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Lycoris radiata  作者: 緋泉ちるは
30/34

鳥人族に会いに行こう

 早いもので、この世界の冬が訪れた。


 雪こそ振らないものの身を切るような冷たい風が森の中に吹き荒れる。


 この世界の動物や魔物にも冬眠という概念があるのか、森の中は静かで寂しい。


 あらゆる生物が暮らし大森林は少し危険で騒がしいほどがちょうどいいのだ。


 しかし、それも後少しの事、この冬を超えればいよいよ旅立ちの時である。


 「今日は山岳の方へ向かいます」


 生活が安定するのは良いことだ。食料の貯蓄もできているし、ノア考案の五右衛門風呂にも手を付ける余裕ができた。


 お風呂は住民にも受け入れられ、毎日とはいかないが、ローテーションを決め週に2度ほどは入れるくらいにはなったんじゃないだろうか。


 話は逸れたが、今日山岳の方に足を運んだ理由だが。


 「こんな山岳に他の部族がいるのですか?」


 「山岳だからこそ暮らしている部族がいると思うよ」


 今日はここに住むという鳥の獣人に会いに来た。転生の時に選択肢として候補にあがった時の情報でいえば、空が飛べて目がいい種族であるようだ。


 生活に余裕が出来たので近くの部族とも交流があれば私達が居ない有事の際に協力を求める可能性もあるので交流はあって損はないと思った。その為に、ステラを除いた幹部4人とモカ、コハクと共に森を歩いている。


 断崖が多い山岳は普通の獣人が住むのは少し難しい。


 魔物の襲撃にあった際に避難するのは時間がかかるし、獲物を捕らえても運搬するのが困難だからだ。

 その点、鳥族は魔物の襲撃があっても空を飛べる獣人はすぐに離脱できるし、崖を移動しない為、両手を使って運搬もできる。


 この間、ロッククラブの幼体を倒した山岳よりも南側に鳥族は居るらしい。村から一直線に向かえばさほど離れていないらしいので、上手く交流できそうであれば、森を開拓するのもいいだろう。


