虎の名は
翌朝、清々しい目覚めと行動に移した。
子供はまだ寝ている。起こさない様に巫女装束に着替え、家から抜け出す。
住人に集会があると伝えていないので、魔力感知を使い、人目のつかない場所を通り、ステラの居る食堂に隠れる事にした。
「おはよー!」
「おはよう!今日は気合が入ってるねぇ」
そりゃ、ドッキリを仕掛けられるんだ、楽しくもなる。
ステラも朝食から張り切っていた。朝はナンとスープの事が多いが、今日は体力の肉まで用意している。しかも、スープは前の宴会で作ったロッククラブ出汁をとったスープだ。
「料理人EXのスキルは優秀みたいだね。結果改善できるんだっけ。それを試してみたところ、素材の保存も出来るようになったのさ!」
次元収納を持つ私からしたら必要がないが、目から鱗状態である。ステラが生きている間私が居なくなっても、村で食料に困る事はなさそうだ。
私はスキルが多いため、一つのスキルを極める事をしていない。ステラのように一つのスキルに特化すればより有能な使い方を出来るかもしれないな。
改めて、スキルの見直しと鍛錬を行う必要がありそうだな。
と、今はそれどころではない。
「準備は順調そうだね。他の幹部たちは?」
「あっちも問題なさそうさ。昨日の夜のうちに準備は終わったそうさ」
幹部たちも張り切っているようだ。
後は、みんなが起きるのを待つばかりだ。
「おはよ……ございます
」
「おはよ。あの子にはばれずに抜け出せた?」
こくり。
「だけど、いい匂いに釣られて起きるかもしれません。現に村の人たちも起き始めているようです」
まぁ、食はみんなの楽しみだから仕方ないか。
「わかった。予定よりも早く行動に移す。ココアとフラットに住民を集めさせ、ラテとアールに食事の手伝い。モカは頃合いを見計らいあの子を誘導するようにしてもらえる?」
「わかりました」
モカは足早に部屋からでていく。
「いよいよだねぇ」
「うん。こんなにワクワクするのは久しぶりかな」
二人で悪い笑顔で見つめあう。
暫くするとラテとアールががやってきて、食事を運び始め。料理が並び終わる頃、ココアからいつでも始められると報告を受けた。
私は頷き、住民の集まる場所へと向かった。
住民たちの表情はみな困惑していた。
朝起きたら、宴会と変わらないご馳走が並べられ、壇上にたつ私が巫女装束の正装をしていたからだ。
「みんな、おはよう。朝早くから騒ぎ立ててすまない。でも、どうしても早めにみんなに伝えておきたい事があったのでこのような形をとらせてもらいました」
私が話し始めると住民たちの会話が止み、静寂が訪れる。
「改めて、紹介します。モカ、連れてきなさい」
モカに手を引かれ、虎の子供が壇上にあがらされた。
「えっと……この状況は……」
困り果てた表情で今にも泣きだしそうにしている子供に笑いそうになるのを堪え、演説を再開する。
「昨日幹部と話し合いがあり、みんなには報告していなかった事実を一つ紹介しようと思います」
子供は目を大きく開き、狼狽えていた。
もしかしたら、奴隷にされていた事を話すと思ったのかもしれない。
大丈夫。そんなことはしない、もっとおもしろー…名誉になることだ。
「この子は、まだ記憶に新しいエリアボスが村の近くに出没したときに、私らと共に果敢に立ち向かった。小さいながらその雄姿を私は称えたいと思う」
なんで今更と疑問の声はあがらない。
代わりに住民から「おぉ!」と感心の声があがるほどだ。
実際にはそんな事実はないので、子供はポカンと口をあけ、放心してしまっている。
「さらに、みんなもこの子の鍛錬を行う姿は目にしていると思うけど、弛まぬ努力と、決して挫けぬ心は警備達の者たちに刺激をあたえ、村の警備に大きく貢献たものだと考えます」
警備隊も頷いているので納得しているようだ。
「この功績を認め、住民ではないこの子にも特例で名を授けようと思います!」
特例を強調することを忘れない。
子供の方を向くと、すごく複雑そうな顔をしていたが、私が不器用ながらウインクをすると、照れながらも片膝をつき、首を下げた。
実はいつか訪れるかもしれないこの時に備え、名前はずっと決めていた。
白き髪を持つ虎、金色の目。
その姿だけで一つの宝石の名が浮かんだ。
「アナタに【コハク】の名を授ける! 名に誇りを持ち生きることを期待します」
虎白ではなく琥珀だ。
また安易な名前と思うけど、これにはしっかりとした意味を込めてある。
琥珀は太陽の石とも呼ばれ、過去の恐怖心や罪意識を楽にしてくれ、不安や絶望感を追い払い、生きる喜びを与えると言われたりもする。
また、琥珀は樹脂が地中で固化してできるもので、樹関係と考えればフォレストウルフとの関係も連想できる。
「はい! この名に恥じないよう立派に生きてみせます!」
嬉しさからか、目に涙を浮かべ力強く声を張り上げ頷いた。
ドッキリは成功した!と思った矢先だった。
〈名づけに成功しました。虎族は個体名コハクに命名。
希少種アルビノ種である為ボーナスが加算されます。更に、強い意味合いの名前を得た事によりボーナスが加算され、虎族は獣王族ホワイトタイガーに進化しました。
それにより【獣王の種】及び【獣王への祝福】を獲得しました〉
世界の言葉が響くと私の尻尾が1本に減っていた。
一気に4本分の魔力を持っていかれてしまったようだ。
〈次元収納が解ける恐れがあったので、制御しました〉
そう言っているが、制御がなかったら5本で済んだのだろうか。もしかしたら、全ての魔力を搾り取られてしまったかもしれなかったのか。
(もしかして、知ってた?)
〈何の事でしょうか?〉
とぼけても無駄だ。夕べ珍しく嬉々として早く休むように進言してたのは覚えている。
魔力を満タンにするのが目的だったのだろう。まぁ、ノアが制御しなかったら魔力枯渇でどうなっていたことかわからないから許そう。
結局、一番のドッキリは私が受ける羽目になってしまった。
世界の言葉は私とコハクにしか聞こえていないようで名付けてから時が止まったように固まってしまっていた。
何事かと住民たちがざわつき始めていた。
「オホン。これにて集会は終わりとします。今日は朝から集まってくれた感謝を込め、ほんの少し朝食を豪勢にしたからみんなで楽しんでほしい……では、解散!」
誤魔化すように早口で演説を締めた。住民たちは食事に釣られ先ほどの沈黙を気にせず解散していった。
「ミナモさん……」
「うん、わかってる。後で確認しよう」
言いたいことはわかる。
世界の言葉の意味だろう。
「とりあえず、ご飯食べて休みなさい。既に眠くなってきてるでしょ?」
「はい…沢山寝たはずなのに、ものすごく眠いです」
壇上から降りる足もふらついている。既に進化が始まり体が追い付いていないのだろう。
詰め込むようにご飯を食べさせ、コハクは倒れるように眠りについた。
「私も休んだ方がよさそうだなぁ」
魔力を持っていかれ、体が重い。モカに後の事を頼み、私も横になった。
モカを始め、ココア達も頼もしくなった今、私が居なくなっても大丈夫だろう。
勝手に落ちてくる瞼に逆らえず、静かに眠りに落ちていった。




