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第16話「消えたドラゴン」

 俺達が公園の中に入ると、人の姿がまったく見当たらなかった。


「パパ、誰もいないね」

「そうだな……やっぱり事件のせいか?」

「そうだね、行方不明事件が起きてからは、子供もだけじゃなくて大人もこの公園には近づかなくなったみたい」


 ルウが俺の質問にそう答える。

 まあ誰もいない方が、調査しやすいかもしれない。


「それじゃあ手分けして怪しい物がないか探そう、私はあっちを探すから、イブキちゃんとコハクちゃんは向こうをお願いね」

「おう、わかった」

「あたし、がんばってパパの役にたってみせるね!!」


 そう言うと、コハクは駆け出していった。


「おい、俺が見える所にちゃんといろよー!!」

「うん、わかったー!!」


 コハクは俺に向かって大きく手を振ると、草むらの中に入っていった。

 本当にわかってるんだろうか……。


「コハクちゃんって、イブキちゃんの妹みたいね」

「えっ、そうか?」


 妹か……確かにそんな感じがするかもしれない。


「うん、張り切ってるのは、きっとお姉ちゃんのイブキちゃんに褒めてもらいたいからだと思うよ」

「なんでお姉ちゃんなんだよ……」


 そこはお兄ちゃんだと思う。


「あっ、ごめん、パパだったね♪」


 ニヤニヤしてるルウの顔を見てたら、なんだか否定するのも面倒になってきた。


「もうどっちでもいいよ……さっさと探そうぜ」

「うん、それじゃあ怪しい物があったら教えてね」


 ルウはそう言うと、コハクとは反対側の草むらに入っていった。


「じゃあ俺も探すか」


 それからしばらく公園中を探し回ったが、これといって変わった物は見当たらなかった。


「うーん、公園はやっぱりハズレなのかな……」


 そう思っていると、遠くからコハクの声が聞こえてくる。


「パパーすごいのがあったよ、こっちに来て!!」


 声のした方を振り向くと、公園の隅にある大きな木の下にコハクがいた。

 どうやら何かみつけたみたいだ。


「ルウ、コハクが何かみつけたみたいだ」

「そうみたいだね、私も一緒に行くよ」


 俺はルウと一緒にコハクのいる大きな木の下に移動する。


「ほら、これ見てよ!!」


 コハクがテンション高めにそう言って、木の下にある黒くて丸い物体を指差す。

 大きさはコハクの顔とだいたい同じくらいで、見た目は石のように見えるが、近づくとなんだか妙な臭いがする。


「なんだこれ?」


 俺は黒い物体に向かって手を伸ばす。


「すっごく大きなウンコだよね!!」


 コハクのその発言に俺は慌てて伸ばした手を引っ込める。


「それを早く言えよ!!危うく触っちまうところだったろ!?」


 そういえば、トロルの村にいた子供達もモンスターの糞を見て、なぜかテンション高くなっていた気がする。


「コハクちゃんは、なんでこれが石じゃないってわかったの?」


 確かに見た目は石っぽいし、糞だとはわかりにくい気がする。


「だってこれ、ドラゴンのウンコだもん」

「えっ!?」


 その時、木の上でガサガサと物音が聞こえた。


「なんだ!?」


 慌てて木の上に視線を向けると……そこには何もいなかった。


「あれ、今木の上で物音がしたと思ったんだけど?」


 ルウにも聞こえていたようなので、俺の聞き間違えではないようだ。


「……」


 俺は目の前の木に怪しい所が無いか、集中して見る。


「イブキちゃん?」

「パパ、あの枝のところちょっと変かも」


 コハクが指差した場所を見ると、その部分だけなぜか枝が曲がっていた。

 俺は後ろに下がり助走をつけてジャンプすると、違和感を感じた部分を槍で突いてみる。

 すると何かに突き刺さる感触がした。


「ギャオォォォォン!!」


