表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lycoris radiata  作者: 緋泉ちるは
15/34

虎の子の過去

 〈マスターーーどうかお返事をーーー〉


 あれから、精霊さんはずっと叫んでいるが、私は聞こえない振りを決め込んだ。それだけ、食べ物の恨みは深く恐ろしいのだ。


 「お腹も膨れたようだし、改めて自己紹介するね。私はミナモ、一応この村の村長をやっている者よ」


 村長なのかリーダーなのか曖昧だが、村長の方が文明人のイメージが沸く。リーダーというとどうしても乱暴な集まりの頭のような気がしてしまう。なので、村長と名乗る事にした。


 「ミナモ様……ですね。覚えました」


 「ありがとう。だけど、様はいらないかな、アナタは村の人間ではないからね」


 いつの間にか私の敬称は様になっていた。何度もいらないと言ったのだが、それは住民一致で譲れないという。


 「えっと……ミナモさん?ならよろしいですか……?」


 「構わないよ。それで、アナタの名前は?」


 子供は少し困った顔をした。


 「僕に……名前はありません。しかし、子猫ちゃん……とか呼ばれて、いました」


 歯切れが悪い。


その呼び名は本人にとって不本意な呼ばれ方なのがわかる。


 虎の子供に使う呼び方として、明らかに侮蔑が籠っている。


 「わかった。けど、これからの事を考えなければいけないからね。言える範囲で構わないから少しずつ話して貰っていい?」


 「わかりました……けど、何から話したらいいか……」


 こちらとしては、自発的に話して貰えるのが助かる。意図せずに触れられたくない話になってしまうかもしれない。


 しかし、困った顔で見つめられると、こちらが手を伸ばす以外に方法はなさそうだ。


 〈では、まずはご両親の事を伺ってみてはいかがでしょうか?子猫と呼ばれる理由がわかるかもしれまん〉


 (それがいいか…………あっ)


 〈主人様!〉


 思わず返事をしてしまった。


 まぁ、別に怒っていたわけではないしね。こうなった精霊さんの知恵を存分に使わせて貰おう。


 「そうねぇ……アナタのお父さんとお母さんは?」


 「父と母……ですか。よくわかりません……」


 やっぱ精霊さんは無視の方向でいこう。


 〈そんなぁー……〉


 冗談だ。


 「そう。それじゃ、親が居なくなったのはいつ頃かわかる?」


 こうなったら、踏み込むところまで踏み込んでやろう。


 聞いたうえでこの子の痛みと過去を少しだけ抱えてやればいい。


 「初めからです。赤ん坊の頃に乳母に連れられ共に村に住むことになったと聞きました。乳母も親とは面識が薄いようで親の事を聞いても困った顔をしてましたので……親の情報は……」


 思った以上に複雑そうだ。


 父親と母親の存在がわからず、乳母はいる?


 しかも、乳母と両親の関係もわからない。


 〈大きく分けて三つの可能性が浮上しました。


 一つは両親が育てられないため乳母を雇った可能性。


 二つ目は両親が亡くなり、乳母が育てることになった可能性。


 最後に子供の存在を隠したかった為、乳母に預けた……この三つの可能性が高いと思われます。


 更に特殊なケースであれば、主人様のように捨てられて乳母に育てられた可能性も低いながらありえると思います〉


 私は生まれてすぐに死んで自然に捧げられただけなんだけど。まぁ、その辺はいいや。


 どの可能性も否定できなかった。強いて言うならば二つ目の可能性が低いと思えるくらい?


 生きるだけで大変な世界なのにわざわざ引き取ってまで育てるとは思えない。もし孤児院があればそっちに引き渡すだろう。


 この乳母が、子供の両親によほどの忠誠心があるか相当なお人好しであれば話は別だが。


 わからない。


 それなら、わからないことは気にしても仕方がない。今は真相を究明するよりもこの子供を知るほうのが大事だ。調べたければ後でゆっくり調べればいい。


 「今はその乳母はどうしているの?」


 「僕が5歳の頃……いえ、正確な年はわかりませんけど、その頃に亡くなりました」


 どんどん傷を抉っている気がする。


 「そう……。呼ばれ方で大体察しはつくけど、村での生活はどうだった?」


 「乳母が生きている間は、普通でした。ですが、その後から……」


 差別を受け始めたと。


 「乳母が亡くなった原因は?」


 「それも……わかりません。村の大人から突然言われたので……」


 暗いというか重い!


