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第22話「邪悪を貫く竜の槍」

 目を開くと、俺は元の人間の姿に戻っていた。

 目の前のイーリスが装着している鎧からは煙が噴き出しており、完全に動きが止まっている。


「イーリス!?」


 俺が叫ぶと、イーリスの顔についていた怪しげな装置が外れ、素顔が露になる。


「ありがとう、イブキ……」


 イーリスはそれだけ言うと、気絶して倒れてしまった。

 さっきのアレがなんだったのかはわからないけど、イーリスを助ける事ができたようだ。


「本当になんとかしたみたいね、でもまだ終わりじゃないわよ」


 サユキの言うとおり、まだ呪竜と魔女が残っている。


「ふふふ、やってくれましたわね……まさかわたくしが、あの世界で負けるとは思いませんでした」


 魔女の仮面の下からは、黒い液体が流れ出ていた。

 おそらく、あれは魔女の血なのだろう。

 だとしたら、魔女は人間では無いのかも知れない。


「ですが……現実ではそうはいきませんわ、きなさい呪竜!!」

「「「グオォォォォォォン!!」」」


 呪竜は魔女の呼びかけに応えるように咆哮を上げると、大きな口を開いて魔女の体を飲み込んだ。


「お、おいっ!?」

「気をつけなさい、何かしてくる気よ!!」


 呪竜の体が膨れ上がると、人間の形をした手足が生えてくる。

 まるで粘土のように体の形が変わっていき、胸のような膨らみができ、女性のような顔が現れる。


「こ、これって……」


 呪竜の姿は、まるで人間の女性のような形に変化していた。

 その全身には、呪竜と同じく目や口が付いており、頭には髪ではなく触手が生えている。

 そして、体の中心から不気味な青い光を放っていた。

 その大きさは10メートル近くはありそうだ。


「「「どうかしら、この姿は?」」」


 全身の口を使って呪竜が……いや、魔女が話しかけてくる。


「「「「ふふふ、ドラゴンと一つになるこの力……あなた達、竜騎士と似ているでしょ?」」」

「ふざけないで、そんな禍々しい力と竜騎士とドラゴンの絆を一緒にしないでちょうだい!!」


 サユキの周囲に五つの魔方陣が出現する。

 どうやら、イーリスに吸収されてしまった、あの魔法を使うようだ。


「今度こそ受けなさい、オーロラ・バースト!!」


 魔方陣から五色の輝く光線が発射され、呪竜と融合した魔女の頭を吹き飛ばす。


「「「ふふふ、その程度の魔法では、どうすることもできませんわ」」」


 すると、吹き飛ばしたはずの魔女の頭が一瞬で再生した。


「ちっ、とんでもない化け物ね」

「だけど、倒せない相手じゃないはずだ」


 俺はそう言って、魔女の元へと歩き出す。


「あなた、武器も無しに何をするつもりなのよ!!」

「確かに武器は無い……だけど娘なら来てくれたみたいだ」


 空を見上げると、白い翼の生えたコハクが上空を飛んでいた。


「パパ助けに来たよ!!」


 そう言って、上空から俺の胸に飛び込んでくる。

 俺はコハクを抱きしめると、その頭を優しく撫でた。


「「「心竜がなぜここに……結界に閉じ込めておいたはず!?」」」

「鬼の人が助けてくれたんだよ」

「「「そうですか、ここに来て彼が裏切ったのですね……ふふふ、それもいいでしょう」」」


 二人の会話を聞く限り、男の鬼人が捕まっていたコハクを助けてくれたようだ。


「ちょっと待って……心竜ってその娘が!?っていうか、あなたの契約してるドラゴンって心竜だったの!?」


 サユキが驚いているが、今は説明している暇は無い。


「やるぞコハク、本当の竜騎士の力ってやつを魔女に見せつけてやろうぜ!!」

「うん、わかった!!」


 コハクの体が輝くと、美しい白い槍へと変化する。

 俺がその槍を掴むと、両腕が白銀のガントレットに覆われ、さらに背中から白いドラゴンの翼が生えてきた。


「これなら……いける!!」


 背中にある白い翼が光り輝くと、俺の体は上空へと飛び上がる。


「「「その程度の力では、まだわたくしは倒せませんわ」」」


 魔女の大きな頭が割れると、大きな口のようなモノが現れ、そこから黒い炎が噴き出してくる。

 俺は急いで翼を動かし、真横に移動して、その攻撃を回避する。


『うわぁ……今のはびっくりしたね』

「まったくだ、おまえの体どうなってるんだよ?」


 まさか頭が割れて、炎が噴き出してくるとは思わなかった。


「「「ふふふ、この体は人間が理解できるような作りには、なっていませんのよ」」」


 魔女がそう言うと、大きな腕が伸びて俺に襲い掛かってくる。


「そんなもん!!」


 白い翼が輝き、刃のように近づいてきた魔女の腕を切断する。

 切り落とされた腕は、黒い霧になって消滅するが、魔女の本体はすぐに切断された腕を再生してしまう。

 今の魔女は、どんな攻撃を受けても一瞬で再生してしまうようだ。


「こうなったら、一撃で仕留めるしかない」


 今の俺達に、そんな威力のある一撃が出せるかはわからない……だけど今はやるしかない。

 その時、俺の体が輝いて、ありえないほどの力が溢れてくる。

 