 叫び声と共に突然何もない空間から、紫色をした大きなトカゲが現れた。

 大きさは2メートルくらいあり、顔にある大きな黄色の眼球を狂ったように動かしている。


「なんだこいつ!?」

「大きなカメレオン!?」


 ルウがそう叫ぶと、大きなトカゲの口が開き、舌が鞭のように伸びてくる。

 俺は槍を使って伸びてきた舌を叩き落そうとするが、突然舌がありえない方向に曲がり回避されてしまう。


「なっ!?」


 大きなトカゲの舌は、そのまま伸びていきコハクの体に巻きついた。


「なっ、何これ!?なんかベタベタするぅ!!」

「コハク!?」


 俺は急いで助けようとするが、それよりも早くコハクの体は大きなトカゲの方に引き寄せられていく。


「いやぁ!!離してぇ!!パパ!!パパ!!」


 そして……コハクは巻きついた舌と一緒にトカゲの口の中へと飲み込まれていった。


「コ、コハクちゃんが食べられちゃった!!」


 コハクを飲み込んだトカゲの腹は大きく膨れ、まるで妊娠したようになっている。


「こいつ!!コハクを返しやがれ!!」


 木の上にいる大きなトカゲに向かって槍を突き刺そうとするが、枝から飛び上がり避けられてしまう。

 飛び上がった大きなトカゲは、地面に着地すると二足歩行で走り出し、俺達から逃げていく。


「ルウ、魔法で奴を足止めしてくれ!!」

「わかった……アース・バレット!!」


 ルウの右手に人間の頭くらいのサイズの石が現れて、大きなトカゲに向かって勢いよく飛んでいく。

 だが突然トカゲの姿が消え、飛んでいった石は空中で粉々になった。


「えっ!?」


 一瞬何が起きたのかわからなかった。

 辺りを見回すが、コハクを飲み込んだ大きなトカゲの姿は見えない。


「どういうことなんだ!?」

「わ、わかんない……でも確かにさっきまであそこにいたはずだよ!!」


 そういえば、あの大きなトカゲが現れた時も最初は見えていなかった。


「アイツは自分の姿を消せるのか……もしかして、その力を使って子供達をさらったんじゃないか?」


 姿を消して子供達に近づき、コハクのように丸呑みして移動する……そうすれば誰の目にも気づかれずに子供達を連れ去ることができる。


「なるほど、でもドラゴンがなんで子供達をさらったりなんて……」

「理由はわからない、とにかく今はコハクを助けに行こう」


 このままコハクを放っておくなんて俺にはできない。


「でも姿が見えないんじゃ、どこにいるのかもわからないよ?」


 その時、俺の左手にある契約の証が浮かび上がり輝きだした。

 するとコハクが生きており、どの方向にいるのか、なぜか理解することができた。


「感じる、コハクの存在を……契約者の俺にはコハクの居場所がわかるみたいだ」

「もしかして、竜騎士の力なの?」

「たぶんな……俺、ちょっと行って来る!!」


 そう言って、俺はコハクの居場所を目指して走り出す。


「イブキちゃん、ちょっと待って!!」

「ルウは、イーリス達にこの事を伝えておいてくれ!!」


 走りながら後ろを振り向き、ルウに向かってそう叫ぶ。

 俺と同じ契約者のイーリスならコハクの居場所がわかるはずだ。

 本当はイーリス達と合流した方がいいのかもしれない、だけど今は一分一秒でも早くコハクを助けたかった。

 早く助けないと、もしかしたら手遅れになるかもしれない……もうシズクの時のような後悔はしたくない。


「必ずコハクを見つけて助け出す!!」





 俺は、コハクの存在を感じるままに町の中を走り続けていた。

 コハクの存在が近くなったり、遠くなったりするのを感じる……コハクを飲み込んだトカゲは、姿を消しながら町の中を移動しているのだろう。

 コハクの存在をひたすら追いかけていると、町外れにある古そうな小屋の前に辿り着いた。


「ここに逃げ込んだのか?」


