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第17話「黒竜との戦い、そして……」

 黒いドラゴンの体に生えた触手が、俺に向かって襲いかかってくる。


「ていっ!!」


 コハクが変身した白い槍で、触手をなぎ払う。


「「「グオォォォォォォン!!」」」


 黒いドラゴンは全身の口から咆哮を上げて、おぞましい色をしたガスが噴出する。

 あのガスは、触れると体を麻痺させる効果があったはずだ。

 俺は、黒いドラゴンから一旦離れて距離を取る。


「これじゃあ近寄れないな……」


 コハクが変身してる槍を投げつけるわけにもいかないし、こんな時、魔法が使えたら便利なのだが……。

 そう思っていると、通路の奥から突然突風が吹き、黒いドラゴンの噴き出したガスが吹き飛ばされる。

 さらに岩の塊と氷柱が飛んできて、黒いドラゴンの目や口に直撃する。


「「「グオォォォォォォン!!」」」


 黒いドラゴンが咆哮を上げ、ガスを噴き出すのをやめる。


「はぁはぁ……イブキ、コハク無事ですか!?」


 暗い通路から、息を切らしたイーリスが現れた。

 体中に汗をかいており、おそらくここまで走ってきたのだろう。


「イブキちゃん、どうだい僕の風魔法は?」

「兄さんの魔法だけじゃないでしょ……って、それより二人とも大丈夫!?」


 イーリスに続いてロイとルウも現れる。


「イーリス!!それにロイとルウまで……みんな来てくれたのか!?」

「オレもいるぞ」


 大剣を手に持ったベアボルトがイーリス達の後ろから現れた。


『ママ達、来てくれたんだね!!』

「ああ、これならなんとかなるかもしれない」


 前に戦った時は逃げる事しかできなかったけど、今ならこの黒いドラゴンを倒すことができるかもしれない。


「イブキ、一人で無茶しないって約束したじゃないですか!!」

「悪かったよ……でも目の前でコハクがさらわれて、じっとしてるなんて俺にはできない!!」


 イーリスに怒られるとは思っていたが、それでもコハクを助けたかったのだ。


「その気持ちは、私にもわかりますけど……」

「二人ともそういう話は後にしろ!!今は目の前のドラゴンをなんとかするぞ!!」


 ベアボルトは、そう叫ぶと俺の隣に走ってやってくる。


「オレとイブキが前衛でドラゴンを食い止める、イーリスは魔法で前衛のサポート、ロイとルウは合体魔法を頼む!!」

「合体魔法?」

「ああ、ロイとルウの二人が協力して発動する魔法だ、あれならどうにかできるはずだ」


 二人で協力して発動する魔法か……いったいどれくらい強力なのだろうか?


「ただ発動に時間がかかるからな、それまでオレ達で二人を守るぞ」

「ああ、わかった」


 俺とベアボルトは、後衛に攻撃が向かないように、こちらから攻撃して黒いドラゴンの気を引き付ける。


「おりゃあ!!」


 ベアボルトが豪快に大剣を振り回して、黒いドラゴンの触手を切り裂いていく。

 だが斬られた触手は、すぐに再生してしまう。

 俺も槍で目を刺してみたが、すぐに再生してしまうので、いくら攻撃してもキリが無い。


「「「グオォォォォォォン!!」」」


 咆哮を上げると黒いドラゴンは、体中の口から炎を吐き出す。

 俺は咄嗟に後ろに下がって回避するが、近くにいたベアボルトは反応が遅れて体が炎に包まれる。


「ぬわーーっっ!!」

「おっさん!?」


 助けてやりたいが、今の俺には炎を消す方法が無い。


「イブキ離れてください……アクア・フォール!!」


 イーリスがそう叫ぶと、ベアボルトの頭上から大量の水が降り注ぎ、炎を消し去った。


「はぁはぁ、助かったぜイーリス……」

「お礼はいいです、一旦回復するので下がってください」

「だ、だけどよ……」


 ベアボルトの足はふらついており、とても戦える状態には見えない。


「おっさん、一旦下がれ」

「すまねえ……もう少しだけ時間を稼いでくれ」


 ベアボルトは体をふらつかせながら後ろに下がっていった。


「コハク、俺達でなんとかするぞ!!」

『うん、わかった!!』


 後ろにはもう下がれない、なんとか俺一人……いやコハクと二人で食い止める。


「「「グオォォォォォォン!!」」」


 咆哮を上げながら黒いドラゴンが突進してくる。

 どうやら俺が逃げられない事に気づいて、一気に倒すつもりのようだ。


「コハク、絶対にイーリスを……みんなを守るぞ!!」

『うん、ママやおじさん達を守る!!』


 すると白い槍とガントレットが輝き、一つになっていく……。

 両腕のガントレットは変形して一回り大きくなり、腕から力が溢れてくる。


「こいつで止めてやる!!」


 俺は突進してくる黒いドラゴンに向かって駆け出すと、その大きな体を光輝くガントレットで掴んで持ち上げる。


「こなくそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 そして、部屋の壁に向かって思い切り投げつけた。


