case.3 適当妖精
「レヴィーナか……」
俺は、目の前に突然降り立ってきた女性を見て、そう零した。
魔帝八皇のメンバーの一人、【嫉妬】を司る大悪魔レヴィアタンの子孫にして、弓使いである妖精族の女性……それがレヴィーナに関して分かる情報の全てだ。
今回、俺たちが《森ノ大国》に来た二つの目的の内、《勇者と巫女の調査》は終わった。そして残るもう一つであった、《レヴィーナ+αの捜索》が、今達成された。
「レヴィーナ……何故お前がここに居る?」
「いや、魔王……貴方馬鹿なの?」
ハッ、と小馬鹿にするような笑いと共に、そう煽ってくるレヴィーナ。
そんな彼女に、少し……少しだけムカついた。
「いい? 私この前言ったでしょ? 《森ノ大国》って。そりゃそう言ったんだから、ここに居るのは不思議じゃないでしょ?」
「は?」
「え?」
「いや、それだけ?」
「ええ、それだけだけど?」
……マジかよ、コイツ。
なんかすげぇ馬鹿にされたから、それ以外にも理由があるのかと思ったぞ?
「……ハァ。まあいいさ、それで? お前は何故ここに来た?」
「いや、たまたまよ?」
「え?」
「え?」
……コイツ、適当だよな。本当に。
白夜とは違くて、この女とは馬が合わないぞ。
「いや、なんか嫌な予感がしたから、適当にぶらぶらしてたのよ。そしたら覚えのある気配がしたから、辺りを探してみたら、貴方たちが居たってワケ。別に何か目的があって来たワケじゃないし、今してることもなくて暇だからいっかな〜って」
嫌な予感、目的がない、今してることもない。
じゃあ何で、俺らのところに来ないんだ?
と、いうかそれただのアクティブなニートじゃん。外出る系の、ただのニートじゃん。
「なんか面白いことないのー? あれ? ってかこの子たち、まさかっ!」
すると、レヴィーナは白夜と月夜を物珍しそうにジッと見つめていた。
「まさか?」
「まさか……ごめんなさい分からないです」
「……は?」
「ごめんなさい適当言いました」
コイツ一発ぶん殴ってやろうか?
マジで何なんだ、この女。
「あ、あの!」
と、突然声と手を上げたのは、白夜だった。
「どうした?」
「こんな状況でいうのもなんですが……俺を鍛えてくれませんか? 俺……妹を守れるくらい強くなりたいんです!」
グッと拳を握りしめて、真剣な表情でそう言ってくる白夜。
俺はそんな彼を見て、
「分かった、俺に任せろ」、なんて言おうと思ったんだが……
「あら、面白い少年ね。いいわ、みんなで鍛えてあげましょ?」
と、レヴィーナに先を越されてしまった。
「でも良いのかい? レヴィーナの嬢ちゃん。それってつまり……」
「ああ、そうだな。それはつまり、俺たちの領域に踏み込むことを意味する……さらにそれがイコール何を意味するか、お前なら分かるだろ?」
……もしかしたら分からないかもしれないが。
「あー、はいはい。もう分かったわよ。することもないし、一生暇なままよりマシね。いいわ、貴方たちの仲間になってあげる。そっちの方が面白そうだし」
良かった。これで断られたら、ガチでブチギレるところだったぞ。
だって、俺たちから情報を得られるだけ得て、仲間にならない、なんて都合が良すぎるもんな。
……少し過剰防衛すぎるかもしれないが、そのくらいじゃないと、一体いつ、誰に裏切られるか分からないしな。
臆病にならないと、守るもんも守れない。
俺が、ルインを100パーセント守るには、過剰なくらいが一番良いんだ。
「で、結局この子たちは誰なの?」
「ああ、それは―――」
■
「勇者と巫女……それに魔王、ねぇ。伝説の三人が今ここに集結ってワケね」
「そういうことだ」
事情を全てレヴィーナに説明した。
しかし、レヴィーナは話を聞きながら、難しい顔をしていた。