 見た感じ手入れはされておらず、誰も住んでいないようだ。

 小屋の扉には鍵がかかっておらず、簡単に中に入ることができた。

 小屋の中はかなり荒れており、壊れたイスやテーブルが散乱していた。

 あの大きなトカゲの姿は見当たらない。


「コハクは、どこにいるんだ?」


 目を閉じて集中する……すると下の方からコハクの存在を感じ取ることができた。


「下ってことは、地下でもあるのか?」


 部屋の床を注意深く見てみると、壊れたテーブルの影になってる床の色が違うことに気付く。

 その部分を調べると、床の板が外れて階段が現れた。

 おそらくあの大きなトカゲは、この階段から地下に下りたのだろう。


「なら、進むしかないよな」


 階段を下りると一本道の通路になっており、奥の方に明かりが見えた。

 宿にランプの入った鞄を置いてきてしまったが、これなら明かりが無くても進めそうだ。

 俺は槍を手に持ち、いつでも攻撃できるようにして明かりの方へと慎重に進んでいく。

 一本道を抜けると、そこは広い部屋になっており天井にはランプが吊るされていた。

 部屋の奥には扉が二つあり、片方には変な模様が付いていた。


「なんだこの模様?」


 俺が変な模様のある扉に触れると、模様は黒い霧になって消えてしまった。


「ん?まあいいか」


 扉を開けて中を覗くと、子供達が虚ろな目でイスに座っていた。

 様子がおかしいが、どうやら生きてはいるようだ。


「コハクは、いないみたいだな……」

「おい、そこで何してやがる!?」


 声のした方を振り向くと、赤い髪をした長身の男性が立っていた。

 年齢は20代前半くらいに見える、鋭い目つきをしており、手には槍を持っている。


「その顔……おまえ心竜の契約者かよ、まったく面倒な奴を連れてきたな」

「おまえ、なんで俺の事を知ってるんだ!?」


 この男とは初対面のはずだ……まさかシンゲツの仲間なんだろうか?


「さあ、なんでだろうな?それより、その扉には特殊な魔法がかかっていたはずだ、どうやって開けやがった?」

「何言ってんだ、普通に開いたぞ?」

「そんなバカな!?あれは普通の魔法じゃないんだぞ!!心竜の力も無しにいったいどうやって……」


 よくわからないが、男は驚いているようだ。


「そんなことより、おまえがあのトカゲを使って子供達をさらった犯人だな?コハクをいったいどこにやった!?」


 コハクの存在を近くに感じる……だが姿が見えない。


「まあガキ共を見られたんじゃ仕方ねぇな……そうだぜ、オレが犯人ってやつだ」


 男は、あっさりと自分が犯人だと認めた。


「それとアイツはトカゲじゃねえ、幻竜っていうドラゴンだ……なあゲルト?」


 そう言うと、男の隣に巨大なトカゲ……幻竜が姿を現した。


「なんで人間がドラゴンを……まさかおまえは!?」


 ドラゴンを扱える存在なんて、この国には一つしかない。


「そうだ、オレは竜騎士だ、竜騎士アルバルト……って言っても元竜騎士だけどな、とりあえず名乗っておいてやるぜ」


 元と言う事は、今はもう竜騎士ではないのだろう。


「竜騎士だった奴が、なんで子供をさらったりなんてしてるんだ!?」


 民を守る竜騎士だった人間が、なんで子供をさらうのかわからない。


「あん?そんなもん仕事だからに決まってんだろ!?」


 アルバルトは当たり前のようにそう答えた。


「それは仕事じゃなくて犯罪だろ!!」

「犯罪だろうと金になりゃあオレにとっては同じことさ……まあここで死ぬおまえには関係ないけどな!!」


 そう言って、アルバルトは幻竜の背中に飛び乗った。


「ちなみに心竜は今コイツの腹の中にいるぜ、子供をさらってこいって言ったが、まさか心竜のガキをさらってくるとは思わなかったぜ」


 幻竜の膨らんだ腹からは、確かにコハクの存在を感じる。

 だが、いったいどうやって助ける?