「「「ギャオォォォォォォン!!」」」


 黒いドラゴンが部屋の壁に激突すると、壁を破壊して大きな体がめり込んだ。


「す、すごい……いつのまにこんな力を使えるようになったの!?」


 ベアボルトに治癒魔法をかけていたイーリスが俺達を見て驚いていた。


「イブキちゃん、魔法を発動するから下がって!!」


 ルウにそう言われたので、俺は急いで後ろに下がる。

 ロイとルウの二人は、なぜか手を繋いでいた。


「いくぞ、ルウ!!」

「うん、わかった!!」

「「アース・スクリュー」」


 二人がそう叫ぶと繋いでいた手が光り、無数の岩の塊が現れると黒いドラゴンに向かって飛んでいく。

 黒いドラゴンは、めり込んだ壁から抜け出すと、飛んできた無数の岩の塊に囲まれる。

 さらに黒いドラゴンの足元から突然竜巻が発生し、無数の岩が体にぶつかりながら天井を突き破り、地上へと吹き飛ばされていった。


「「「ギャオォォォォォォン!!」」」


 穴の空いた天井からドラゴンの咆哮が聞こえてくる。


「おい、天井突き破っていったけど大丈夫なのか?」


 もし地上に人がいたら大変なことになる。


「地図だと、この上はもう町の外だから大丈夫だよ……たぶん」


 ルウはそう言うと、俺から目を反らした。


「おい」

「まあまあイブキちゃん、それより今は子供達を助けないと」


 確かにロイの言うとおりだ。

 あの黒いドラゴンが簡単に死ぬとは思えない、戻ってくる可能性もあるし、早く子供達を救出してこの地下から脱出したほうがいいだろう。


「そういえば、あの仮面をつけた奴は!?」


 辺りを見回すが、仮面の人物の姿は見当たらない。

 それどころかアルバルトと幻竜の死体も無くなっていた。


「私達が来た時は、イブキとあの黒いドラゴンしかいませんでしたよ?」


 黒いドラゴンと戦ってる間に逃げたのかもしれない……。

 その時にアルバルト達の死体をどこかに隠したのだろうか?


