エリアボス3
陽炎を前に、私が後ろに続きロッククラブへと迫る。
「いけ」
相手の攻撃手段を奪うべく、陽炎を残っている右手……鋏へと飛び掛からせた。
それを嫌がったロッククラブが体を捻るように躱す。
最後の陽炎をそんな簡単に使い切るほど馬鹿ではない。
「身体変化、鎌爪」
緩やかにカーブを描く爪は短い日本刀のように変化し、避けた腕を切りつける。
「少しずれたか」
ステラがつけた傷を狙ったが、これ以上腕を失う訳にはいかないロッククラブの警戒心が高かった。
腕をずらし甲殻に弾かれる。
反撃から逃れるために、すぐさま陽炎の後ろへ避難し攻撃の隙を伺う。
陽炎を陽動に、隙を見て一撃をヒット&アウェイで繰り返す。
ロッククラブも抵抗をみせる。腕だけではなく鋭い足を陽炎を避け、繰り出してくる。
逃げ場を限定し、ステップを先読みするかのように槍足が突き刺さる。
大きくステップを踏むとそこに鋏が私を真っ二つにするべく襲い掛かる。
身を寝かすように体を逸らし、鋏が頭を掠め、髪を数本飛ばしながら通り過ぎる。
足を使いつつ、鋏を繰り出した攻撃を仕掛けたロッククラブはバランスを崩し、足を滑らせ巨体を地面に叩きつけた。
巨体を起こすために鋏が地面に刺さる。傷口が晒されている…好機。
身体変化させた爪に身体強化を一点集中させる。ショートソードよりも鋭い切れ味を持った刃がそこを狙う。
(落とせる!)
爪が触れる瞬間、体がふわりと宙に浮いた。
「がはっ!」
体中の空気が絞り出されるようだ。
油断していた。
完全に無効かしたと思っていた左腕が多関節に折れ、体に巻き付いている。
痛覚無効は効かない。痛みではなく空気を奪い取られた苦しみだからだ。
(しくじった……)
強化した爪でも無傷な箇所を切り落とすには至らない。不安定な体制で振るっても精々甲殻を傷つける程度。最後の陽炎をぶつけても勝利を確信したロッククラブは身じろぎするだけで拘束を緩める気配はない。
チェックメイト……か。
〈まだです! これをお使いください!〉
精霊の言葉が頭に響くと、右手に何かを握らされた。
異変を察知したのかロッククラブは止めを刺そうと鋏を伸ばそうとする。
「はっ!」
巻きつけられた腕に右手に握ったものを振るう。それだけで、体は解放された。
しかし、鋏がまだ私を狙っている。返す刀の如く、下から振り上げると今度は鋏を真っ二つにし、更に腕を飛ばした。
「すごい……」
熱したナイフでバターを切るように、鉄以上を誇る甲殻を簡単に切り裂く。
〈女神様からのギフトです!〉
こんなものをくれるとは、奮発している。
〈ただし、他の2名へもギフトは届きますのでご注意ください〉
それはその時に考えればいいだろう。今は生き残ることが先決だ。
手に握られた武器を目にすると不思議な形をしている、だがその形を私は知っていた。
(なんでこの武器が!!!)
〈主人様の理想を具現化した結果こうなりました〉
武器の名前は正式名称は不明だが、ダブルセイバーや双刃剣、日本では両切天秤刀とも呼ばれる武器。
中央に持ち手があり、両端に緩やかな曲線の刃が備わっている。
イメージとしては、S字を描くように矛を繋げたような独特な形だ。
ゲームで見た中で扱いは難しそうだが、一番かっこいいと思った武器である。
負ける気がしない。
お気に入りの武器、性能も確認済み。
「終わり、だね……」
武器を構え、ロッククラブをみるとそれだけでロッククラブは後ずさりをした。
絶対の自信を持った甲殻がいとも容易く切り落とされれば仕方ないだろう。
「抵抗しなければ、苦しまずに終わらせてあげる」
一歩一歩近づき、刃を向ける。
恐怖を感じているのか、ロッククラブの歯がガチガチと震えている。
「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!」
両腕を失ったにも関わらず、ロッククラブは向かってきた。鋭い足を細かく動かし串刺しにしようと巨体を逸らす。
「もう、見飽きたよ」
双刃剣を一閃するだけで、襲い来る脚はバラバラとなる。
脚も失ったロッククラブは巨体を地面倒した。
「ありがとう、お陰で強くなれたよ」
死闘を演じた相手に敬意を。
双刃剣を振り下ろし、ロッククラブの頭がゆっくりと胴と離れ地面へと落ちた。
エリアボスとの戦いはどっちに転んでもおかしくはなかった。
いや、女神アリルテウスのギフトがなければ負けていただろう。
女神アリルテウスに感謝をしながら休むようにそっと腰を下ろした。




