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Lycoris radiata  作者: 緋泉ちるは
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これからのこと

 気付いたら、辺りは真っ暗だった。


 部屋の灯りもついていない、月の光も射しこまない暗い静かな夜だ。


 隣のベッドではコハクが眠っている。


そうだ……名付けした後に寝ちゃったのか。


 コハクを起こさない様にそっと家から出るとモカが入口の外で見張りのようにたっていた。


 「おはようございます」


 「もう、こんばんはだけどね。何か問題はあった?」


 これは挨拶のようなものだ。よほどの緊急事態が起きたのならば流石に起こしに来るだろう。


 「いえ、特に何も」


 「そう。もしかしてずっと待ってた?」


 モカならやりかねないので一応聞いておく。


 「そうしたかったのですが、折角ミナモさまがお休みなられてますので、少々代理的なことをしておりました」


 「そう、お疲れ様。ありがとう」


 村は私抜きでも十分に回っている。なので、私が手を出せることはほとんどない。鍛冶ですら教えた子達が真面目に頑張っているので、作った品の確認くらいしかやることがない。


 「私が居なくなってもどうにかなりそうで安心したよ」


 「……居なくなってしまうのですか?」


 「……?そんな予定は今の所ないよ?」


 「最近ミナモさまは何かとつけて、居なくなってもなどと言うので少し不安でしたのでその言葉を聞けて安心しました」


 確かにそう指摘されると言っているかもしれない。


 けど、今の所その予定はないし、まだまだ発展させたい所も残っている。何よりもココア達をもっと成長させないと安心して村を旅立てなーー……。


 まただ。


 村を旅立つ?そんな予定はないと言っているのに。


 (ノアちゃん。思考操作で誘導してたりする?)


 〈そのような事実はございません!〉


 心外ですと言わんばかりに否定された。


 それじゃ、この気持ちと考えは私の…?


 「ミナモさま、どうなさいました」


 「あぁ、うん。何でもない」


 「何処か、ご具合でも悪いのですか?」


 「平気。少し考え事をしていただけだよ」


 「それならいいのですが、もし何かあれば言ってください」


 モカも腑に落ちていない様子だ。だが、私が平気と言えばそれ以上は追及してこない。


 「一日サボっちゃったからせめて村の周りだけ警邏してくる」


 「……わかりました。お気をつけて」


 モカに見送られ、村の外へとでる。


 森は妙に静かで、風に揺れる葉の音だけが響いている。


 その静けさが悪かった。私は一人考え込んでしまう。


 思えば、この気持ちが表れ始めたのはコハクと鍛錬をし始めた頃からだった。


 いつか、コハクは村を離れるとわかっていた。もしかしたら、名前を授けなければずっとこの村に居てくれる。そう思っていたのかもしれない。


 今思えば、その気持ちがあったから名付けを先延ばしにしていたのかもしれない。


 コハクの口から明確に村を出るなど聞いたことはない……いや、いつかは離れるかもとは言っていたが、けどそのいつかは直ぐに訪れる。


 コハクは自分の力に自信を持ったのなら出ていくだろう。


 何故なら、コハクは名付けの理由にみんなを守りたいと言っていた。


 みんなとは誰か?


 村の住民の事?それともモカやココア達?もしくは私…………全部違う。


 コハクの守りたいものは関わる全ての事だろう。


 世界の言葉がなければ、そうは思わなかったかもしれない。だが、コハクの授かった獣王の種。これは王の資質の事を指しているのだろう。


 コハクはこの村だけで一生を終える人生は持ち合わせていない。それは、獣として王として本能で理解するはずだ。


 それじゃ、私はその時に……。


 「…………さま。…………なもさま!」


 「あっ…………」


 モカが目の前に立っていた。


 その目はとても心配そうで、泣き出しそうだ。


 「ミナモさまを心配するのは不敬かもしれませんが…あまり心配かけないでください」


 「うん……ごめん」


 モカに呼ばれるまで存在に気づけなかった。ノアもぶんぶんと暴れまわっている。ずっと呼んでいたのかもしれない。


 「いえ……それより、コハクが目を覚ましました。ミナモさまをお探しのようです」


 「わかった、直ぐに行く」


 知らない間に森の奥へと歩いてきていたようだ。魔力感知を使用すると村からかなり遠くに歩いていたようだ。


 「はい、お供します」


 帰る途中、二人に会話はなかった。いつもならモカから他愛のない話を振ってくるのだが今日はそれがない。


 私の後ろを静かについてくる。


 気まずい。特に二人の関係に何かがあったわけではないのに、二人の間に亀裂が入ってしまったように感じる。


 結局、家に戻るまで一言も会話はなかった。


 「ただいま」


 心なしかドアが重く感じた。


 「おかえりなさい。遅かったですね、何かあったのでしょうか?」


 その瞬間、私の時は完全に停止した。


 「あ、あの……どうかしましたか……?」


 コハク……がベッドの横に立ち、首を傾げ不安そうに見つめてくる。そこでようやく私の時が動き出した。


 「だ、だれ!?」


 時は動かしたが、頭は動いてなかったらしい。


 私は上ずった声で思わずそう聞いてしまった。


 そこに居るコハクはコハクであるのにコハクでなかったのだ。

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