「な、なんだこれ!?」

「私の魔力のほとんどを使って強化魔法をかけたわ!!あなたとその娘で、本当の竜騎士の力を魔女に見せてあげなさい!!」


 どうやら、この溢れ出る力はサユキの魔法のおかげみたいだ。

 俺達だけでは無理でも、サユキが力を貸してくれるなら……。


「コハク、やれるよな?」

『もちろんだよ、あたしの本気を見せてあげるね!!』


 コハクがそう答えると、腕だけでなく、俺の全身が輝く白銀の鎧に包まれる。


「あれは、イルシャードが心竜の力を使った時と同じ姿……やっぱりあの子は!!」


 全身から今までに感じたことの無い力が溢れてくる。

 これが心竜の本当の力……。


「コハク、一撃で決めるぞ!!」

『うん、決めちゃおう!!』


 さらに高く飛び上がると、俺は魔女の真上へに移動する。


「「「確かに強い力を感じます、ですが……」」」

「ごちゃごちゃ、うるせえんだよ!!いいからくらいやがれ!!」


 俺は、体から溢れ出る力を白い槍へと集中させる。

 すると白い槍は輝きを増していき、10メートル以上ある巨大な槍へと変化した。

 その槍を両手で掴み、魔女に向かって急降下する。


「これが本当の竜騎士の……」

「『力だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』」


 輝く巨大な槍が魔女の頭を貫通して、地面まで突き刺さる。

 すると、巨大な槍がさらに輝き、凄まじい光が溢れ出してくる。


「「「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」


 全身の口から悲鳴を上げ、魔女の巨大な体がドロドロに溶けて消滅していく……。

 魔女の巨大な体が完全に消滅すると、その中から呪竜と融合する前の魔女が現れた。

 俺は、元の大きさに戻った白い槍を構える。


「見事です、竜神の落とし子よ……どうやら現実でもわたくしの負けのようですわ」


 そう言うと、魔女の体は地面に倒れた。

 そして、ローブの中から大量の黒い血が噴き出してくる。


「こんな所でわたくしが倒される予定では無かったんですけどね……やはり、そこのブルーエルフから卵を奪った時に、確実に殺しておくべきでしたわ」

「やっぱり、この子は私とイルシャードの子供なのね」


 サユキが、そんなとんでもない事を言い出す。


「国王はイルシャードの再来を恐れていたんですわ、だから卵を奪って自らの手で殺そうとした」

「それを知ってるってことは、あなたと国王はやっぱり繋がっていたのね」

「ええ、国王は邪神の力を得るために、魔女であるわたくしに協力を求めたのですわ」


 この国の国王と魔女が繋がっていたなんて……。

 それじゃあ国王は、自分の娘であるイーリスを殺そうとしていた魔女と協力していたってことなのか!?


「ですが、王都はもう終わりです……今頃、あの愚かな王が勝手に国を滅ぼして自滅しているでしょう」

「どういう事だ?」

「ふふふ、邪神が与えるのは滅びだけ……邪神の力を求めた者に待っているのは破滅と絶望のみ、そしてそれは周囲を巻き込んでいく」


 その時、魔女の仮面から大量の黒い血が噴き出す。


「ぐふっ、この国は王都だけでしたが、他の国はきっと……」


 それだけ言うと、魔女の体は完全に溶けて消滅してしまった。

 残されたのは、黒いローブと奇妙な白い仮面だけだった。





 その日の夜、俺達は本来の目的地だった崖の上にある村にいた。

 イーリスは、あれからまだ目を覚まさず、今は宿屋のベットで眠っている。

 サユキが言うには、鎧に体力を奪われて眠っているだけなので、明日には目を覚ますそうだ。

 コハクも竜騎士の力を使ってイーリスを運んだ後、疲れたと言って、すぐに眠ってしまった。


「この村、本当に誰もいないな……」


 イーリスとコハクを寝かせた後、俺は村の中を歩き回ったが、村人は誰一人見当たらなかった。

 コハクから聞いたのだが、俺とはぐれた後、二人はこの村を訪れたらしい。

 その時から、村には誰もいなかったそうだ。

 その後、二人は魔女に捕まってしまい、コハクはこの村の地下にある結界に閉じ込められていたらしい。


「ぅ……」


 その時、近くの木陰から小さな呻き声が聞こえてきた。

 近寄ってみると、二十代前半くらいの男性が口から血を流して倒れていた。


「おい、大丈夫か!?」


 その男は、シズクと同じような黒髪で頭に角が生えていた。

 おそらく、この男がコハクを助けてくれたのだろう。


「シグレ、兄さんを迎えに来てくれたのか……」


 どうやら俺を妹と間違えているようだ。


「おまえを生き返してやりたくて、オレは……そうすれば、シズ……も苦しまずに……すむ……と」

「お、おいっ!?」


 俺の呼び声には反応せず、男はそれきり動かなくなった。

 誰だかわからないが、コハクを助けてくれたなら礼くらい言っておきたかった。


「その人、魔女の呪いで死んだみたいね」


 村の地下を調べていたサユキが、俺の所にやってくる。

 サユキは森を出ても俺とは別れず、村までついてきてくれていた。


「魔女の呪い?」

「その人の左手に妙な模様があるでしょ?」


 死んだ男の左手を見ると、黒い不気味な模様があった。

 これが魔女の呪いなんだろうか?