 痛みと過去を抱えてあげる?簡単にそう思った自分を殴ってやりたい気分だ。


 折角、食事をとって少しだけ表情が明るくなったのに今は顔を伏せてしまったいる。


 誰にでも触れられたくない過去はある。簡単に癒えない傷にようやくカサブタが出来たのに、私がそれを剥しているようなものだ。


 だからこそ、責任でも義務でもなく手助けしてあげなければいけない、傷が癒えなくとも絆創膏くらいにはなってあげる事が出来るかもしれない。


 ただの偽善だって?何とでも言えばいい。日本じゃない、ここは異世界なんだ。


 人の評価だとか、人の目だとかそんなくだらない事どうでもいい。生き方は自分で選ぶ。


 その為にはもう一度傷を広げ、膿を取り除かなければならない。


 誰もやれないのなら、私がやるまでだ。


 「その後の話も聞かせて」


 「…………村は、僕と同じ虎の獣人が集まる集落でした」


 虎は強さが正義。


 力が強いものが権力を持ち、力が弱い物は蔑まれる。知恵は無粋、純粋な強さこそ虎の獣人が生きる全て。


 この子供は乳母の陰で暮らしていた。乳母は獣人としても武人としても力を持っていたらしく、すぐに村の中でも権力を手に入れたようだ。


 乳母が居る間、この子は乳母に守られていた。


 だが、ある日乳母は謎の死を遂げてしまう。


 外部から来た新参でしかもすぐに権力を持った乳母の事を面白くないと思っていた先住民は少なくなかったようだ。


 亡くなった乳母に不満を持っていた者たちの矛先は乳母が守っていた子供に向けられることになった。


 虎の子としては珍しい白が際立つ珍しい頭髪、金色の目、小さい体の弱者。何よりも成長が他の子よりも遅かったの悪かったようだ。


 その結果、力を誇示したがる者たちの格好の標的になってしまった。


 しかし、子供を表立って攻撃する訳にはいかなかった。


 それならならばと、大人たちは年の近い自身の子供に攻撃させればと考えたようだ。


 子供の自信にも繋がり、自分のうっ憤も晴らせる。こうして、この子の虐げられる生活が始まった。


 「それでも……他に居場所はなかったので我慢しました」


 魔物が蔓延る森、幼い子供ではとても一人では生きていけない。


 そんな生活は現在に至るまで続いたという。


 「それは突然やってきました」


 一月前くらい前のこと、突然村に人間が集団でやってきたらしい。


 人間の訪問をよく思わなかった住人たちは敵意を剥き出しにしていたが、獣人達に向かって人間はこう言ったらしい。


 『私たちは奴隷を欲している。この場を荒らされたくなければ奴隷となる子供を差し出せ』と。


 大人たちは舐められていると思ったらしく、人間に襲い掛かった。


 3竦みの加護があろうと、虎の獣人だ。人間を簡単に蹴散らし始めたという。


 しかし、攻勢に出れたのはそこまでだった。


 人間たちに慌てる気配はなかったという。


 『抵抗するのであれば、それなりの報いを受けてもらうことになるぞ』


 馬車の中から深いフードを被った人間が現れると、聞いたことのない言葉で何かを呟き始め、その瞬間、虎の獣人の部落で多くの悲鳴があがった。


 部落の中央には、ロッククラブの姿があった。


 『今からコイツを暴れさせるが、抵抗したのはお前らだし構わないという意思表示とみていいよな』

 フードを被った人間が手を横に振ると、ロッククラブは近くに居た男を鋏で真っ二つにし、藁小屋を簡単に薙ぎ払った。


 『警告はここまでだ。再度問おう、子供の獣人を渡す意志はあるか?』


 大人たちは迷った。


 強さを求める獣人として、勝ち目が薄い戦いに挑むべきか、それとも人間の言う通りに奴隷を差し出すか。


 話し合いの結果、人間の要求を呑むことになった。


 『ほぉ……これは珍しい。だが、ここまで来てこれだけじゃ割に合わない』


 白い毛のこの子をみて、人間は歪な笑みを浮かべた。


 結局、この子を含め村に居た8人……全ての子供が要求された。


 大人たちは後で助けると、子供たちに出来もしない口約束をし、子供たちを差し出した。


 嫌がる子供達に人間は首輪をはめていき、馬車に収容していく。


 『協力感謝しよう。これは気持ちとして受け取って貰いたい』


 人間は虎の住人に首輪と契約書を渡した。


 『強い君たちなら他の部族を従えることもできよう』


 そう言って、人間たちは部落を後にした。


 馬車の中で子供のすすり泣く声が聞こえる。


 馬車は3台編成で子供は分けて乗せられていた。


 先頭の馬車に3人、真ん中に3人、後ろに2人、この子は最後尾に収容されたらしい。


 森の中は馬車が通るには悪路で馬車は激しく揺れる。途中、馬車に酔って気分が悪くなった子供たちが吐いたり、魔物に襲われて人間たちが戦ったりと時間をかけて森の中を移動していった。


