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Lycoris radiata  作者: 緋泉ちるは
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虎の子の生活

 虎の子供が村に住むようになって、早くも二か月が経過した。


 最初は、村の住人も虎の子供も戸惑っているようでぎくしゃくしているのが誰の目からでもわかった。


 最初の一週間は私の傍から離れずにずっとついてきた。


 それではいけないとみんなのお母さん的存在であるステラに協力してもらい、徐々に馴染ませる作戦を練った。


 まぁ、ステラに任せればどうにかなると思ったのだが、その成果は思った以上だった。


 ステラの性格は大らかというか大雑把だ。


 料理するときこそ繊細な作業をする癖に普段はその繊細さは成りを潜める。


 村に居る間は仕事をしてもらうと言った以上、虎の子供にはステラのお手伝いをさせた。


 「ほら、ちゃっちゃとあんた達は薪を組みな!」


 他の子同様に虎の子をこき使う。虎の子は休む間もなく働かされていた。


 しかし、それが良かったのか差別なく仕事を振ったおかげでステラを手伝う子供と少しずつ打ち解けていくことが出来たようだ。


 苦楽を共にすることで仲間意識が芽生えたのかもしれない。


 2週間を経過した辺りで、私以外にも笑顔を見せるようになったのは良い兆しだ。


 夜は私の家で眠りについている。


 時々、過去の事がフラッシュバックするようで突然泣き出したりすることがあった。なので私の目の届くところに置いておかないと心配だったからだ。一応、私に一番なついてくれてるようだしね。


