精霊の名2
「それで……その姿は?」
「はい!今なら説明しても信じてもらえそうなので私の事を改めて説明します」
ノアの話はこうだ。
エルフとは長命で女神を信仰する種族だった。エルフは大陸が一つになる前は人間のむ森に住んでいたのだが、ある時を境にエルフは人間ではないと迫害を受けるようになった。
迫害は徐々に激しさを増し、エルフは人間の大陸から追い出され、行き場を失ったエルフは各地に散ることになってしまった。
その際に、時が来たら終結する目印となる為、女神からの信託を受ける力の強い巫女が魂は神に捧げられ、肉体は封印された。
その巫女こそノアだった。
魂は無事に女神に届き、以後アリルテウスに仕えるようになったという。
長い時がたち、私という依代が現れたことにより封印を解くために、再びこの世界に戻ったという。
まさにファンタジーだ。
「それが、本来の姿……ってこと?」
さらば、私のイメージの【〇ビィ】
「この姿は、私の幼き頃の姿です。分身具現化は魔力を消費し続けるため、効率のいい姿をしております。あと、マスターはこの姿の方が喜ばれるかと思いまして」
「私に幼女趣味はないつもりなんだけど…」
「そ、そうなのですか!? モカさんも虎の子も見る目が違ったのでてっきり……。 では……」
煙がノアを包むと、成長したノアの姿があった。
「くっ……その姿は認めません…」
「やはり……幼女姿の方がいいのですね」
いや、そうじゃないんだよ?
大人の姿になったノアはエルフのイメージそのままだ。透き通る白い肌、翡翠色の目、何よりも巨大な……。
露出の多い服も目のやり場に困る。別に胸に嫉妬してるわけではないからね?
とりあえず、子供の姿に戻って貰った。
ノアは甘えるように体を寄せてくる。
モカもそうだが、この世界の子供は甘えたがる傾向にあるのかな。正直、今日は水浴びをしていないので汗もかいたし勘弁願いたい。
「いい匂いですよ?」
それが恥ずかし気もなく言ってくるのでたちが悪い。
「それにしても、無駄なスキルを獲得したわね……どうせならもっと役に立つスキルを目指してくれればよかったのに」
「そんなことありません!こうしてマスターと触れ合えるではありませんか!」
なんか、謙虚さが薄れたな……これも名付けの影響? 動物は飼い主に似るっていうし、私に謙虚さが足りないというのは否定させてもらうが。
「それに、使いかたを変えればこのようなことも出来ます」
ノアが人差し指をたてると、極小の光が指に集まり、流れ星のように四方に飛び散った。
「魔力感知」
監視カメラのように四方の光から映像が届いた。
「私の分身体なのでこのようなことも可能です。これならば、村の周囲まで見渡すことが可能となりますよ」
にっこり。
あー……。悔しいが視界の悪い森の情報がわかるのはかなり有能だ。
「有能なのはわかったけど、普段は私の中に居てもらえるかな?」
「そんなー……」
仕方ない。いきなり、エルフの子供が私の傍にいたなら村の皆が驚くだろう。私の一声でどうにでもなるだろうが、それでも問題は少ないに越したことはない。
ノアは分身体を消し、しぶしぶと私の中に戻っていった。早速お客さんが来たからだ。
「どうしたの?」
「何処にも泊めてもらえませんでした」
そんな訳がない。どうにかして、私と一緒に居る時間が欲しかったのだろう。
「わかった。おいで」
苦笑いしながらモカを近くに呼ぶ。今日は頑張ってくれたしこれくらいのご褒美はいいだろう。
「改めて、お疲れ様。頑張ったね」
「そんな事、ありません。全然役に立てませんでした」
「そんな事ないよ。モカが居なかったらあの子供も無事だったかわからないし、ステラは大けが……下手すれば死んでいたかもしれない」
モカのカウンター魔術のお陰で、ロッククラブの左手を潰すこともできた。モカ本人は納得いっていなさそうだが、十分な役割を果たしたはずだ。
モカは当たり前のように私の太ももを枕に寝転がる。形は違うが膝枕みたいなものだ。
