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第14話「冒険者登録」(挿し絵あり)

 店を出た俺は、時間を潰すために一人で町の中を歩いていた。


「さて、どうするかな……」


 冒険者ギルドの前を通りかかると、入り口には未だに人が集まっていた。


「まだ見つからないんですか!?」

「本当に捜してくれてるんですか!?」


 集まって騒いでいるのは、前に通りかかった時と同じ20~30代くらいの女性ばかりだ。


「まだやってるのか……」


 あれから一時間以上は経っているはずだ。


「いったい何があったんだろう?」

「子供達が行方不明になってるんだよ」


 突然、俺の隣にやってきた茶色の髪の男がそう答える。

 長身でローブを着ており、優男って感じの顔立ちだ。

 俺よりも2、3歳上に見えるが冒険者だろうか?


「僕の名前はロイ・ガルセイド、冒険者をやっている……気軽にロイさんと呼んでくれ」


 男は聞いてもいないのに、名乗りだした。


「それで君の名前はなんて言うんだい?」

「イブキだけど……」


 気は進まなかったが、とりあえず名乗っておく。


「イブキちゃんか……見た目通りのかわいらしい名前だね」


 ロイの発言にイラッとする。

 もしかして、こいつ俺に喧嘩売ってるんだろうか?


「一週間くらい前から、この町で子供が行方不明になる事件が起きてるんだ」

「子供が行方不明……ってことは、あそこに集まっているのは、子供の母親達ってことか?」


 だとしたら、冒険者ギルドに行方不明になった子供の捜索依頼を出したのだろう。


「その通りだよ、子供が心配なのはわかるけど、あんな風にギルドに文句を言ってもどうにもならないのにさ」


 確かに冒険者ギルドに文句を言っても、子供が早く見つかる訳ではないと思う。


「文句を言うなら役所に言うべきなのにね、本来ならこういうのは騎士団の仕事のはずなんだ」

「騎士団は、動いてないのか?」

「この程度の事件じゃ、騎士団は動かないよ」


 そういえばヨロギリ村の時も、騎士団が来てくれないって言っていた気がする。


「この程度って……子供が何人もいなくなってるんだろ!?」


 『この程度』なんて言葉で済ませていい問題じゃない。


「騎士団にとっては『この程度』ってことさ」

「そんな……騎士団っていうのは、国や民を守るためにあるんじゃないのかよ!?」

「昔はそうだったらしいね、今は国王が変わった事で、騎士団も変わったって言われてるよ」


 今の国王って、つまりイーリスの父親って事だよな……。


「まあ、おかげで冒険者達の仕事は増えたんだけどね」


 騎士団が今までやっていた仕事が、冒険者達の依頼になっているのだろう。


「それより、僕と一緒にそこの喫茶店でお茶でもしないかい?」


 なんで俺を喫茶店なんかに誘うのだろう?

 わかったぞ……こいつ、俺を田舎者だと思ってお茶を奢らせる気だ。


「別に喉渇いてないからいい」


 そう言って立ち去ろうとするが、ロイが俺の前方に回りこんでくる。

 こいつ、意地でも俺に奢らせるつもりのようだ。


「そんなこと言わずにさ、僕が奢るから一緒に……」


 その時、ロイと同じ茶色の長い髪をした少女が俺達に近づいてきた。

 歳は俺と同じくらいで、なんとなく目の前のロイに似ている気がする。


「兄さん、何やってるの?」


 少女の顔は、どこか怒っているように見える。


「げっ、ルウ……」


 少女は、ロイの知り合いだったようだ。


「ふーん、急にいなくなったと思ったら、ナンパしてたんだ……」


 その声は低く、あきらかに怒っているのがわかる。


「いや、これは立派な情報収集で仕方なく話していたんだ、だから決してナンパというわけでは……」

「次の仕事が終わるまでナンパはしないって約束したでしょ!!」


 ルウと呼ばれた少女が、ロイを怒鳴りつける。


「いや、あまりにもかわいい娘がいたのでつい……ね?」

「ね?……じゃないでしょ!!情報を集めるなら私も一緒に行くからね!!」

「えーっ!?」


 ロイが不満そうな顔をするが、ルウは無視して俺の方を向く。


「兄が迷惑をかけたみたいで、ごめんなさい」


 兄ということは、ルウはロイの妹のようだ。


「別に気にしなくていいぞ」


 確かに奢らされるのは迷惑だが、妹が気にするような事じゃない。


「ありがとございます、それでは失礼しますね……ほら、行くよ!!」


 ルウはそう言うと、ロイの腕を掴んで歩き出した。


「あっ、ちょっと待ってよ……イブキちゃん、また今度ねー」


 ルウに腕を引っ張られながら、ロイは去っていった。


「なんだったんだ、いったい……」


 よくわからないが、騒がしい兄妹だった。





 二時間後、イーリス達と別れた店に戻る。


「パパ!!」


 すると黒いワンピースを着たコハクが、俺に駆け寄ってきた。


「もう買い物は終わったのか?」

「うん、ママも新しい服を買ったんだよ」


 大きな店だし、イーリスの体のサイズに合う服もあったようだ。


「イ、イブキ……」


 声のした方を見ると、そこには水着のような鎧を着たイーリスが立っていた。


挿絵(By みてみん)