「魔女が死んだり、魔女を裏切ったら、死ぬように呪いをかけられていたんだと思うわ」


 だとしたら、この男は自分の命を捨ててまで、コハクを助けてくれたのか……。


「このままにしておけないし、弔ってあげましょう」

「そうだな……」





 男をサユキの魔法で火葬して弔った後、俺達は宿屋に戻ってきていた。

 今はイーリス達が眠っている部屋の隣の部屋で、サユキと村の状況について話し合っている。


「あれから地下を調べてみたけど、おそらく村人達は、あの空飛ぶ巨大な蛇を呼び出す生贄にされたんだと思うわ」

「生贄って、そんな事ために村の人達の命を……」


 いったい、どれだけの命が犠牲になったのだろう……。

 さっきの男の事といい、魔女に対して怒りが沸いてくる。


「魔女はあなたが倒した、もう終わったのよ……」


 そうだ……もう魔女はいない、これ以上犠牲が出ることは無いはずだ。

 だけど、なんとなくやりきれない。


「あの魔女は、結局何がしたかったんだ?」

「邪神の復活でしょうね」


 邪神が与えるのは滅びだけ……邪神の力を求めた者に待っているのは破滅と絶望のみ。

 魔女はそう言っていたけど、そもそも邪神とはなんなのだろう?


「邪神って、なんなんだ?」

「邪神はこの世界とは違う異世界の神だと言われているわ」


 異世界って、あの空飛ぶ巨大な蛇がいるような世界なのだろうか?


「邪神の目的は、全ての生命を滅ぼし、世界を破壊する事って言われてるけど……実際の所はわからないわ」

「わからないのか?」

「邪神はこの大陸では禁忌とされていて、存在自体が隠されているの……だから邪神に関しての情報も簡単に手に入らないわけ」


 存在自体が隠されてるって……。

 邪神がそれだけ危険な存在という事なのかもしれない。


「100年前の戦争の時も召喚されたのに無かった事にされてるしね」

「100年前にも邪神が現れたのか!?」

「ええ、実際に戦ったわ」


 サユキは、さらっとそんなとんでもない事を言う。


「邪神と戦ったって……本当かよ!?」

「本当よ、私はイルシャード達と一緒に戦ったんだから」


 イルシャードも邪神と戦っていたのか……。


「それでどうなったんだ?」

「なんとか邪神を倒す事はできたけど、たくさんの犠牲が出たわ……もちろん、イルシャードも含めてね」


 イルシャードが死んだのは、魔王ではなく、邪神との戦いが原因だったようだ。


「思ったんだけど、あの魔女も邪神だったのかもね」

「えっ!?」

「あなたが倒した巨大な魔女は、私達が100年前に戦った邪神に似た『何か』を感じたのよね」


 サユキが感じた『何か』というのは、俺にはわからない。

 だけど、魔女が邪神だったとしたら、他の邪神を召喚しようとする理由にはなる。


「私の勝手な予想だけどね」


 魔女がいない今、真実はわからない。

 でも、魔女に犠牲にされた人達の事を考えたら、やはり倒すべき敵だったのは間違い無いと思う。


「それより、あなたにはもっと気になる事があるんじゃない?」


 そう言うと、サユキが俺の体を後ろから抱きしめた。


「サユキ?」

「ごめんね……」


 俺の頭に冷たい雫が落ちてくる。

 顔は見えないが、サユキは泣いているみたいだ。


「本当にごめんなさい、あなたを守ってあげられなくて……ダメな母親でごめんなさい」


 サユキの細い腕が俺の体をギュッと抱きしめる。

 すると、俺の中に眠っていた懐かしい記憶がよみがえってきた。


「俺は……」


 この感触を……。

 この優しさを……。

 この温もりを……。


 知っている。

 俺は、ずっとこの暖かさに守られていたんだ。


「ごめんなさい、すぐに気づいてあげられなくて……ごめんなさい、あなたを一人にさせてしまって……ごめんなさい」


 サユキは、さっきから俺に謝ってばかりだ。

 俺はそんなこと、全然気にしていないのに……。


「俺は母親に会ったら、伝えたい事があったんだ」

「いいわ、なんでも言って……どんな酷い事でも、私は受け止めるから」


 もし母親が生きていて会うことができたら、ずっと伝えたい言葉があった。

 それは……。


「俺を生んでくれてありがとう、母さん」


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