「……まあいいや、今は子供達を助けよう」


 今はそれよりも子供達を助けることの方が大事だ。

 俺達は、子供達が捕らえられていた部屋の扉を開ける。


「おーい、助けに来たぞ」


 子供達は最初に見た時と同じ虚ろな目をしており、俺が話しかけても何の反応も無かった。


「どうやら魔法をかけられているみたいだね、ルウ頼むよ」

「うん、わかった……リフレッシュ・ヒール」


 ルウの右手が光ると、温かい光が辺りを包み込む。

 すると光を浴びた子供達の目に輝きが戻っていく。


「あれ、おねえちゃんだれ?」

「ぼく、どうしてここにいるの?」


 子供達が正気を取り戻し、騒ぎ始める。


「どうやら正気に戻ったみたいですね、良かった……」

「おまえら、ここは危険だ早く逃げるぞ!!」


 ベアボルトがそう叫ぶと、子供達は俺やルウ達の後ろに隠れた。


「おい、どうしたんだ?」


 どうやら子供達は、ベアボルトを見て怯えているようだ。


「ああ、ベアボルトさんが怖いんですよ」


 ロイがはっきりとそう答える。

 隣でルウが「もっとオブラートに包みなさい」と注意していた。


「そ、そうなのか……」

「えーと……子供達は私達にまかせて、ベアボルトさんは先に地下から出て、あの黒いドラゴンがいないか見てきてください」

「……わかったそうする」


 ベアボルトはしょんぼりして、部屋から出て行った。

 なんだかちょっとかわいそうに思えた。


「それじゃあ、お姉ちゃん達がお母さんのところに連れて行ってあげるから付いてきてね」


 ルウが優しく言うと、子供達は素直に頷いた。

 その後、子供達を連れて地下から脱出し、何事も無く冒険者ギルドまで戻ることができた。

 子供達も全員母親の元に戻ることができ、俺達は無事に依頼を達成することがきでた。





 俺達は、冒険者ギルドの近くにある食堂のテーブル席に座っていた。

 冒険者ギルドで依頼の報告した後、報酬を山分けし、ベアボルトの提案で夕食をみんなで食べる事になったのだ。


「がははは、今日は俺の奢りだ、おまえら好きなだけ食っていいぞ!!」

「本当にいいのか?後悔しても知らないぞ」


 念のため、ベアボルトに忠告しておく。


「別に構わねえさ、今日はたんまり稼がせてもらったからな」


 まあ本人がいいって言うならいいか……。


「だってさ、イーリス好きなだけ食べていいぞ」

「本当ですか!!それじゃあカレーとカツカレーとシーフードカレーとハンバーグカレーとメンチカツカレーとスープカレーと……」


 イーリスが嬉しそうに店員に注文し始める。

 それにしてもこの店、カレーの種類多いな。


「おっ、おい、どんだけ注文するつもりなんだ?」

「少なくとも十品は食べると思うぞ」


 この間、宿屋の食堂で十回もおかわりしてたし、最近イーリスの食欲が以前よりも増している気がする。


「そ、そんなに食うのかよ……」


 ベアボルトの顔が青くなる。


「別に構わないって言ったのはベアボルトさんですよ、男なら自分の発言に責任を持つべきじゃないんですか?」


 ルウにそう言われ、ベアボルトがため息をつく。


「はぁ、わかったよ……男に二言は無い、好きなだけ食いやがれ」

「さっすがベアボルトさん男前ですね、それじゃあ僕も今日はステーキでも食べようかな~♪」

「じゃあ私はデザートにイチゴパフェを頼もっと♪」

「お、おまえらな……」


 ベアボルトの奢りなのをいい事に、ロイとルウは好きなものを頼むようだ。


「イブキちゃんとコハクちゃんはどうするの?」

「俺はカレーでいい」

「あたしもパパと同じのでいーよ」


 ちなみに今のコハクは、ちゃんと服を着ている。

 あの後、元の姿に戻ったコハクが裸だったので、食堂に来る前に新しい服を買ったのだ。

 前と同じ黒いワンピースが無かったので、今は白いワンピースを着ている。


「別に遠慮しなくても大丈夫だよ?」

「いや、カレーが食べたいんだ」


 別に遠慮してるつもりはない。


「じゃあデザートにイチゴパフェを頼んでみない?ここのパフェとってもおいしいんだよ♪」

「ルウがそう言うなら頼んでみるか」


 食べたこと無いし、興味はある。


「パパが食べるならあたしも食べたーい」

「それじゃあコハクちゃんも頼もっか、いいですよねベアボルトさん?」

「いやさすがに……」


 ベアボルトが渋い顔をする。


「おじさん、ダメ?」


 コハクが上目遣いでベアボルトの顔を見る。


「も、もちろんいいぞ、好きなだけ食いやがれ!!」


 どうやらベアボルトもコハクには勝てなかったようだ。


「わーい、ありがとう♪」


 コハクがにっこり笑うとベアボルトもつられて笑っていた。

 もしかしたらベアボルトって、以外に子供好きなのかもしれない。

 それからしばらくして、料理を食べながら雑談していると、今日の依頼の話になった。


「そういえば、コハクちゃんをさらった大きなカメレオンはどうなったの?」

「ああ、あれは竜騎士のドラゴンだったんだ」


 ルウの質問にそう答える。


「えっ、どういうことですか!?」


 イーリスが食べるのをやめて、テーブルの上に乗り出してくる。


「ああ、実は……」


 俺はルウと分かれた後に、アルバルトや幻竜と戦った事をみんなに話した。


「元竜騎士が犯人だったとはね……」

「冒険者ギルドに報告しておいた方がいいだろうな、イブキこういう大事な事は早く教えてくれ」

「そうだな、すまない……」


 ベアボルトが言うように、冒険者ギルドに着いた時に、みんなに話しておくべきだったかもしれない。

 冒険者ギルドに子供達を連れて行ったら、なんだか気が抜けて、話すのを忘れてしまった。


「仕方ないですよ、イブキちゃんだって始めての依頼で色々疲れてたんですから……それにコハクちゃんがさらわれた事は、私達も知っていたんですから、聞かなかった私達にだって責任はあるはずです!!」

「確かにルウの言うとおりだな……オレにも責任はあった、すまんイブキ」


 ベアボルトが俺に向かって頭を下げる。


「別に謝る必要は無いぞ、すぐに言わなかった俺だって悪いんだから」

「まあ、あの黒いドラゴンと戦った後じゃ忘れても仕方ないよ……でも、あのドラゴンいったい何だったんだろうね?僕としては、もう会いたくないけど」


 なぜあの黒いドラゴンは、あの場所に現れたのか?

