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私は犯罪者ですか?  作者: 苗字名前
第2章――物語の始まり、”反逆者の誕生日”
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犯人の正体

草地は唖然としていた。


釘崎たちが車から出ている間に、ヒョッコリとドアの向こう側から現れた黒い物体。人型のそれはプラスチックで出来たようなプレートを纏い――頭、腕、足、全てが直角的な作りをしている。けれどそれに反して手はとても人間的で、爪は無いがリアルに見えた。そして、動きもスムーズだ。手に限らず、その体全体の動作は滑らかで、外見に似合わず早い。

草地はコレを何度かデパートの玩具売り場で見たことがある。


――Robotic Doll(ロボティックドール)


今最も流行っている人型のホビー用小型ロボット。

「スケルトン」と呼ばれる骨組みに、「アームプレート」と呼ばれる外装パーツを取り付けるもので、さらにスケルトンには、バッテリーやモーター、コントロールメモリといったロボットを遠隔操作できるパーツが内蔵されている。

頭部の“眼”は視覚センサーが入っており、コントロールメモリと同様、持ち主のスクリーンと繋がっていて、ロボットの視界がそのまま見える。だから、このロボットはとても操作がしやすく。時々、自分がそのロボットに乗り移ったような感覚を味わうことも出来るようだ。おまけに聴覚器官も着いていて、音も聞こえるのだから、尚更だ。

そして、「スケルトン」と「アームプレート」にはたくさんの種類があり、これらをプラモデルのようにカスタマイズして、 自分の機体を組み立てることができる。簡単に、手軽に作れて遊べ、子供の間では“バトル”が出来ると大人気の玩具だ。


草地はじっ、とそのロボット、いや、ドールを見つめる。

10センチ程のロボットには、小型のケータイが背中に貼り付けられていて、通話モードになっているのが見える。デザインからして、100均一で買えるケータイ、というより安物の通信機だ。最近子供がお互いに連絡を取り合うのに使っている奴だろう。

何故か釘崎たちの声がそこから、微かにだが聞こえる。


――まさか、この近くにもう一つ、ケータイがあるのか?


勘の良い草地は“障害物”にケータイが取り付けられていることに気づく。


――だが、何のために―?


ドールはピョンと運転席の上に乗りあがると、車のモニターをポチポチと操作し、主導で車を静かに閉じらせた。すると、


『障害物の撤去を確認。発進しますか?』


AIの声に答えるかのように、ドールはその小さな手で、モニターに表示された『Yes』のボタンを押した。


『ご乗車している人数が足りないように思えます。ご確認ください』


すると、ドールは器用に後ろに手を回す。


「……?」


ケータイに触れているが、動く気配が全く無い。まるで何かを待っているようだ。そして、しばらくするとドールはケータイの音量を上げた。


『…我々は此処に居るコレで全員です』



「!!」


釘崎の声が聞こえた。

そこで、ドールはケータイの通話を切り、次にAIの声が響く。


『了解しました。釘崎死刑執行官のYesの指示に従い、発進します』


唖然とする草地を置いて、AIの合図で車はエンジンを鳴らさず、猛スピードで動き出した。どうやら、さっきモニターを操作している時、車の運転スピードを変えたようだ。行き先もモニターのマップを見る限り、変わっているように見える。


「……いったい、どこへ」


草地は困惑した。突然 急変した事態。ドールを除けば、走り出している車に乗っているのは自分一人だけ。不安が胸の奥からせりあがってきた。俺は、一体、どうなるのだろう。

ゆっくりと視線を元凶のドールに向ける。ドールもまた運転席から、じっ、と後ろの席に座っている草地の方を向いていた。

小さな、円らな瞳、否、アイカメラは此方を見つめている。指は何故か親指を立てた「グッド」ポーズだ。無機質な体とは対照的にお茶目に見える仕草は、異様に見えた。


――異質だ。


冷や汗が額から垂れる。草地はゴクリと唾を飲み込んだ。そして警戒するように、座席の上で後ずさる。その様子にドールは姿勢を解いて、しばし沈黙した。

10秒、20秒、あるいは1分。それぐらい経つとドールは再び動き出す。


「……え?」


左腕を垂直に上げ、手首を直角に曲げる。反対側の右腕は肘を曲げ、ひじから先を床と平行とする。同時に右足も、膝から先を床と平行として、ドールは反対側の左足だけで立った。


―――シェ―のポーズだ。


今では誰も知らないソレは、昔の人、あるいは草地や金城しか知らないポーズだ。金城の家で読んだ「おそ●くん」という凄く古い漫画から来ているギャグだった。よく金城がふざけて真似していたのを覚えている。


「……まさ、か、」


―――そんなはずはない。


 草地は浮かび上がった可能性を即座に頭から否定した。ありえない、あの男にこんなこと出来る筈が無い。草地は目を瞑って“彼”のことを思い出す。

 金城理人は普通の一般人だ。爆弾など入手できるルートも知らないし、そんな危険な輩とも関わりあったことがない。目の前のドールはともかく、こんな危険な犯行を起こせる道具など持っていないし、こんな精密な計画をあの男に立てられるわけが無い。失礼だが、あの男は馬鹿だ。そんな簡単に犯行を起こせる脳を持っていなければ、技量さえも持っていない。

 否。そもそもそれ以前に、あの男にこんな事が出来る筈が無い。奴は“健全な精神”を持った健全な市民だ。こんな犯行、思い浮かべる事も出来なければ、理由も――


「…まさか」


 草地はハッ、と息を呑んだ。

 体が震えた。何故かは分からない。恐怖か、不安か、罪悪感か、あるいは――。

 ありえない、そんなことはありえない。草地はその思いを端から否定する。自分は奴を喧嘩をした。罵倒を浴びせ、たくさん傷つけた。何度も酷いことを言った。だから、来るはずが無いのだ。あの男が――。


 真っ白になった頭と反して、涙が溢れそうになってきた。捨てたはずの感情が戻ってきてしまいそうだ。

――いけない。

 草地は背中を折って、体を縮こませる。心臓の鼓動は早まり、胸の奥から何かが競りあがる。目の奥はあつく、熱を持ち。鼻の奥が塗れてきた。

 震える唇を噛み締める。


「…ちがう、」


―――そんなはずがない。


 様子の可笑しい草地を心配するかのように、ドールは一歩足を踏み出した。

 瞬間、


大きな衝撃が車を襲った。


「!!」


大きな音、そして振動と共に車は急停止視する。草地は突然の衝撃に目を白黒させる。ドールも先ほどの振動で倒れこみ、運転席から落ちないようにと踏ん張っている。何事だ、と外に目を向けようとした。その時、

バリバリと、鉄とは思えない音で、運転席のドアが無理やり剥がされて行く。


「……ようぅ、随分と可愛らしい“伏兵”が居たもんだなぁ」


風で靡く銀の髪。歯を除かせながら、笑う口。覗き込むその顔には

狼、あるいは猛禽類を思わせる一対の目があった――。












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