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「VS 木っ端」

「優真、萌ちゃんのこと頼むな」

「おう、二人ともあんまりやり過ぎるなよ? さぁ、萌ちゃんはこっちに」

「えっ!? でも、黒木君と花ちゃんが!」

「うちらは大丈夫だ。萌、優真の傍から離れるんじゃないぞ?」

「おい、何をやっている! 田母神を逃がすんじゃない!」


 ハゲがオッサン共を怒鳴り散らす。

 

 オッサン共は、学生如きに遅れを取るなんて微塵も考えていないのか、余裕たっぷりな表情を浮かべている。

 武藤という巨漢が俺にぶっ飛ばされて驚愕していたのもつかの間、腕っぷしが立つにしてもたかが高校生、これだけの大人がいれば問題ないと思っているのだろう。

 そんな中、オッサンの一人が萌ちゃんの方へと手を伸ばすがその行為を優真が許すわけがない。

 優真に腕を掴まれたオッサンは、苦痛の表情を浮かべている


「おいおい、なに俺の友人に汚い手を差し伸べてるんだ!?」

「クソガキが!」


 もう一人のオッサンが優真に向かって殴り掛かる。

 優真は、腕をつかんでいるオッサンを片手でぶん投げると、殴り掛かってくるオッサンに見事に重なるようにぶつかる。


「じゃあ、俺らは消えてるから後は任せた」

「おう」

「きゃッ」


 優真にお姫様だっこされた萌ちゃんの口から可愛らしい声が漏れる。


「こら、優真! あんまり萌にくっつくな」

「こんな時にヤキモチやいてんじゃねーよ花」

「いや、だって……」

「あいつの能力上、くっつくのはしかたないだろ?」

「そういう事だ花。大丈夫、俺が愛しているのはお前だけだから」

「――ポッ」


 花の顔が真っ赤にそまる。


「はいはい。ご馳走様!」

「貴様ら何を!? おい下民、田母神に触れるな! おい、何をしてる! 早くあの下民から田母神を連れ戻せ!」


 ハゲが唾を飛ばしながら叫ぶとそれに反応して数名のオッサン共が優真の方へと駆けだすが――。


「はい、さようなら~【インビシブル】」


 優真と萌ちゃんの姿が一瞬でその場から消える。


「消えただと!?」


 潜入捜査のスペシャリストの優真だ。

 身を隠すことに関しては、右に出る者はいないだろう。


 急に優真が消えた事によりハゲや坊ちゃん刈りは混乱している反面、松野をはじめてとするうるし会の面々の顔には先ほどの余裕が消え緊張が走る。


 優真が【インビシブル】という魔法を使ったことで、松野達は理解したのだ。

 優真が高位の精霊術師だという事を。


「お前ら、ただの学生ではないな?」


 松野は緊張した面持ちでそう問う。


「いんや、俺達は普通の学生だぜ? なぁ?」

「全くもってその通りだ。うちらのどこをどう見てただの学生じゃないと思うのか不思議でたまらん」

「ということだよ。てか、腹が減ってんだちゃっちゃか終わらせてやるから掛かって来いよ」


 俺はオッサンに殺気を向けるとオッサン共の呼吸がだんだんと荒くなっていき顔から血の気が失せていく。


「なんだ? 急に息苦しくなってきた……一体どうなっているんだ? 松野、なぜ黙って突っ立っている!?」

「くっ……なんだ、このプレッシャーは!?」  

 

 木っ端でも裏世界に片足でも突っ込んでいる奴らであれば俺との力の差は自ずと感じるだろう。坊っちゃん刈り達には無理だけど。


 殺気を放っただけでこの体たらく。

 ヤル気が失せたわ。

 殺気を抑えるとオッサン共の表情がみるみる良くなる。

 

「おい! 奴らをただの学生と思うな! 本気で掛かれ!」


 松野の一言で、精霊術師は詠唱を口にし、そうでない者達は各々の凶器を手に俺と花に迫る。


「なんかヤル気失せたわ。花、お前にやるよ」

「いいのか!?」

「すげぇ嬉しそうだな……あれだあれ、腹も減ってるしつまらない事でカロリーを消費したくないんだよ」

「後で文句言ってもしらないからな?」

「お前じゃないんだから獲物を取られて位で文句なんて言わねーから!」


 君の様な戦闘狂とは違うんだよ。


「よっし! 行ってくりゅ!」

「噛んでるし! まぁ、ほどほどになぁ~」


 箒を手にオッサンの集団に突っ込む花。

 花の人間離れした速さにオッサン共は眼を剥き驚く。

「なっ!? はや、うギャああああ」


 花が箒を一振りするだけで数名のオッサンが成す術なく吹きとぶ。オッサン共の汚い悲鳴が無人のアウトレットに木霊する。


「なんだ!? なんなんだお前は!?」


 部下達が空を舞う。

 女子高生が振るう箒によって。

 そんな予想だにしなかった光景が繰り広げられている事に松野はただただ眺めているしかできない。


「どうなってる!? おい、松野!」

「貴様らはプロなのだろう! おい、黙っていないで何とか言え!」


 坊っちゃん刈りもハゲも自分達の目の前で繰り広げられている惨劇に取り乱している。

 こんな筈ではなかったのだろう。

 オッサン共を使って俺らをいたぶり、花と萌ちゃんを拉致って好き勝手やろうと思っていたのだろう。

 でも、そうは問屋が卸さない。

 お前達の言葉を借りるとすれば、お前達は決して開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったんだ。

 裏世界でも名高い【ベエマス】のエース級エージェントと言う化け物達というな。


「あれ? もう終わり?」


 時間にして数十秒。

 一瞬にして阿鼻叫喚と化したアウトレットの一角で、スッキリした顔の花が血に染まった箒を手に立っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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