 そして、あの仮面の人物はいったい何者だったんだろう?

 わからないことだらけだ。


「あの小屋の地下を調べれば何かわかるかもしれないけど、今は衛兵に封鎖されちゃったしね~」


 俺達が事件を解決した後、衛兵達がギルドにやってきて、あの場所は騎士団が来て調べるからこれ以上関わるなと言ってきたのだ。


「まったく勝手なもんだぜ、自分達は子供達を探しもしなかったくせによ!!」

「でも、なんで今まで動かなかった騎士団が急に調べようと思ったんだ?」


 最後まで冒険者に任せた方が、自分達は何もしなくて楽なはずなのに……。


「ただ単に手柄が欲しかっただけじゃないの?」


 ロイの言ったとおりかもしれないが、なんとなく気になってしまう。


「うーん、やっぱりそうなのかな……イーリスはどう思う?」

「……わかりません」


 そう答えたイーリスの表情は、どこか暗く感じた。


「真相はどうあれ、子供達を助けられたんだから、今日はそれで良かったって事にしようよ」

「そうだな……子供達が無事で良かったよ」


 それだけは、本当に良かった思う。


「そういや、二人はこれからどうするんだ?やっぱり王都を目指すのか?」

「ああ、そのつもりだけど……」


 いつ出発するかは、後でイーリスと話して決めるつもりだ。


「この町は馬車が出てるんですか?」

「ああ、あるぜ……王都に行くなら明日の昼に出る馬車に乗るといい、冒険者ギルドの裏側に馬車乗り場があるはずだ」


 イーリスの問いにベアボルトがそう答える。


「では、それに乗って行きましょう、イブキはいいですか?」

「おう、構わないぜ」


 馬車に乗れれば、移動も楽になるはずだ。


「えっ、イブキちゃんもう行っちゃうの?」

「せっかく友達になれたのに……」


 ロイとルウが残念そうな顔をする。


「ルウ、ごめんな……」


 ロイはともかく、仲良くなったルウとはもう少し話してみたかった。


「謝らないで、それがイブキちゃんの夢なんでしょ?」

「ああ、俺は竜騎士になる」


 ルウに向かってはっきりとそう答える。


「うん、がんばってね……それじゃあ、明日見送りに行くね」

「ああ、わかった」

「……」


 なんとなく視線を感じたので振り向くと、イーリスが何か言いたそうな顔でこちらを見ていた。


「どうしたイーリス?」

「別になんでもないです……」


 なんだろう……少し機嫌が悪そうに見える。


「イブキちゃん、明日帰るなら今夜は僕の部屋に……ぐおっ!!」

「兄さん何言ってるのかな?他の女性はともかくイブキちゃんに手を出したら、ただじゃおかないからね?」


 ルウはそう言って、ロイの顔面を鷲掴みにする。


「えっと、もし手を出したらどうなるのかな?」

「この状態で魔法を発動します」

「それ死んじゃう、僕死じゃうよ!?」


 その後、夕食をすませた俺達は、ベアボルト達と別れて宿屋に戻った。





 宿屋の部屋に戻った俺達は、ベットに座って話をしていた。


「今日はイチゴパフェおいしかったねー♪」

「うん、アレはうまかったな……進めてくれたルウに感謝だな」


 あんなおいしい食べ物があるなんて、さすが都会だ。


「イブキは、いつの間にルウさんと仲良くなったんですか?」

「ああ、一緒に公園に調査に行った時にお互い同い年だってわかって、友達になったんだ」

「友達……ですか?」

「ああ、そうだけど?」


 もしかして、イーリスもルウと仲良くなりたいんだろうか?

 女同士だし、イーリスの方がルウと気が合うかもしれない。


「いえ、それならいいんです……ここは年上の余裕を見せるべきでしょうし」


 余裕って……いったいなんの事を言ってるんだろう?


