これからのこと3
「という感じかな」
「よくわかりませんでしたが、わかりました」
「僕もそんな感じです」
悩んでいる二人をよそにノアは役目は終わったとばかりに甘えてくる。
「ノアと言いましたね、少しミナモさまにベタつき過ぎかと」
それを見た、モカはムッとした表情でノアを見ている。
「モカ、そう邪険にしないであげて。一応モカに名を授けるようにアドバイスしてくれたのはノアだしさ」
「そうだったのですか…失礼しました」
「問題ありません! 共にマスターを慕う同志ではありませんか!」
ノアは気分がいいのか、モカの言葉に気にした様子はなくてよかった。
「そうですね。ですが、甘えるのは順番でお願いします」
そんな順番作らないで欲しい。
「僕も混ぜてほしいんだけど…」
私は誰の者でもないからね?
勝手に同盟が組まれてしまったが、役者も揃ったことだし、改めて今の状況を整理する事にしたーーのだが……。
「ちょっと、みんな近すぎて話しにくいんだけど」
私の周りに団子ができた。
モカとコハクが私の腕をとり、ノアは相変わらず私の膝に座っている。身動きがとれない。
私が転生者で元人間であっても二人は私は私と言ってくれ二人とも変わらずに慕ってくれている。それが、この証拠なのだろう。
「では、私から獣王の種と獣王への祝福について補足を入れたいと思います」
3人ともこの状況を何とも思ってないようで普通に説明が始まった。……私がおかしいの?
「まず、獣王の種ですが、マスターが仰った認識で構いません。ただし、そこに伴う危険を知っておかなけれいけません。その危険とは…そもそも獣王とは何だと思いますか?」
ただ説明するのではなく、二人に考えさせるように質問形式で説明は行われた。
「王様のこと?」
コハクが答えるとノアは頷いた。
「概ね正解です。この大陸には3つの種族が土地をわけ暮らしているのは知っていますね」
「獣人と魔族と人間……かな」
「そうです。中には私のようなエルフやドワーフなどの種族もいますが、別の話で置いておきます。
では、それぞれの国の頂点にたつものは誰でしょう」
誰も答えなかったので、これも私が答える事にした。
「獣人は獣王、魔族は魔王で人間は皇帝かな?」
「その通りです。獣王の種の危険性を説明するのにはまず国を形成する仕組みを理解しなければなりません」
ノアの説明は思ったよりも複雑だった。
まず、獣人、魔族、人間の国で国の頂点に立つ者の選出方法が異なる事を説明された。
人間は由緒ある皇帝一族が長年に渡り国を治めている。善政であっても悪政であってもそこには揺るぎない立場が存在しているようで皇帝至上主義で国が動いている。
魔族は生まれた時に備わった魔力の器により人生が変わる。平民の生まれであっても器さえ持っていれば魔王として君臨できるようだ。ただし、現魔王は大陸が一つになる前からずっと変わっていないようなのでそう簡単に覆される立場ではなさそうだ。
ちなみに、魔力至上主義と言われているらしい。
最後に獣人だが、獣王は力と知恵を備え、国民から絶対的な支持を持つものが選ばれるようだ。なので、現獣王の立場が常に安泰という訳ではないようだ。
だが、ここ30年ほど獣王は変わっていないようなので、話を聞く以上に獣王となることは難しそうである。
「そこで、獣王の種の話になるのですが…………コハクさん、もしアナタが獣王であった場合ですが、その候補が現れた場合どうなさいますか?」
突然質問され、コハクは狼狽えた。
「僕は……争いたくはないかな。魔物ならともかく、同じ獣人だし」
コハクらしいと思った。成長しても力というのは正しい使い道をしなければ自らを滅ぼす。
「では、マスターとモカさんはどうでしょう?」
「私はまず観察するかな。その人が大事な人を……獣王であれば国民か。それに害を与えるのなら全力で潰すと思う」
私も村長をやっている。大事な仲間に危険が及ぶならその危険分子は取り除かなければならない。だけど、任せれる人材がいるならば譲るのは悪くないと思う。
「昔、ミナモさまとリーダーの座をかけて戦ったことがあります。その上で認めたのなら潔く身を引きます」
