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Lycoris radiata  作者: 緋泉ちるは
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スキルを狙え!

 目覚めると、そこは地獄絵図が広がっていた。


 うめき声をあげながら、ベッドや床に人が転がっている。


 「気持ち悪いですー……」


 「そんな事を言うな。私もつられる……」


 ラテもココアも顔が真っ青になっている。


 「すみません……今は僕に話しかけー……うっ!」


 「コハク……だめ。今もどしたら全員……」


 モカは頭をおさえ、コハクはベッドに沈んでいる。


 「ミナモ様……今は胸の話はやめてくださいね。それどころではないので……」


 何も言っていないのにフラットはベッドに仰向けに寝転がり、胸を上下に膨らましている。一応言っとくが呼吸で。


 「情けないなー。あたしは何ともないぜ」


 アールはラテが動けない事を良いことに、ここぞとばかりに横腹をつつき、煽っている。


 「ほらほら、あんた達は水分をとりな。ちったぁ楽になるさ」


 ステラも何ともないようで、みんなの給仕に回っている。最後まで呑んでいたはずなのにおかしい。


 「ミナモさまは何で平気なのですか……」


 早めに脱落したお陰でモカはダメージが少なさそうだった。


 「何でって、耐性があるから?」


 後は痛覚無効か。どのスキルが影響しているかわからないが私は何ともなかった。


 とりあえず、今日から予定していたスキル集めは中断せざるおえないのは確かだ。


 結局、お昼過ぎに幹部たちは家を出ていった。この調子じゃ一日休んで終わるだろう。


 無事なアールに警備を頼み、ステラはいつも通り食事の準備に向かっていった。


 モカは大丈夫そうだが、コハクは未だにダウンしている。


 「今日は休んで明日から頑張ろうね」


 「はい……申し訳、ありません」


 水を飲みながらコハクは項垂れた。これもいい経験だろう。


 結局、その日は特に何もせずに終わった。


 次の日。


 「調子はどう?」


 「少し……体が重い気がしますが大丈夫です」


 私とコハクは予定通り山岳地帯に来ていた。


 スキルの獲得が目的の為、モカは来ていない。代わりにココア達幹部組の訓練をお願いした。


 「無理はしなくていいからね」


 本調子でない状態で連れてきた私が悪いのかもしれないが、旅に出て体調が悪い時に魔物に襲われる事もありえる。悪い状態での戦闘を経験しておくのも必要だと思った。


 「ロッククラブの幼体はそれほど脅威ではありません。動きは鈍く、好戦的でもないため落ち着いて対処しましょう」


 村の住民が居ない事をいいことに、ノアも一緒に歩いていた。最近、自由すぎやしないだろうか?


 「マスターとお酒飲めなかったのでこれくらいいいですよね?」


 見透かしたのか、聞こえていたのか。ノアに対して余分な事は考えない方が身のためになりそうだ。


 「あれが幼体ね」


 森が途切れ、断崖が目の前に現れた。


 ロッククラブの幼体は器用にも断崖に爪を立て岩肌に張り付いていた。


 大人のウミガメ程の岩がゆっくりとうごめいている。ぶつぶつが嫌いな人から見たら鳥肌がたちそうだ……ざっと100くらい?


 「まずは、岩から落下したあの幼体を相手にしましょう」


 ノアは地面に背中が刺さり、ジタバタしている幼体を指さした。


 「ちょっとかわいそうなんだけど」


 まるでひっくり返された亀のようだ。自身よりも重い鉄岩石を背負っているのだ自力で脱出するのは無理だろう。


 「ロッククラブの幼体は捕食される側の立場にありますので、普段は岩場に擬態して過ごしています」


 危険性が薄いので観察してみると、エリアボスの外見とはいくつか相違点があるがわかった。


 「爪も両方鋏なんだね。足も鋭いけど、脅威はなさそう」


 大人になるにつれ変化するのだろうか。そう考えているとノアが説明をしてくれる。


 「大人のロッククラブも形態はこのままです。大きさもエリアボスに比べ小さく、ウッドベアよりも小さいくらいです」


 ウッドベアとは木の上に暮らす熊型の魔物で、獲物が通った瞬間に木の上から落下してくるのが特徴的だ。


 日本に出没するヒグマと同サイズほどの体躯をしている。大きさで言えば2メートルくらいか。


 その情報から考えるとエリアボスの半分くらいの大きさという訳か。そうだとしても十分大きいが。


 「エリアボスは数年から数十年に一度生まれる変異体である為、凶暴性や戦闘能力があがっている個体です。時折、突然変異でエリアボスへと進化する個体もいますがとても稀有な存在でしょう」


 となると、大人のロッククラブが近くにいる可能性はあるが、それでもエリアボスが居るところに比べれば安全にスキル集めができそうだ。


 「それじゃ、コハク倒してみようか」


 「ぼ、僕からですか!?」


 「何事も挑戦だよ、ほら行ってらっしゃい」


 「はい……」


 ジタバタしている幼体に近づき、コハクは鉄のショートソードを振りかざした。


 「ごめん……!」


 「ぴーーッ!」


 剣先が幼体に突き刺さり、少し足をバタつかせた後、静かに動かなくなった。


 コハクを狩りに行かせたことはない。


 恐らく人生初めての魔物狩りだろう。


 その瞬間、コハクは驚いた表情をした。


 「あ、あの……」


 「何あったの!?」


 見た所体に変化はない。もしかしたら、初めての魔物の命を奪ったことで、心をやられてしまったのかもしれない。


 私も前世の記憶が邪魔し、生き物の命を奪う事に最初は抵抗があった。それは、慣れていけば薄れていくが、今でも最初の事だけは忘れられない。


 「いえ……その…………」


 「落ち着いて、初めてだから気持ちはわかるよ。一つ間違えば私達が逆の立場になるのだから受け入れなさい」


 「そうじゃなくてですね……」


 コハクはとても言いにくそうに言葉に詰まっていた。


 「それじゃ、どうしたの?」


 コハクに何かあったのは間違いない。魔物を倒したことに傷を痛めたわけでないとしたら…?


