露天風呂
夕食が終わり、ココアとフラットがやってきた。
「ごめんね、呼び出したりして」
「いえ、構いません」
二人の魔法を見て、私は一つの事を思いついたのだった。
「それじゃ、こっちに」
あの後、私はモカとコハクに手伝ってもらって大急ぎで穴を掘った。
大きさとしては縦横7メートル、深さ50~60センチほど。
穴の周りには鉄岩石を置き、穴の中にモカに要望して加工した腐りにくくした木片を敷き詰め、中央に大きめの鉄岩石を置いた。
簡易だが完成したのは……露天風呂!
私の家は村の端にあるため、家と柵の間にそれを作り、その周囲を完全に目隠しした柵を立てる。櫓に上っても覗かれない安全設計だ。
「なんですかこれは?」
「これはお風呂というの。いつも水浴びだからたまには暖かいお湯に浸かりたくてね」
問題としては排水がないことだが、それは明日以降改善すればいいだろう。
「とりあえず、大変かもしれないけど二人で出来るだけあの玉をこの中に落としてもらいたい」
穴の中には既にある程度水を張ってある。狐火で中央の岩を焼いてあるので普通の水に比べれば少し暖かいくらいだ。
そこにあの熱湯を加えれば……。
「わかりました」
ココアとフラットが協力して次々と玉を放り込み、水が少しずつ湯気をあげ始めた所で止めさせる。
水に手を入れる。
「うん、悪くないかな」
少しぬるい気もするが後は周りの鉄岩石で調整すればいいだろう。
「二人ともありがとう!」
「はぁ……?これくらいなら?」
私を除き、不思議そうにしている。
私も以前はシャワーで十分と思っている部分はあった。でも、いざ入れないとなると恋しくなるの何故だろう。
「まぁ……入ればわかるよ」
家の裏手に露天風呂はあるので、急遽裏口を作り、そこに脱衣所も作った。タオルもそこに置いてあるので即席としては準備は十分だろう。
「……フラットも一緒に入る?」
「な、なんで私に聞くのですか!?」
いや、そういうの一番気にしそうな気がしてね。
「まぁ、気になるのなら後で入ってみればいいけど」
「温かい水で水浴びするだけですよね?」
「まぁ、そんな感じかな」
体の汚れを落とす事を目的にした水浴びと、体の疲れをとる事を目的とした湯浴みでは大分意味が違うだろうけど。
結局声をかけた所、幹部全員が集まった。私がまた変な事を考えたと伝えたら集まったらしい。とても心外だ。
そこに私とモカとコハクが加わり総勢8人が居合わせている。
「それでは、お風呂を堪能したいと思います」
みんなの頭上にはてなマークが浮かんでいる。
「では、実践は……フラットにお願いしようかな」
「えぇぇ!なんで私なのですか?」
「意味はないかな。何となく?」
旅番組で温泉いえば、美女と大きい胸じゃないかな。モデルとしては申し分ないはず。背は小さいけどね。
「まぁ、入るだけでいいのなら……」
「ありがとう。それじゃ、脱ごうか」
「なんでですか!水浴びするだけなのに脱ぐ必要がどこにあるのですか!?」
水浴びは服を脱がないのがこの村での常識になっていた。水浴び中に魔物と遭遇することはゼロではない。その時に裸なんて笑えないからね。
最初は元は魔物であったため、裸に抵抗がなかったが、私が根気よく諭したため今は恥じらいを持った行動をしてくれている。
嫌なら仕方ないと、他の幹部を見る。
バッ!
一斉に目を逸らされた。
「ミナモさま。みんなが初めてなので不安に思うのは仕方ないと思います」
「僕もそう思う。やっぱりミナモさんが実践しないとだめですよ」
あれ、私は後でゆっくりと堪能すればいいと思っていたんだけど。
「そうですね。何も知らぬ私達では粗相をしてしまう可能性があるので正しい使い方を教えてくださると助かります」
他の幹部たちも頷いている。
予定外だ。
「なら、モカとコハクも【一緒】に来なさい。これから【一緒に】旅をしていくのだから、【一緒に】経験を積むのは大事でしょう」
一緒にというワードを強調しておく。
まさに旅は道連れ。
モカとコハクは渋々と頷いた。
お風呂に浸かるうえで大事な事だけは先に説明しておいた。
一つ 湯に浸かる前に、一度湯で体を流す事。
一つ 髪は縛る事
一つ タオルを湯につけない事
一つ 中央の鉄岩石に手を振れない事
それを伝え、幹部たちには少し部屋で待ってもらう事にした。流石に着替えまで見られるのは恥ずかしいからね。
脱衣所は簡単な仕切りを作り、着替えの様子が見えにくくする為に工夫した。
イメージとしては洋服屋さんの試着室。流石にカーテンはないけど。
タオルを体に巻き、髪を縛り準備完了。
二人も私の真似をしてタオルを体に巻いている。後は全員に説明するだけだ。
幹部たちを呼び、2列になってお風呂の前に集まる。流石にお風呂の周りと脱衣所までしか舗装はしていないからそうなってしまった。
「まず、この桶で体を流します」
お湯はちょうどいい湯加減に仕上がっていた。
何故かノアが張り切って管理をしてくれるとの事なので、任せてみる事にした。
かけ湯は、体の汚れを落としてから入浴するマナーと思われがちだが、風呂の温度や温泉の刺激に体を慣らすための大切な意味がある。
これだけで、入浴中の脳卒中、心臓発作が予防できるらしい。
