぇ。登下校もセリアと一緒なら楽しそうだし、安心だわ」
ルイス様と一緒に馬車で通学したいリア様だが、護衛がいたのにも関わらず以前誘拐されたこともあって不安だった。
だから私が通学に同伴し直接お守りできるよう、隙間の時間に本格的に体術を鍛え直している。
ちなみ座学の時間は、勉強するエミーリア様の近くでドレスのサイズ直しやリメイクなど裁縫の特訓をしている。エミーリア様のプロデュースの夢も忘れてはいない。
夕方になりルイス様が帰宅され、いつもの3人でお出迎えする。他の人は影から覗いている。その方がルイス様の笑顔が素敵に見えるんだとか……
「お帰りなさいお義兄様」
「「お帰りなさいませ、ルイス様」」
エミーリア様がルイス様に駆け寄り、私とテオは後ろで礼をする。
「ただいま、今日はお土産があるんだ」
「まぁ、可愛い飴細工」
「セリアにもあるよ、リアとお揃いでね」
「私にまで。ありがとうございます」
こうやってルイス様はよく小さなお土産を私にまで買ってきてくれる。テオにはまた別のお土産が用意されている。
使用人であれば辞退するのが良いのかもしれないけど、エミーリア様とお揃いと言われてしまい受け取ってしまう。エミーリア様も私とお揃いが好きなので、断ることなど出来ない。
夕食はいつもアドロフ様、シーラ様、ルイス様、エミーリア様の四人で取るのが日課となり、ルイス様から学園での話を聞くのが皆様の楽しみとなっている。
その間は私はエミーリア様の寝間着や食後のお茶を用意しながら、寝室で待機する。食事から戻られたら、今は遅番のニーナさんにお任せして退勤の挨拶をする。
今日もその予定なのだけれど…遅い。
すると、ノックのあとすぐ扉が開くがエミーリア様ではなかった。
「テオ!なんで?」
「お嬢様がお呼びだ。その……頑張れ」
「頑張れ?」
急いでテオと食事の間に行くと、今にも泣きそうなエミーリア様と困り顔のご夫婦とルイス様が何かを説得していた。テオが「ずっと同じ事を続けてるんだ」と耳打ちしてくれる。
「セリア……!お義兄様が来年から寮に移るんですって。一緒に通学できると思ってましたのに……」
「ねぇリア。僕も最終学年でやりたいことができたんだ。通学の時間をそれに充てたいんだ」
「リア、ルイスのために分かってあげて」
「じゃあ私も寮に移るわ、でしたら夕食だけでもお義兄様とご一緒できるわ」
「でもねリア、寮には使用人を連れて行けないと言ったよね。セリアと離れてしまうよ」
「……っ!お義兄様かセリアのどちらかだけなんて選べないわ!」
ルイス様が学園に入ってから一緒に過ごす時間が減ったため、寂しい思いをされていたのだ。
エミーリア様はそれはもうルイス様との通学を楽しみにしていた。その期待が崩れ、取り乱している。
お可哀想ではあるが、私のことも同じように好いてくれていることが分かる発言に少しだけ浮かれてしまう。
「セリア、君はどう思う?」
「セリアからも言ってあげて」
そうアドロフ様とシーラ様に聞かれ、目を合わせるが……『寮生活を断念させて、通学させるんだ』『ルイスとも離れるのに、リアも屋敷から離れるなんて寂しい』『セリアがリアと一緒にいたいと言えば留まってくれる』そう訴えられているのが分かる。
「リア様、本当に寮に行かれてしまうんですか?私は寂しくなります」
「私もセリアと同じ気持ちよ!なんで寮に連れていけないの…………」
エミーリア様は両手で顔を覆い、俯いてしまった。泣いてしまったのだろうか。心配になり肩に手を乗せようとした瞬間、笑い声が聞こえてきた。
「ふふふ」
「リ、リア様?」
エミーリア様は急に顔を上げ、微笑み始めた。まるで、悪巧みを思い付いたような、そんな顔。何かを察知したご夫婦は顔を青ざめ、ルイス様は何かを悟ったように微笑んでいた。
「そうよ!学園は試験に合格すれば平民でも入れるのよ。セリアも一緒に入学して、寮に入れば全て解決するじゃない!どうかしら?」
そう満面の笑顔で提案するのであった。