そっと頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細める。
それを見たノアが頭の中をぶんぶんと飛び回る。そのうち、やってあげるからと言うと静かになった。
「ちなみに、今日の戦いで得たものはある?」
ステラが料理人EXを手に入れたように、共に戦ったモカも何かを手に入れたかもしれない。
「はい、自分の無力さを悔やんでいたらスキルを獲得できました」
「そう、それは良かった」
「今は此処で使う訳にはいきませんので、後ほどお披露目します」
「うん、楽しみにしてる」
どんなスキルを得たのか楽しみだ。自分の成長も嬉しいが仲間の成長を見れるのも嬉しい。
「ミナモさま、あの後はどうでした?」
「実は、ちょっと……いや、かなり危なかったかな」
実際にあの武器がなければ死んでいた。あの時は戦闘中でアドレナリンが出ていたのだろう、冷静になって思い返すと震えが止まらなくなりそうだ。
「けど、生きて帰ってきました。ミナモさまは強いです」
「少しだけ……ね。だけど、皆を守りたい気持ちがあったからだと思うよ。一人だったら戦えなかったと思う」
守りたい人が居なかったら、逃げるという選択肢も生まれたかもしれない。そこに立ち向かえたのは村の皆が居たからだ。
「では、ミナモさまを守るのは誰ですか?」
「私はみんなよりも強いから、自分で頑張るよ」
「それは、ダメです。誰も守らないなら私が守ります。なので……ずっと傍に置いてください」
離れたくないとモカは私の腰にしがみつく。モカも戦闘の事を思い出して、冷静になった今、恐怖が込み上げてきたのだろう。
自分がではなく、誰かを失う恐怖だろう。モカは優しい。
「わかった、期待してる。だけど、命を投げ出すのは禁止ね。私が死んだらモカが悲しむように、モカが死んだら私が悲しい。お互いずっと後悔するかもしれない」
釘を刺さしておかないとモカは無茶をし兼ねない。その証拠に、私の命令を守って、ステラを助けるために命懸けでロッククラブの攻撃を受け止めた。
モカは私のお腹に顔を擦りつけるように頷いた。
その後は他愛のない話をした。
今後、村をどう発展させるか今日住民から受けた相談と解決策など幹部としての話や、一緒に育ったからこそわかるお互いの失敗談など、思い出話にも華を咲かせた。
まぁ、最初の10年は私のではなく、ノアの失敗談だが。話を聞くと、年に数回は恥ずかしい失敗をしていたらしい。
木から落ちたりとか、穴に落ちたりだとか……気付いたら迷子になっていたりとか…。
〈それはマスターの体が幼く、完全に体を操るのが難しかったからです!!!〉
ノアとしても不本意だったらしいが、大人から子供の体に突然戻ったら感覚が狂うのは仕方ないだろう。魔力感知も当時は仕えなかったらしい。この広い森で迷子になるのも仕方ないかもしれない。
私が目覚めてからはそんな失敗をしていないので問題はないが、重要な時にとんでもないミスをしでかしそうで少し怖い気もする。
〈そ、そんな失敗私がするとでも!?〉
あー……聞こえない。
ついでに、モカにはお酒を飲んだ時の事も注意をしておいた。
本人に自覚はないらしく、一応頷いてはいたが不安である。
そんな感じで話をしていると、夜も更けていった。
流石に、疲れもあってかモカは眠りについていた。次元収納からフォレストウルフの毛皮で作った毛布を取り出し、モカにかけてあげる。
「長い一日だった……私も流石に眠いや」
一日を振り返るだけで、どっと疲れが押し寄せた。瞼が自然と下がってくる。
(ノア……後はお願いしていい?)
〈はい! お任せください!〉
(ん、ありがと……)
心地よい疲れに身を委ね、モカと並ぶように横になる。最近はベッドで眠っていたため固い所で眠ることはなかったが、それでも苦ではなかった。
長い一日が幕を閉じ、また平穏な日々を迎えるために私の意識は眠りに落ちていった。