「それはともかく……アルバルトの事なんですが、何か気になる事を言ってませんでしたか?」

「いや、特に何も言ってなかったと思うけど……イーリスってアルバルトの事を知ってるのか?」


 アルバルトは元竜騎士だって言ってたし、もしかしたら王女のイーリスとは会ったことがあるのかもしれない。


「六年前、アルバルトが竜騎士隊に入った頃に何度か会っています、あの頃の彼はとても真面目であんな事をするような人ではなかったんですが……」


 俺の知ってるアルバルトは全然真面目な感じはしなかったが、イーリスの知ってるアルバルトと本当に同一人物なのだろうか?


「もしかして人違いだったりはしないか?」

「アルバルトは幻竜と契約してましたし、外見もイブキが教えてくれた特徴と一致してます、おそらく本人で間違いないでしょう」


 イーリスがそう言うなら、間違いないのだろう。


「アルバルトって何で竜騎士をやめたんだ?」

「詳しい事情はわからないんですが、他の竜騎士に聞いた話だと自分から辞めたらしいです」

「そうか……」


 まあどんな事情があったにしろ、アルバルトのやったことは許される事ではない。


「ふわぁ~……なんか疲れたかも」


 隣にいたコハクが大きなあくびをして、俺の体に寄りかかる。

 目が閉じかかっていて、すごく眠そうな顔をしている。


「コハク、寝るならちゃんと歯を磨かないとダメですよ、虫歯になってしまいますから」


 ドラゴンも虫歯になるのだろうか?


「うん……わかった」


 結局、その日は疲れていたので、話はそこで終わって寝ることになった。





 次の日、道具屋で旅の準備を整えてから俺達は馬車乗り場に向かった。


「あっ、イブキちゃん!!」


 馬車乗り場に着くと、すでにルウが来ていた。

 隣にはロイとベアボルトもいた。


「もう来てたのか……ロイとベアボルトも見送りに来てくれたんだな」

「まあ、おまえ等には世話になったからな……子供達を助けられたのはおまえ達のおかげだ、ありがとよ」

「いえ、ベアボルトさん達がいたからです、私達だけでは手がかりすら掴めていなかったと思います」


 ベアボルト達が俺達をパーティーに誘ってくれなければ、きっと未だに子供達の居場所すらわからなかった。


「そうだな、イーリスの言うとおりだ、三人ともありがとう」

「なら、今度会った時は二人でお茶でも……痛い痛い!!」


 ロイの足をルウが踏みつける。


「三人はこれからも、この町のギルドで活動していくのか?」


 それなら竜騎士になった後、またこの町に来れば会えるかもしれない。


「オレはそのつもりだが、ロイとルウはそろそろ別の町のギルドに行ってみてるのもいいかもな」

「でも、私達がいなくなったら、この町の冒険者がまた減っちゃいますよ?」


 そういえば、この町の冒険者は他の町よりも少ないって、昨日ベアボルトが言っていた。


「確かにそうだが、この町にいたんじゃ、おまえ達はこれ以上成長できない……もっと他の場所に行って、いろんな事を経験して来い」

「そうだね、この町じゃ新しい女の子との出会いも少ないし、他の町に行ってみるのもいいかもね」

「また兄さんはそんなこと言って……でも、そうかもしれないね、私もイブキちゃんみたいに夢に向かってがんばらないと!!」


 ルウはやる気になっているようだ。


「ルウの夢ってもしかしてロイと……むぐっ!!」

「わわわっー!!イブキちゃん、そういう話は二人きりの時だけにして!!」


 ルウは顔を真っ赤にして、俺の口を手で押さえる。

 ロイと一緒にSランクの冒険者になることか?って言おうと思ったんだが、顔を赤くするほど恥ずかしいことだったんだろうか?


「ふーん、二人きりの時だけですか……」


 イーリスの視線がなんだか厳しい気がする。

 その時、馬車がやってくるのが見える。


「あっ、馬車が来たな」

「もう来ちゃったんだ……」


 馬車を見たルウが残念そうな顔をする。


「生きてればまた会えるさ……だからルウもがんばってな!!」

「うん、イブキちゃんもがんばってね……もし今度会えたら二人でいっぱい話そうね!!」

「ああ、その時はいっぱい話そう」


 そして、馬車が俺達の前で止まった。


「それでは、みなさんお世話になりました」

「みんな、またねー!!」

「おっさんとロイもまたな!!」


「おう、またこの町に来ることが会ったら冒険者ギルドに顔を出しな」

「また会えるといいね、君達二人が竜騎士になれることを僕も願ってるよ」

「イブキちゃん、イーリスさん、コハクちゃん、また会おうね!!」


 三人に別れを告げ、俺達は馬車に乗って次の目的地へと向かった。


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