 「みなもさま、何か降ってきます」


 「ん。……人だね」


 空から女の子が!と言っても通じなそうなのでぐっと堪える。魔力感知で捉えたその姿は羽を傷つけたのか、滑空するように……墜落している鳥人だった。


 「モカ、受け止めてあげて」


 「わかりました…………蔓よ、網となり対象を捕えよ」


 捕まえる訳ではないけどね。詠唱のイメージなのでそこは許してあげてほしい。


 蔓はまるで蜘蛛の巣のような形に広がり、落下してきた鳥人の女の子に絡まり、伸びた蔓が地面に触れるすれすれまで伸び、衝突することなく受け止めた。


 「うぅ……助かりました」


黒い翼は鋭い刃で切られたように傷つき、血が滴っている。羽が上手く機能しないと飛ぶことも着地も上手くできないのでそれなり危険な状況だったのかもしれない。


 「何かあったの?」


 「いえ……何も……」


 どうやら警戒をしているようだ。


 大森林には様々な種族の獣人が住んでいるが、基本的に交流はないようだ。自給自足の生活の為、お互いの狩場を荒らされると生活の死活問題に繋がる。


 鳥族の住処の近くに武装をした獣人がうろついているとなれば、警戒するのは仕方ない事だろう。


 「モカ、治してあげて」


 「はい。森の聖霊よ、森に住む者に命の雫を与えよ……樹妖精ドライアドの雫」


 傷づいた翼が光に包まれ、傷が塞がっていく。


 「か、回復魔法ですか!?」


 具合を確かめるように翼を動かすと、風が埃を舞い上げ、運悪く砂埃がコハクを襲う。


 「めがぁ!」


 「あ、ごめんなさい!」


 いいね。空から女の子が降ってきてその台詞に繋げるとはコハク中々やるじゃないか。


 「みなもさま……楽しそう」


 「そんなことないよ?」


 ばっちりモカに見られてしまっていたようだ。ジト目で見られているので、コハクも大丈夫そうだし気を取り直して話を聞く事にした。


 「それで、何があったの?」


 「それが……」


 傷を治したのが功を奏したようだ。少し躊躇った後、状況を説明してくれた。


 「蟻の襲撃か……」


 時期的には遅い。蟻は周りの温度に合わせて体温が変わる生き物で、寒い時期になると動きが鈍くなり、動きがとまる。冬場でその姿を見なくなるのは温かい地面に籠るからだ。


 〈ファイアーアントという魔物の可能性が高いです〉


 前の世界にも同じ名前の蟻がいたが、それとは違うようだ。どちらかというと、獲物を求めて数匹で移動し続けるため、前の世界でいう軍隊蟻に近いのかもしれない。


 ただ、真っ赤な甲殻に覆われた見た目からそう呼ばれているらしい。


 「私たちは山岳にできた空洞に暮らしているのですが、運悪く蟻に見つかってしまい襲撃にあっています」


 あっていますということは、現在進行形ということか。


 「数匹を集落から引き離すために、別の穴から飛び出したのですが…」


 繋がっている場所がバレていたのか、穴から飛び出す際に崖に張り付いた別の蟻に待ち伏せされたらしい。


 その時に、翼をやられどうにかここまで飛んできたという。


 「ということはー……」


 「ミナモ様! 前方から蟻が向かってきます!」


 だろうね。獲物をみすみす逃すわけがない。


 うん。見たことある……姿も大きさも某地球を防衛するゲームに出てくるような赤い蟻だ。


 もし、虫が人間のサイズよりも大きかったらと考えた事がある人も少なくはないのだろうか。


 蟻を観察するとわかるが動きはとても素早い、人間サイズになった蟻であれば100mを5秒で走るとも言われている。


 「一匹ならそこまでかな」


 強靭な顎も機敏な動きも当たらなければ意味がない。双刃剣を振るい頭を飛ばす。暫く頭を失った体が動いていたが、やがてズシリと重い音をたてて地面に倒れた。


 「な……」


 私の事を知っている仲間は当然と言う顔をしているが、黒い翼の少女はこれでもないってくらいドン引きしている。


 「さて、他のも倒しちゃいたいし……案内してくれる?」


 にこりと微笑むと黒い翼の少女は唖然とした顔で素早く2回頷いた。交流のためにいいポイント稼ぎになりそうだ。



 「1、2……全部で6匹か」


 少女に案内をされた先で見たのは穴に顔を突っ込み崖に張り付く蟻の姿だった。


 「それじゃ、あれからの成果も確認したいし、ココアとフラットペア、ラテとアールペアで一匹ずつ。モカとコハクは1匹ずつで私が2匹という感じでいこうか」


 私の言葉にやる気に満ちた表情で仲間たちが頷いた。


 「そんな軽く決めて大丈夫なんですか!? 相手はあんな危ない蟻なんですよ!」


 準備もそこそこに戦闘に入ろうとした私達を少女が止めに入ろうとする。


 「そうね。それなら、貴女は私について一緒に戦う?」


 「いえ……私には無理かと……」


 「なら、私達に任せなさい。蟻が離れたら貴女は仲間に報告に向かえばいいよ」


 「わ、わかりました……お気をつけて」


 少女は一礼し、上空へと飛び上がった。いいな、羨ましい。


 「では、危なくなったら無理はしないで私の所に避難する事。私も2匹相手するから安全とは限らないけどね…では、戦闘開始!」


 ピィィィィィーーー!


 蟻の注意を引くために指笛を鳴らす。幸いの事に蟻にも音を感じる器官があるのか穴に突っ込んでいた顔をこっちに向けてきた。


 蟻たちは崖から身を離し、次々に落下を始める。ビル100階から落としても死なないというし驚くこともないだろう。


 「それじゃ、まずは私が全部引き付けるから、準備が整い次第攻撃して連れて行ってね」


 ヘイトってやつだ。知性が低い魔物ほど攻撃してきた相手を狙う習性を持っている。その為に、前衛という職は常に後衛に被害を及ばない立ち回りが要求される。


 まずは、私がタゲ(ターゲットの略)とりを行う。6匹が一斉に私に群がる。おぞましい光景だが、ロッククラブの幼体などの件により正直慣れた。


 ちなみに擬態のスキルは……言わなくてもわかるよね。この戦闘で獲得できますように。


 ファイアーアントは固い甲殻さえなければ脅威度は薄い。掴まりさえしなければどうってことない。


 迫りくる顎を避けて避けて避ける。エリアボスとの戦いを経験した私からすればファイアーアントの一つ一つの攻撃は捻りのない拙い攻撃でしかない。数の暴力も幼体で経験済みだし見てから回避余裕でした状態だ。


 「おーいこっちだ!」


 アールが小石を1匹に投げつけた。


 カツンカツンカツン。トリプルヒット。


 「あはは!アールばかだー」


 笑い事じゃない、私のタゲが外れアールの方へと3体が向かっていく。


 「そのまま1匹引き受けよう。フラット!」


 「はい!」


 フラットは詠唱もなしに水球を一匹の蟻にヒットさせた。


 「では、もう一匹は僕が貰いますね」


 アールを真似てコハクが石を投げる。石は蟻を掠める事なく通り過ぎていった。


 「も、もう一回!」


 コツンと今度は一匹にあたり、無事にタゲをとれたようだ。


 「みなもさま……私も貰いますね。先ほど、ミナモさまは1匹倒してますので2匹ください」


 「うん、いいよ」


 残り3匹は未だに私を狙っているにも関わらず、わざわざ私の近くまできて一緒に攻撃を交わしながら交渉をしてきた。


 獣化すれば上位種であるオーガ3体相手でも戦えるし、物足りないくらいだろうしね。


 1体をさくっと倒し、そのまま離脱。残った2匹をそのまま押し付ける形でモカに渡した。


 これで、みんなの戦闘をじっくり観察できるだろう。

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