「マジックアーマーというらしいんですが、これしか私が着れるサイズの物がなくて……」


 イーリスは、頬を染めて恥ずかしそうな顔をしていた。


「着た人の体のサイズに変化する、魔法の鎧なんだってーかっこいいよね!!」


 そういえば、水着のような形をした魔法の鎧が存在するとブライアンから聞いた事がある。

 男達からはビキニアーマーと呼ばれており、一部の人には大人気だとか……。


「でも、ちょっと露出が多いんじゃないか?」


 大事な部分はちゃんと隠れているが、お腹は丸出しになっているし、お尻も丸見えで下半身の露出が多い気がする。

 鎧に守られている部分があまりにも少なすぎて、防御にかなり不安がありそうだ。


「見た目はこんな感じですけど、魔法の力で攻撃から守ってくれるそうです、他にも体を軽くする効果があって、これがあれば錬金靴無しでも身軽に動けます、ほら、こんな感じに……」


 イーリスが体を動かすと、大きなお腹とお尻、さらに鎧で強調された大きな胸が激しく揺れる。

 それを見ていたら、なんだか急に顔が熱くなってきた。


「う、動けるのはわかったから、もういいよ」


 これ以上見てたら変な気持ちになりそうだったので、動くのをやめてもらう。

 以前はイーリスの体を見てもこんな風にならなかったのに……昨日、イーリスに抱きしめられてから、変に意識してる気がする。


「この鎧、便利な部分もありますけど、衣服の上からは着る事ができないという欠点もあります、そのせいで売れ残っていたみたいですね……おかげで半額以下の値段で買えましたけど」


 服の上から着れないのでは、露出が多くて普通の女性なら、まず装備したいと思わないだろう。


「やっぱりイブキは、こういう格好の女性は嫌いですか?」


 イーリスが不安そうに聞いてくる。


「そ、そんなことないすごい好きだぞ!!」


 正直恥ずかしかったが、イーリスに悲しい顔をさせたくなくて、素直にそう答える。


「こんな水着みたいな鎧が好きなんて、イブキはエッチですね」

「ぐはっ!!」


 イーリスの言葉が胸に突き刺さる。


「うふふ、冗談です」

「あ、あのなぁ……」


 変な冗談はやめて欲しい


「パパが好きなら、あたしもママと同じ鎧にすれば良かったなー」


 コハクがそんなことを言い出す。


「それはダメです、コハクがこんな格好で外を歩いたら、一緒にいたイブキが警備兵に捕まってしまいます」

「えっ、なんで俺が捕まるの!?」


 いくらなんでも理不尽な気がする。


「イブキ、世の中とはそういうモノなんです」

「そっか……なら仕方ないね」


 なぜかコハクは納得していた。


「それじゃあ、パパが着たらどうなるの?」

「一部の人が喜びますね」

「一部の人って誰だよ!?」


 そんな需要は、あってはならないはずだ。


「イブキ、世の中とはそういうモノなんです」

「そっか……なら仕方ないね」


 なんでコハクはそこで納得してしまうのだろう。


「いや、仕方なくないだろ!?あっ、わかった……これも冗談なんだろ?」

「……」


 なぜかイーリスは、無言で俺から目を反らした。


「えっ、なんで何も言わないんだよ!?」


 男の俺がビキニアーマーなんか着て、喜ぶやつがいるはずがない。

 そう信じたい……。


「それでイブキは、待ってる間どこに行ってたんですか?」


 イーリスは何事も無かったように、話を切り替える。


「武器屋とか道具屋だな……それと気になる事を聞いたんだけど、今この町では子供の行方不明事件が起きてるらしいんだ」

「どういうことですか?」

「ああ、実は……」


 俺は、冒険者ギルドの前でロイと話したことをイーリスに伝えた。


「そうだったんですか、やはり騎士団は動いていないんですね……」


 悲しそうな顔をして、イーリスが俯く。


「ママ、大丈夫?」


 コハクが心配そうにイーリスの顔を覗き込む。


「大丈夫です、心配いりません」


 そう言って、イーリスは安心させるようにコハクの頭を撫でた。


「騎士団が動かないのは、国王のせいなのか?」


 ロイの話では、国王が変わった事で騎士団も変わったと言っていた。


「そうでしょうね……私も王都にいた時は気づきませんでしたが、おそらく父は小さな町や村に騎士団を送らないように命令を出しているのでしょう」


 イーリスには悪いが、それは国王としてどうなんだろうか?