それぞれの意見があるようだ。
「では、現獣王はどう動くと思いますか?」
「どうって、どうもできないんじゃない?」
世界の言葉が届いているのなら気づかれたかもしれないが、世界の言葉は直接関わった者にしか聞こえない。
名付けでは私と名を与えた者のみが、自ら得たスキルならその者自身のみが聞こえるはずだ。そうでなければ個人情報漏洩により、アリルテウスを訴えなければならないな。
「はい、そこで獣王への祝福の話に移ります。まず確認したいのですが、コハクさん体に変化はありましたか?」
「見た目もだけど……体内から力が漲るような感覚があるような気がします」
「それが、獣王のへの祝福の効果だと思われます。もちろん、名付けの影響もあると思いますが、名付けは進化を促すものであり、常にステータスを上昇する効果はありませんので」
新たなスキルや身体強化が上昇するのは、名付けにより進化した時によるもので、常時力を与えてくれるわけではないようだ。
「人間であれば、勇者の卵。魔族であれば魔王の器、獣人であれば獣王の種……それぞれ素質を授かった者に祝福は付与されます。
そして、その祝福は分配方式であるのです」
「素質を持った者に均等に配られるってこと?」
「いえ、獣王の種もグレードアップします。種は芽をだし、葉がなり華を咲かすように段階を追うごとに割合が変わってきます。現獣王が華を咲かしているのであれば、割合は9対1くらいでしょうか。それでも、分配されたことにより、僅かでもあっても気づかれることでしょう」
つまりは、誰かが獣王の種を手に入れたということは既に知られているということか。
「なるほど、それで獣王がどう動くかという話に繋がる訳ね」
「はい。残念ながら私でもそこはわかりません」
話を聞いて、コハクは表情に陰をみせたのがわかった。
「もしかしたら、獣王が僕の事を探すかもしれないのですね…」
獣王の思惑がどうであれその可能性が高いと思う。もしかしたら、立場を守るために……。
「僕は、村の人たちにお世話になっています。それなのに、みんなに迷惑かけてしまうのは嫌です」
同じ立場なら私もそう思うだろう。
「コハク……ミナモさまはそれくらいの事気にしない。私もそう、ココアやラテ達も同じ。仲間は仲間、問題があればみんなで解決する」
「そうだね。私の名付けが原因でもあるし、コハクだけが思い詰める必要はないよ」
出会って僅か2か月という短期間だとしても、何となく過ごしてきた2か月とは違う。生きるために必死にやってきた。そんな姿を見てきたのだから見捨てる訳にはいかない。
「ありがとう……ございます」
コハクの目には涙が浮かんでいた。だけど、その瞳の奥は決意に満ちた強い光を宿している。
「それじゃ、それを踏まえて今後の方針だけど、意見はある?」
正解も不正解もない。
自分たちがどうしたいかだ。
「僕は、ここを出ようと思っています。迷惑とかではなくて、ただ受け身に回るのはもう嫌なので…問題があるのなら立ち向かいたいです、何をすればいいか、はわかりませんが」
私達の言葉を聞いて尚、決意を固めたのだろう。弱いと思っていたコハクはもう居ない、自分の意志を伝える。この2か月間、そうやって過ごさせた成果が出ているようだ。
「私は、もしもの為を考え村に留まるのが良いかと。例えコハクが狙われようと皆で立ち向かえばどうにかなります」
そうなった場合、村の被害は甚大なものになる可能性はあるが、土地の利を活かしゲリラ作戦もとれるだろう。ただし、常に警戒はしておかなければならない。
数か月後なのか、数年後なのかその時を迎えるまで。
「私はモカの意見に反対かな。村に被害が及ぶくらいなら私が全力で潰すまでだけど、相手の真意がわからないのなら争う必要もないし。何よりもただ待つってのも私の性に合わないかな。」
慎重に動く時は動く。だけど、それが年単位になるのなら勘弁願いたい。
その間に人海戦術を用いられて包囲網が完成されたらそれこそ詰みになりかねない。
それぞれの意見を述べたところで、ふと疑問に思った事があった。