「いくら心竜と契約していても、この状態じゃ力を使えねえよな?」


 アルバルトのその言葉で俺はあることを思いつく。


「そうか、力を使えばいいのか……コハク変身しろ!!」


 俺がそう叫ぶと、幻竜の膨らんだ腹が光り輝く。


「ギャオォォォォン!!」

「なにっ!?」


 すると幻竜の腹を突き破って、美しい白い槍が飛び出してくる。


「来い、コハク!!」


 白い槍は、俺の方に飛んでくると人間の姿へと変化した。


「パパーーーーーー!!」


 裸のコハクが俺の体に抱き付いてくる。


「パパが来てくれた……来てくれたよぉ」


 コハクは泣いていた、よっぽど怖かったんだろう。


「あたし、このままパパに会えなくなっちゃうのかと思った……」

「ほんのちょっとの間じゃないか、そんなに泣くなよ」


 泣いてるコハクの頭に手を乗せて、優しく撫でる。


「だって、あたし役立たずだから……パパ達に捨てられちゃうんじゃないかって、ずっと怖かったんだもん!!」

「えっ……」

「あの鬼に負けたのは、あたしが弱かったから……あたしが強かったらパパに悲しい思いをさせることなんてなかったのに……」


 コハクは、シンゲツに負けた事をずっと気にしていたんだ……。

 それなのに俺は自分が強くなる事ばかり考えて、コハクが辛い思いをしている事に気づいてやれなかった。


「せっかくこの体になったのに全然役に立てないし、さらわれて迷惑かけちゃうし、こんな役に立たないドラゴンなんていらないよね……」

「俺にはコハクが必要だ……コハクじゃなきゃダメなんだ!!だから自分をいらないなんて二度と言うな!!」


 俺はそう叫ぶとコハクの体を強く抱きしめる。


「パパ……」

「知ってるか?竜騎士の強さってのは一人で戦う強さじゃないんだ、契約者とドラゴンが協力することで本当の強さが発揮されるんだ」


 これはイーリスが俺に教えてくれたことだ。


「弱いのは俺も同じだ、だから二人で……いやイーリスと三人で強くなろう!!」

「でも、あたしまたパパに迷惑かけちゃうかも……」

「いいんだよ、それで……だって俺はコハクのパパなんだからな」


 俺は、当然のようにそう言ってコハクの頭を撫でた。

 正直今までパパと呼ばれるだけで父親の自覚なんてまるで無かった。

 だけど今はコハクの父親になってやりたいと本気で思っている。

 もちろん、本当の父親みたいになんて、すぐにはなれないのはわかっている……それでもコハクが泣き止んで、前に進めるようになるなら、今はそれで十分だ。


「パパ……ありがとう」


 コハクはそう言うと、俺の頬にキスをした。

 なんだか温かい気持ちになって力が沸いてくる。


「おい、茶番はそれくらいにしてもらおうか……何がパパだ、おまえらは血の繋がり無いどころか種族だって違うじゃねえか、笑わせるな!!」


 幻竜に乗ったアルバルトが不機嫌そうに叫ぶ。

 だがトロルの村で育った俺は知っている、血の繋がり無くても、種族が違っても家族になれることを……。


「パパ、あの人、あたし達が仲良しなことに嫉妬してるみたいだよ?」

「あれだろ、確かロリンコってやつだろ?」

「ロリンコじゃなくてロリコンだ!!っていうか、オレはロリコンじゃねえし!!裸の幼女抱きしめてるおまえのほうがロリコンだろうが!!」


 よくわからないが、すごく怒っているようだ。


「まあいい……おまえらが、くだらねえ茶番をしてる間に、こっちは回復させてもらったからな!!」


 幻竜を見ると、コハクに突き破られた腹の穴が塞がっていた。

 たぶん俺達が話してる間に、アルバルトが治癒魔法をかけて回復したのだろう。


「やるぞコハク……こいつ等を倒して、子供達を助けるんだ!!」

「うん、あたしとパパの仲良しパワーでやっつけちゃおう!!」


 コハクの体が輝くと、美しい白い槍へと変化する。

 その槍を掴むと、俺の両腕が白銀のガントレットに覆われた。


「な、なんだこれ!?」

『うーん、よくわかんないけど、前よりもパワーアップしたみたい』


 白い槍からコハクの声が聞こえてくる。