 ちなみに一緒に住むモカが、時折子供に混じってベッドに潜り込んでくるが、多分嫉妬してるだけだろう。


 そのお陰もあって、モカと子供の関係も良好そうでよかった。


 ロッククラブを倒した後の村の変化としては、魔物対策が進んだことだろう。


 ノアの助言どおりロッククラブの血を希釈して村の周りに撒いたところ、ゴブリンは勿論のこと定期的に襲ってきたオーガの襲撃すら治まった。


 ロッククラブの血は大量に残っているので、これもノアの助言で魔術をかけて保存することになった。あと数年は魔物対策に困らなそうで何よりだ。


 同時に鉄の文明を開拓することも進めた。


 ロッククラブの背負っていた岩は鉄を大量に含んでいるため、加工すれば鉄を使った武器や道具を開発する事が出来る。


 今はまだ私しか扱う事ができない為、開発は進んではいないが、今後の為に工房を作り、少しずつ希望する者に教えている最中である。


 真面目に取り組んでくれているのでそう遠く未来に鉄の文明は復旧する事だろう。


 そんなこんなで一か月を経過する頃、子供にも大きな変化があった。


 「遅いです。私程度の動きについてこれないのなら狩りに連れていくことはできません」


 体躯が3メートルを超える狼と子供が対峙している。子供の手には木刀が握られ、肩で大きく息をしている。


 この大きな狼の正体はモカだ。


 ロッククラブとの戦闘の後に得たスキル【獣化強化】を使用した状態だ。


 獣化強化は魔力を使わないため、いつでもこの姿になり戦闘を行うことが出来る。


 体が大きくなったから動きが鈍くなる事もなく、逆に四肢に力が宿り、動きが素早くなり、単純に力も増した。


 今の状態なら、森の上位種であるオーガとも3体くらいなら難なく戦えそうだ。


 それと同時に私が使う思考操作も手に入れたようで、高速思考には届かないものの、その素早い動きでも的確に体を動かしている。


 一方、虎の子もしっかりと力をつけている。


 先に言っておくが、力=パワーではない。


 子供は剣術を学んでいる。虎の獣人はパワーこそ全てであり、技術の向上は視野に入れていなかった。


 力で劣る子供が対抗するには他の力を伸ばす必要があった。


 以外にも、剣術の才能はあるらしく体力はないもののモカの攻撃を剣術で捌いている。


 子供は誰かの役に立つ喜びを知ったのか、もっと役にたちたいと望んだのが始まりだった。


 そこで、みんなを守るために私が剣術をやってみるかと聞いた所、子供は大きく頷いた。


 始めは、守ることを徹底的に覚えさせた。


 剣は他者を傷つけると同時に扱いを間違えれば自身をも傷つけ、自身が傷つけば攻撃すら出来ない。


 子供に合わせたスピードであらゆる角度から木刀を振るい、時にはフェイントを織り交ぜ、隙が大きい部分を狙う。


 上段から迫る剣を受けるにも色々なパターンがある。


 剣先を上に向け顔の前で受ける事や剣先を顔よりも下げて攻撃を流す事も試させた。


 その中で、次に繋がる行動をイメージさせることを徹底させる。攻撃は一度だけとは限らないからだ。


 弾く、流す、受け止める。その判断が正しくできるまで永遠と体力が続く限りうち続けた。


 集中力が切れ始めたら、容赦なく木刀を叩きこむ。子供の顔が苦痛に歪むが子供は直ぐに立ち上がり、剣を構える。


 それを数日繰り返し、次は剣術の型を教えた。


 ノアの知っている流派を参考に、戦闘に使える型のみを厳選してひたすら素振りさせる。文字通り血のにじむほど子供は素振りを続け、木刀に血が染み込むまで頑張っていた。


 結局、型を獲得できたかというと、首を傾げる事になるが一朝一夕で身に付くものではないので今後の努力次第かな。


 ある程度、木刀を振るえるようになった頃、私に打ち込みをさせることも混ぜるようになった。


 何処をどう狙えば相手の防御を崩せるのかを、頭ではなく体で覚えさせるため全力で木刀を振るわせる。


 最初は傷つけることを恐れたのか、遠慮がちに振ってきた。なので、容赦なく反撃したあげた。


 それ以降は、全力で振ってくれている。


 時折、隙だらけになるので木刀を叩き込むので防御の練習にもなっているようだ。


 まだまだ、私の足元にも及ばないがそれなりに模擬戦のようになってきたのではないか?


 模擬戦もそれなりに形になったので、魔獣との戦いを勉強させるためにモカと模擬戦を行うようになり現在に至る。


 この間約一か月とハイペースで進んでいるように見えるが、そのペースで事を進めても問題ないと判断するくらい努力をしているし才能がある。


 ノアが段階を組んでいるのだから間違いはないだろう。


 モカは私程度と言ったが、モカの攻撃を受ける時点でそこらの魔獣であれば遅れをとらないだろう。体力面を除けばだが。


 「はぁはぁはぁ……」



 激しく動き回るモカの動きに翻弄され、子供の動きが鈍くなり、モカの爪を流した瞬間、子供の体がぐらりと体制を崩した。


 そこを見逃さず、モカが飛び掛かり子供はモカに取り押さえられた。かつて、私がモカを組み付したように。


 「まだまだです。剣術は良いですが体力が足りません」


 モカも私と同じ事に気づいたらしい。


 子供は誇りまみれになりながら立ち上がる。自分の弱点は自身が一番わかっているらしく、悔しそうに顔を歪めた。


 「今日はここまで。二人とも後は体を休めることに勤めなさい」


 子供だけ特別という訳にはいかない。昼間は仕事をさせ、午後の空いた時間を使い鍛錬をしている為、日が沈み始めた頃には切り上げるようにしていた。


 「ありがとうございました!」


 一番成長したといえば、ハキハキと自分の意見を言えることが出来るようになってきたこともそうだ。


 出会った最初の頃を考えれば大きな進歩だろう。このまま成長すれば共に戦える仲間になれるだろう。


 そして、保護してから2か月たった頃には痩せこけた顔も、ひょろひょろだった体も改善され虎の獣人らしい力強さが見え始めた気がする。


 ただ、これ以上成長して筋肉だるまにならないで欲しいと願うばかりだ。


 可愛い男の子はそのまま成長して欲しいと思うのは仕方ないよね?


 ただ、自分の意見を言えるようになった事は良い事だが、少し困る事もあった。


 私らと鍛錬を始めてから、子供にある事をお願いされるようになった。


 「ミナモさん、そろそろ僕にも名付けして貰えませんか?」


 私は未だにこの子に名づけは行っていない。


 「んー……。村の子なら名付けるけどね。今後、村で生きていくのならいいんだけど」


 名付けは特別だ。


 名付けをすれば私と魂の繋がりが結ばれる。しかし、それはその者の人生を私で縛る事にも繋がるかもしれない。


 他にも、外部の者を名付けしたという事実は前例を作り、力を持つ野心を持った者が訪れ名付けを要求するようになることも危惧している。


 「最近、名付けに拘っているけど、何か理由あるの?」


 名前があるのは便利ではあるが、不便ではない。前も言ったかもしれないが大森林に住む獣人達に名付けの習慣はない。


 なので、名前がなくとも上手く意思疎通ができてしまうのだ。


 実際、住人たちはこの子の事を、虎君や虎ちゃんと呼んでいるので誰の話をしているのかも直ぐにわかる。


 それを伝えると、


 「いつか、ここを離れるかもしれません。だけど、ここで生活をした事だけは忘れたくないです。ここでミナモさんやモカさん、村の皆と過ごした証が欲しいのです。何よりも皆を守れる力が欲しいのです!」