その際に手、足など心臓の遠くから肩に向かってかけ湯を行うようにするのも大事だ。
まぁ、シャワーがないので同時に体の汚れを落とす目的もあるので理由がどうあれやってもらった方がいいだろう。
「では、説明した通りやってみて」
実践はコハクにお願いした。
「はい」
桶にお湯を組み言われた通りにかけ湯を行う。みんなの目がコハクに注目している。
よかった、私がやらなくて。
「あつ!」
お湯に慣れていない為、そう感じるのは仕方ないだろう。それでも真面目に言われたことを実践してくれた。
「うん。そんな感じでいいよ。後はお湯に浸かるだけだね。かけ湯もわかったことだし、さっきの注意事項を守れば後は自由だからみんなも着替えてくるといいよ」
幹部たちが着替えに戻っていく。
「モカも同じようにやって、浸かろうか」
「はい」
私達もかけ湯を行い、早速湯船に浸かる事にした。
「あ~生き返る……」
「みなもさまは生きてますよ」
この世界じゃこの言葉は通用しないようだ。親父臭くて私も初めて使うから大目に見てもらいたい。
「ミナモさんの言う事はわかる気がします。悪い物が抜けていく感じがしますね」
「そういう目的だからね。ゆっくりと温まるといいよ」
コハクは背が低いため普通に浸かると苦しそうだ。なので、鉄岩石を取り出し、段差を作ってあげた。
浸かっていると、タオルを巻いた幹部たちも集まってきた。
かけ湯をして浸かるだけなので問題は起こらないだろうと思っていたがその期待はすぐに裏切られれる。
ステラとココア、フラットは教えたとおり出来ていたのだが…。
「アールしっかりやってほしいんだけどー」
「仕方ないだろ! 片手で不便なんだ!」
私のアドバイス通り、早速手を繋いで生活を始めたようだ。こんな時までやる必要はないんだけど。
「ぶはっ!今の絶対わざとだろ!」
「違うしー。手が滑っただけだし」
言われたことを守るアールに対し、ラテは大雑把なのかアールの頭からお湯をかけていた。
「あー!ちょっと熱いんですけど!」
「うるさい!先に仕掛けたのはラテじゃないか!」
「はいはい。仲良いのはわかったからさ」
バシャバシャ掛け合うせいでこっちまで被害が及んでいる。
「別に仲良くないですよー」
「そうですよ、こんなガサツなやつ!」
「アールが神経質なだけだしー」
お互いの事もよく理解してるようだしね。何よりもこんな状態でも手を離さないんだから。
「ん~。わたしゃちとぬるく感じるねぇ」
争うラテとアールを他所にステラは物足りない様だ。日ごろから火の傍で汗水流しているからかな?
「なら、真ん中の岩辺りならもう少し温度は上がってると思うよ」
「そうかい?」
ステラは岩の傍が気に入ったようだ。そこに座り寛いでいる。結構熱いと思うんだけど。その証拠に興味を示したココアが直ぐに戻ってきたし。
「私はこれくらいがちょうどいいです……」
「うん。あそこはちょっと熱すぎかな」
ココアは出来るだけ岩から離れた所がいいみたいだ。どうも熱いのは苦手らしい。
それでも、リラックス出来ているようなので気に入ってはくれそうだ。
「で、フラットは肩まで浸からないの?」
フラットは岩の段差に座り、腰までしか浸かっていない。
「わ、私はこれで十分ですので」
「それじゃ、疲れとれないでしょ?」
半身浴するにも鳩尾辺りまで浸からないと効果はでない。フラットのやり方は正しいとは思えなかった。
そもそもフラットが半身浴なんてもの知っていると思えないが。
「うぅ……わかりましたよ」
フラットが肩まで浸からなかった理由はすぐにわかった。
「あ、浮いた」
「またそんな目で見てます!」
「気のせいだと思うよ?」
脂肪の塊だからかな?体脂肪が低い人は金づちって聞くし。
フラットが恥ずかしがっているので視線を逸らすと、ようやく浸かり始めた二人がまた言い争いをしていた。
「熱い方が気持ちいいだろ!」
「やだよ。こっちのが気持ちいいし」
熱い方へ行きたいアールとぬるい方に行きたいラテが引っ張り合いをしていた。
まぁ、お互いが納得すればいいし、口を挟むのは野暮だろう。
提案したのに無責任?よく、聞こえません。
結局ラテとアールは熱い方とぬるい方を順番に浸かるようにしたようだ。それも若干揉めてはいたが、今は熱い方に二人で浸かっている。
何だかんだ、それぞれ楽しんでくれているようで何よりだ。
後は、そろそろ……。
「コハク、無理しなくていいからね」
「え、何がですか?」
心配を余所にコハクは普通に浸かっていた。
あれ、タイミングとしてはのぼせるのがお約束だと思ったんだけど。
「モカ様、大丈夫ですか?」
「……暑い」
ばしゃん!
音に気付き、振り向くとモカが沈んだ。どうやら湯から上がろうと立ち上がったらしい。
「こっちだったか!」
急いでモカを引き上げ、休ませるために部屋にまで連れて行った。
色々と見ないように体を拭いた為、多少濡れているが仕方ない。
そういえばモカは暑いのに弱かった。お約束だとコハクがのぼせると思っていたので油断していた。
ベッドに横たわらせ、首と脇にタオルを挟ませる。団扇はないので、火を起こすときに使う木の板で顔を仰いであげた。