「イーリスの父親ってどんなやつなんだ?」

「圧倒的な自信に絶対的な意志、目的の為なら手段を選ばない……冷酷で恐ろしい人です」


 話を聞いた感じだと、とてもイーリスの父親とは思えない。


「あの人が王でいる限り、騎士団が動くことはないでしょう」


 そう言うとイーリスは、また俯いてしまった。


「それなら俺達で子供達を探してみないか?」

「えっ!?」


 イーリスが驚いた様子で顔を上げる。


「騎士団が動かないなら、竜騎士の俺達でなんとかしようぜ」


 正式にはまだ竜騎士になっていないが、細かいことはどうだっていい。


「そうですね……竜騎士を目指す者として、この事件を見過ごすわけにはいきません」


 イーリスの瞳に強い意志が宿る。


「あたしもパパ達を手伝う!!」


 コハクもやる気のようだ。


「それでは冒険者ギルドに行きましょう」

「冒険者ギルドで情報を集めるのか?」


 子供達の捜索依頼を受けてる冒険者ギルドなら情報が集まりそうだ。


「そのために、まずは冒険者登録をしましょう」





 冒険者ギルドの前に着くと、集まっていた女性達はいなくなっていた。


「さすがに、もう帰ったみたいだな」

「もうお昼ですしね、私達も登録を済ませたら昼食にしましょう」


 俺達は、入り口の扉を開いて冒険者ギルドの中に入る。

 中は思ったよりも広く、結構な数の冒険者達で賑わっていた。

 入り口の正面に受付が二つあり、依頼が書かれている掲示板も近くにある。

 それ以外にも丸テーブルがいくつか置かれており、冒険者達が座って何かを話していた。


「それでは受付に……」

「なんだあの女、滅茶苦茶デブじゃねえか」

「あんな体で、よくあんな鎧を着れるよな……恥ずかしくないのかよ」


 イーリスを見た冒険者達の声が聞こえてきた。


「あいつら……」

「大丈夫です、気にしないで受付に行きましょう」


 イーリスは気にした様子も見せず、受付へと歩いていく。


「どうせなら隣の娘にあの鎧を着てもらいたいよな」

「まったくだぜ」


 うん、聞かなかったことにしよう。


「すみません、冒険者の登録をしたいんですけど、よろしいでしょうか?」


 イーリスが受付にいた女性に話しかける。


「はい、新人登録ですね、ランクは最低のFからになりますがよろしいですか?」

「ランクってなんだ?」

「冒険者にはギルドランクというのがあって、ランクによって受けられる依頼が決まっているんです」


 受付の女性が説明してくれる。


「ランクは上からS、A、B、C、D、E、Fの七つがあり、依頼を達成することでランクが上がっていきます」


 そういえば、前にシズクもランクがどうとか言っていた気がする。


「Fランクからで構いません、二人ともお願いします」

「あれ、あたしの分は?」


 コハクも冒険者になるつもりだったようだ。


「冒険者になれるのは13歳からです、今は私達の手伝いで我慢してください」

「えー」


 コハクは不満そうな声を上げる。


「ごめんなさいね、お嬢ちゃん」


 受付の女性が、コハクに謝る。


「別に冒険者にならなくても、一緒だから問題ないだろ」

「うん……そうだね、我慢する」

「よし、いい子だ」


 そう言って、コハクの頭を撫でる。


「では、こちらの書類に必要事項をお書きください」


 受付から渡された紙には、『名前』『性別』『年齢』『技能』を書く欄があった。

 名前『イブキ・ユーフレット』性別『男』年齢『15歳』技能『槍』と書いておいた。


「書き終わったぞ」

「私も書き終わりました」

「それでは確認させていただきますね」


 受付の女性は、俺達から記入した紙を受け取り、目を通す。


「……男ですか?」


 そして、なぜか俺の顔を見て確認してくる。


「そうだけど」


 もしかして、俺を女だと思っていたんだろうか?


「パパは、ちゃんとおち●ちんついてるよ」


 コハクが突然そんな事を言い出す。


「コハク、女の子がそんなこと言っちゃダメですよ!!」

「そうなの?」


 コハクは、よくわかっていないようだ。

 後でいろいろ教えてやった方がいいだろう。


「……」


 その時、受付の女性が俺の下半身を見ている事に気づく。


「おい、どこ見てんだ」

「す、すみません……男ですよね、はい、問題ありません」


 赤い顔をして、受付の女性は俺達の記入した紙に判を押す。


「イブキ・ユーフレットさんにイーリス・アルトリアさん、冒険者ギルドはお二人を歓迎します、明日ギルドの身分証を渡すので取りに来てください」


 イーリスは偽名を使ったようだ、まあ本名で登録する訳にもいかないので仕方ないだろう。


「依頼ってすぐに受けれるのか?」

「すみません、身分証ができるまでお待ちください」


 どうやら明日まで待たないといけないようだ。


「仕方ありません、今日は戻りましょう」

「わかった、それじゃあ昼飯でも食べに行くか」


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