 コハクの言うとおり、いつも以上の力を感じる……。

 もしかするとコハクが人間の姿になった事と関係があるのかもしれない。


「いつまで話してんだ、こっちからいくぞ!!」


 幻竜と共にアルバルトの姿が突然消える。

 どうやら自分だけでなく、乗っている人間の姿まで消すことができるようだ。


「どれだけ強くなろうが所詮は素人だ、見えない敵相手じゃ、どうしようもないよな?」


 だけど今の俺とコハクなら、なんとかできそうな気がする。


「見えない槍に貫かれて死ねぇぇぇぇ!!」


 姿は見えないが、アルバルトの声が部屋の中に響き渡る。

 俺は床に目を向けると、舞い上がる埃を見て相手の動きを予測する……そして左後ろに跳ぶと前方に向かって槍を思い切り突く。


「ギャオォォォォン!!」


 鳴き声と共に幻竜が姿を現す……白い槍は幻竜の右肩に突き刺さっていた。


「なんだとっ!?ゲルト一旦下がれ!!」


 幻竜は後ろに下がり、俺から距離をとろうとする。

 だが、このまま逃がすつもりはない。

 俺はその場から駆け出すと、幻竜に向かって槍を突き出す。

 すると幻竜の口が開き、俺に向かって舌が伸びてくる。


「甘いんだよ、クソガキ!!」

「なっ!?」


 幻竜は、俺の体に舌を巻きつけると自分の方へと引き寄せていく。


「このまま串刺しにしてやるぜ!!」


 舌を巻きつけられた俺に向かって、アルバルトが槍を突き刺そうとしてくる。


「コハクいくぞ!!」

『うん、やっちゃおう!!』


 両腕に力を込めるとガントレットが輝き出し、力が溢れてくる。


「おんどりゃぁぁぁぁ!!」


 体に巻きついた舌を力づくで振りほどき、俺はガントレットに覆われた左手でアルバルトの槍を防ぐ。


「な、なにぃ!?ゲルト逃げろ!!」


 幻竜は慌てて逃げようとするが、もう遅い……。


「これが、コハクと……」

『パパの……』

「『力だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』」


 渾身の力を込めて、輝く白い槍を幻竜の頭に突き刺す。


「ギャオォォォォォォォォォォォォォン!!」


 幻竜は絶叫のような鳴き声を上げると、その場に倒れた。


「そ、そんなバカな!?ゲルトが倒されるなんてありえない……竜騎士だったオレがこんな半人前のガキに負けたってのか!?」

「おまえは俺に負けたんじゃない、俺とコハクの二人に負けたんだ」


 俺が勝てたのはコハクがいたからだ、それを忘れてはいけない。


「ふざけるな!!こんなの認められるか!!オレはおまえみたいな……ぐほぉ!!」


 突然アルバルトが膝を着くと、口から血を吐き出した。


「おいっ!!どうしたんだ!?」


 アルバルトは胸を押さえて苦しそうにしている。


「そ、そんなオレはまだ負けて……な……」


 そして、床に倒れると動かなくなってしまった。


「死んだ……のか?」


 何が起きたのかよくわからないが、アルバルトは死んでしまったようだ。

 その時、扉が開く音が聞こえる。


「誰だ!?」


 俺が扉の方を振り返ると、全身を黒いローブで身を包み、奇妙な白い仮面を付けた人物が、子供達がいるのとは別の扉の前に立っていた。

 背は俺よりも低いようだが、顔が見えないので性別はわからない。


「なんだおまえは!?もしかして、おまえがこの男を殺したのか?」


 俺の問いに答えるように仮面の人物は頷いた。


「そして、次死ぬのはあなた……」


 それは若い女の声だった。


「何を言って……」

『パパ気をつけて、何かいるよ!!』


 警戒して辺りを見回すと、仮面の人物の影から何かが出てきた。

 その何かの肌は黒くてブヨブヨしており、大きな目や口が全身に存在し、体のあちこちから不気味な触手が生えていた。


「まさかこいつは……」


 それは、俺とイーリスが心竜の森の洞窟で戦った黒いドラゴンだった。


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