 力強い瞳でそう言われた。


 あぁ……しっかりと成長してるんだ。


 だからこそ慎重になった。名付けは同時に強化にも繋がる。


 段階を踏んで強くなるのが本来の姿、急に得た力は過信と慢心を生む。


 「ちょっと、考えさせて」


 その夜、幹部を集めて話し合いをするくらい私は悩んだ。


 集めたのは、モカとココア達3人とアールとステラだ。


 ステラは以前は幹部ではなかったが、住人達の信頼も厚いし、ロッククラブの討伐に貢献したので幹部にあげた。無理やり。


 ステラは村を作った当初から幹部にあげるつもりだったのに柄じゃないと断り続けられた。なので、皆に示しがつかないと今回の件で丸め込んだ。


 「単刀直入に言う。子供の名付けに反対する者はいるかな?」


 幹部たちは出方を窺うように顔を見合わせた。


 その中で、ステラだけ迷いもなくすっと手をあげた。


 「理由は?」


 「はっきり言って、前例を作る事になるから反対さね。今度、他の部族や庇護を求めて来た者がいた時に前例がある以上、その者にも名付けをしなければなくなる」


 「うん、私もそう思って渋った」


 「だけど、本音を言うと名付けは賛成よ。虎ちゃんは真面目だし、他の子らとも打ち解け始めている。村に居る間くらい仲間として扱ってあげたい気持ちが強いさ」


 あの子だけを特別扱いはしない。


 逆に平等を掲げるのであれば、名付けをするのが平等なのかもしれない。


 「なら、前例ではなく特例という形にすればいいかと」


 モカは珍しく手をあげて自分の意見を言った。幹部たちで意見を交換するときモカが発言することはあまりない。


 私の意見ならばそれを通すのが当たり前と言うスタンスを決め込んでいる。ある意味、考える事をやめているようではあるが、どんな意見でも真っ先に行動に移すので誰も文句を言わない。


 それなのに、今回は意見を述べたので詳しく聞いてみたくなった。


 「特例とは?」


 「はい、村に大きく貢献したことにし、それを功績として与えるのはありかと」


 功績か。けど、あの子が村に貢献した事実は今のところない。少し難しいような気がする。


 「では、ロッククラブの討伐の時に助力したことにしたら如何でしょうか? モカ様との鍛錬は私達も住人達も見ております。成長した今ならばロッククラブの討伐に貢献したと言われても疑うものはいないでしょう」


 ココアがそう言うと、フラットも続くように手をあげ発言する。


 「私もそれに賛成です。幸いにも戦闘の内容は住民には伝わっておりません。後から付け足しても問題はないはずです。英雄談は人気がありますし、子供達に私がさり気なく広げれば、噂が次第に事実として広まるでしょう」


 嘘も方便……か。嘘は悪い事だが村に居る間に本当に貢献して認められれば嘘から出たまことになるだろう。


 「それなら私もいいと思いますー。私の部下たちとも模擬戦やらして実力差を見せつければ強さも証明できますし、子供に負けたとなれば部下たちも頑張るかもです」


 「あぁ、そうだな。あたしの部下も虎君の強さは見ているし納得すると思う」


 ラテとアールも肯定してくれている。


 傍から見てもそこまで成長しているとわかるのか。


 まぁ、私とモカから鍛錬されればそれなりに強くなるか。教えを乞いに来るものが少しずつ増えたのもそのせいかもしれない。


 警備隊に鍛錬の意識を持たせたのならそれは立派な功績ともいえるだろう。


 「みんなの意見はわかった。では、ロッククラブの討伐に実は貢献しており、真面目に鍛錬を行う姿が警備隊のいい見本となり、村の治安に貢献した。その功績を称え、特例により名を授けたという事でどうだろうか?」


 「「「いいと思います!」」」


 話は決まった。後はタイミングだが……。


 「それなら、明日の朝一番に集会を開きましょう。私とステラが皆の前で功績を称えられましたので同じようにやるのが筋かと」


 確かに、実は功績があるのに、こっそり名付けましたとなれば、こそこそしているようで心象はよくないだろう。


 「そうだね、明日の朝に集会を開こうか」


 方針は決まった、そこで私は一つ悪戯心が芽生えてしまった。


 「もう一つ聞いておきたい事がある。この事をあの子に伝えるかどうかだけど……」


 笑いを我慢できずに口元が緩んでしまった。


 意図を理解したのか、幹部たちの口元もにやりと意地悪く笑った。


 会議を締め、幹部たちはこっそりと朝の集会の準備を進め、ステラは急遽決まった集会を盛り上がる為に食事の準備、私は明日の為にもう一度筋書を確認するために解散した。


 明日は楽しい一日になりそうだ。


 〈マスター、今日は仕事をそこそこに早めに休んでくださいね〉


 ノアも楽しみにしているのか、声が嬉々としている。


 機嫌よく帰宅すると子供に不思議そうな顔をされたので、それを悟られない様に早めに眠りについたのだった。


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