 「その、スキル手に入っちゃいました」


 「えぇぇ!?」


 そんなに簡単に手に入るものなの?


 確か、確率って聞いたけど……。


 「獣王への加護が発動したのだろ思われます。獣王への加護は、ステータス上昇の他に、スキル獲得の補助する効果が確認されています」


 思った以上に獣王への祝福の効果は高そうだ。


 だったら、私も負けてはー……。


 ボトッ。


 軽い振動と共に、私の背後に重い何かが落ちる音が伝わってきた。


 ボトッ……ボトッ、ボトボトッ!


 それに続くように地面が揺れる。


 「何の音?」


 振り向く前にコハクの顔をみると、青ざめた嫌なものを見ているような表情をしている。


 嫌な予感しかしない。


 私が居ない時の為、急な襲撃にも対応できるように魔力感知を使っていなかったのが悪かった。


 背後を振り向くと、大量のロッククラブの幼体が岩肌から落下している最中だった。


 しかも、綺麗な着地を決めて。


 「幼体は集団行動をし身を守る為、仲間に何かあると一斉に攻撃してきますのでご注意を」


 おそいーーーー!


 絶対に知ってて安全な一体を狙わせたな。


 その証拠にノアの顔は良い表情をしている。


 幼体の動きはそれほど早くないが、一斉に向かってくる姿はトラウマになりそうだ。しかも、全員がカニ歩き……横向きで迫ってくる。


 「エリアボスと違い、正面に移動する構造を持っていない為です」


 そんな説明いらないし。


 コハクは完全に戦意喪失しているし、ノアも傍観状態を決め込むようだ。


 「コハクは下がっていなさい」


 次元収納から双刃剣を取り出し、迎え撃つ体制を整える。


 扱いは難しいが威力は折り紙付きだ。


 先頭の1体に向け、双刃剣を右手で持ち、右から左へと振るう。それだけで、声をあげる間もなく鉄岩石ごと真っ二つに体が割れた。


 2体目を突き刺し、左手に持ち替え回転するように振り回せばまとめて3体が亡骸へと姿を変えた。


 取り回しは難しいが、近距離が苦手な訳ではない。体を軸に武器を回すように戦えば近距離の相手でも苦とはならない。


 それにこの武器はどちらかというと集団戦に向いているようだ。


 私は既に幼体に囲まれている。しかし、相手が動きの鈍い魔物だとしても、未だに肉薄はされていない。物理攻撃無効は関係なしに、傷一つつけられていない状況だ。


 双刃剣の良い所は、多彩な攻撃パターンを生み出せることだろう。


 正面に突きを放っても、後方に剣を返すことなくそのまま突きを放つことができる。


 刃をそれぞれAとBとした時に、ABABと交互に振るうことも出来れば、A切りA付きB突きB切りにも変化できる、状況にあった手数の多い攻撃を繰り出す事が可能だ。


 しかし、この相手にはそれすら必要なかった。恐怖という概念はないのか、仲間がやられても構わずに突っ込んでくる。


 ただ、向かってくる敵を切る、最早その作業でしかなかった。


 最初は数に圧倒されていたが、今は余裕さえ生まれている。


 幼体の背負った鉄岩石を傷つけないように本体のみを狙い、一撃で葬る。


 相手を傷つけない戦いを身に付けるために敢えて攻撃をさせ、刃がない部分で受けたり、捌いたりも練習した。


 それで気づいたのは攻撃を受けたときに鍔がないため攻撃が刃にそって来たときに手を守る術がないことだ。


 受けることを出来るだけやめ、相手の攻撃に合わせ弾くか流すのが安全に戦うこつなのかもしれない。

 まぁ、防御態勢EXのお陰でほぼ無傷なんだろうけど。出来るだけ、自分の能力は隠す方が身のためだろう。


 一体どれくらい倒したのかわからない。周りには鉄岩石がゴロゴロと転がっている。


 その時だった。


 〈同一種を100体倒したことによりスキルを獲得。個体名ミナモは甲殻キラーを獲得しました〉


 世界の言葉が響いた。


 ちがーーーう!


 スキル獲得は嬉しいよ。だけど、今はそれが目的じゃないんだ。


 結局襲ってきた幼体を倒してもスキルを手に入れることは出来なかった。


 「ど、どうでした?」


 「甲殻キラーが手に入った」


 結構倒したはずだ、キラーを手に入れてからも50体ほど?


 「では、他の山岳にも向かいましょう」


 こんなことでめげてはいられない。一日目でコハクが擬態を手に入れたのだから幸先はいいだろう。


 それに、沢山倒せばいつかは手に入れるのだ。根気よく続ければそのうち…ね?


 しかし、そこでも同じ数くらいを倒したはずだが手に入らなかった。


 「ねぇ、転生を繰り返す時に、アリルテウスが運を下げたって言ってたけどまだ効果残ってる?」

 転生した直後に一度死んでいるのもその影響だと言っていたし。


 「いえ、それは解除されています。……単純にマスターの運が……」


 でも……まだ300体くらいだし。運が悪いと1000体くらいでしょ、まだまだ余裕あるよね。


 それが、後にフラグとなっているとは知らず、今日は村に帰る事にした。

お読みいただきありがとうございます。


自分自身お酒は飲まない、飲めないので二日酔いの事はわかりませんが、実際はどうなのでしょう?

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