 人間10人、獣人の奴隷8人。奇妙な旅が一か月たとうしたときにそれは起きた。


 『まずい…………魔力が、制御、できな…』


 ロッククラブを操っていた人間が苦しんでいた。前日、ゴブリンに襲われたとき、運悪く傷を負ってしまった。かすり傷なので放っておいたのが仇となった。


 ゴブリンの武器には毒が塗ってあったのかもしれない。放置した結果それが全身に回り、知らぬうちに体力を奪っていたようだ。


 『おい!しっかりしろ、お前が死んだら…奴隷を前の馬車に移せ!』


 最後尾に居たこの子ともう一人は蹴られる様に馬車から追い出され、その瞬間。


 馬車が吹き飛び、ロッククラブの巨体が目の前に現れた。


 『馬鹿野郎!はやく制御しろ!!』


 『やって、います……。ですが、抵抗力が強く……ぐっ!』


 ローブの男が苦悶の声をあげる。全身を毒に侵され、魔力が回復しないうちに魔術を使った結果だ。

 魔力の使い過ぎは命に関わる。


 ゲームで言えば、HPorMP=LPだろう。


 『ガキは前の馬車に移動しろ!」


 首輪が締まる。命令を守らないと反応するようだ。


 移動しようとした時、最後尾の馬車がバラバラに吹き飛んだ。


 ロッククラブの制御が解け、暴れ始めたようだ。


 その瞬間、首輪の締まりも消えた。


 もう一人の子供は馬車に逃げ込むのが見えた、自分も逃げなきゃ……と思ったが、村の生活も奴隷の生活もどちらも未来はない。


 それなら最後くらいと馬車へと向かわず森の中へと向かった。


 『おいガキこっちにこい!ちっ……リーダーじゃなきゃ首輪は効かねぇ』


 『一人くらいい!先に行くぞ!』


 2台の馬車は最後尾に居た人間とこの子を置いて走り出した。


 その後は私が駆け付けた状況に繋がるという訳だ。


 「なるほどね」


 奴隷になった経緯までは理解した。


 しかし、不可解な点が多すぎる。


 まず、子供の獣人だけを奴隷として狙っていた事。


 食料の関係? いや、それなら大人を使えば狩りをさせることも出来るし、力のある獣人ならすぐに売れるのではないか?


 それに、敢えて大人を奴隷とせずに首輪を渡したとも思える。


 次に、悪路とはいえ、森の中に馬車が通れる道があること。自然の森に木も草も生えていない道はない。道があるとしたら、そこは意図的に刈り取られたとしか考えられない。


 もう一つ、ロッククラブを人間が操っていた事。


 魔物を操るにはかなりの魔力が必要になる。


 私とモカ達のように名を与え、魂の繋がりを強固とすれば最初の魔力だけで済むが、その繋がりを持たない……さらにはエリアボスまでを操るのには膨大な魔力が必要なはずだ。


 または、それを軽減するマジックアイテム……?


 〈人間ではロッククラブを操るほどの魔力は持たないので、その可能性が高いと思われます。または、人間と共に魔族が動いている可能性も否定できません〉


 何せよ普通の奴隷商の仕業とは思えない。警戒……してどうにかなるものではないが、対策は必要だろう。


 これ以上は聞けることはなさそうだったので、その後は世間話をした。


 嫌な過去の事を聞いてしまったので、私の事や村の事を話してあげた。


 ここは元魔物フォレストウルフの村で狐の獣人である私が村長をしていると言えば、尊敬の目で見られ、ロッククラブくを倒したと言えばドン引きされた。


 語れる事も多くないので、覚えている日本のむかし話をしてあげたりもしていたら子供は頭をうつらうつらとさせ始めたので眠らせる事にした。


 「僕は……外でも構いません」


 「ここの住民はみんなそうしているからいいの。暫くはここに住むのなら村の方針に従いなさい」


 「はい……ありがとうございます」


 話しあいの結果、無期限で村に住むことになった。


 子供はすぐに出ていくと言ったが、私が全力で止めた。


 村で生活する代わりに、労働力を提供してもらう。ただではないと言うと、役に立てるのならと首を縦に振ってくれたのだ。


 「では、私はやる事があるからアナタは休みなさい。何かあったら、村の中央にある櫓に居るから声をかけて」


 「やぐら?ですねわかりました」


 「この村で一番高い場所だからすぐにわかるよ。それじゃ、おやすみ」


 「はい……おやすみなさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