「魔王とは気が合わないと思っていたけど、そんなアナタと気が合うそこの二人とも、何だか気が合わない気がするわ」
なんか、気が合うだの気が合わないだのと、ブツブツ言っていた。
「それじゃあ、目的は全て達成された訳だし、一旦帰還するか」
その方が特訓もしやすいだろうしな。
俺の国には、訓練場なんかも作ってあるし、剣も魔法も弓も、果ては暗殺術まで教えられるやつが揃い踏みだからな。
「はぁ……それにしても私も魔王軍の仲間入りかぁ……。やめた方が良かったかしら……」
「今さら文句を言うなよ?」
「はいはい、分かってるわよ。それに、アンタに逆らうつもりはないわ。今の貴方、スゴい強そうだもの。以前とは大違いだわ」
……色々あったからな。
なんて溜め息をつきながら、俺は“転移”を使う。
「それじゃ、帰るぞ」
刹那、視界は白に染まっていく。
■
「うわぁぁぁぁ! スッゲェ! これ三雲さんの!?」
白夜は、転移するなり俺たちの城を見て興奮していた。
ちなみに転移先は城前、“魔剣天来ゾーン”の辺りだ。
「ああ、そうだぞ」
「マジかマジか! かっけぇ!」
「おにいちゃん興奮し過ぎです」
目が星になっている白夜に対して、月夜は呆れたように兄を見ていた。
「よし、みんなは魔帝八皇の四人を探して、レヴィーナの参入と、勇者と巫女の引き入れ成功の報告をしてきてくれ。ついでに、二人の特訓をする事も報告しといてくれ」
俺は、サタール・クサナギ・ルインに向かってそう言った。
「「「了解」」」
三人はそう言って、早速城内へ入っていく。
そして、残るレヴィーナだが……
「へぇ……へぇ!? やるじゃない貴方! まさか海王が支配する海の上にこんなすごい国をつくるなんて!」
と、白夜同様に興奮していた。
「おい、驚くのもいいが、サタール以外の魔帝八皇にも挨拶して来いよ?」
「あー、そうね。分かったわよ、行ってくればいいんでしょ?」
はぁーめんどくさいわ、なんて愚痴を零しながらレヴィーナは去っていった。
クソ……一発ぶん殴りてェ……!
「あの、それで私たちはどうすればいいんですか? 三雲おにいちゃん」
「あ、そうだ。二人とも、その“三雲”って呼ぶのやめてもらってもいいか? “ルミナス”、とか“魔王”って呼んでくれると助かる」
「あ、はい! 分かりましたルミナス……さま?」
「呼び捨てでもいいし、様付けでも、何でもいいぞ」
少し気になっていた事が言えて少しスッキリした。
“三雲 翔一”……この名前に恨みとかがある訳じゃないんだが……もう単純にその名前で呼ばれるのに慣れなくなっちまってな。
ルミナスの方が定着しちゃったんだ。
だから本当の名前で呼ばれると、少しむず痒くなる。
「俺は兄貴って呼んでいいっすか!?」
「じゃあ私はおにいちゃんで!」
……それはそれでむず痒いが……。
まあ本名よりかはマシか……?
「うっ……い、いいぞ。好きに呼んでくれ」
俺は渋々了承した。
兄貴……か。なんか新鮮で良いかも?
「それで兄貴! 俺たちはこれからどうすれば良いですか!?」
「そうだな、まずはお前たちのステータスが知りたい……んだが、分かるか?」
ステータス次第で、何を鍛えるか変わってくるからな。
魔法特化なのか、物理特化なのか。そこがまず一番重要だろう。
「えっと……ここがゲームの世界なら、確か……」
「―――“ステータスオープン”、ですよおにいちゃん」
「っと……そうか。“ステータスオープン”」
よし、良く分かっているようだな。
妹の方がしっかりしているから、助かった。
さて……どれどれ?
二人のステータスは……
「あれ……? 何にも書いてない」
「バグですか……?」
何も、書いてないだと……?
俺は、すぐに二人のステータス画面を覗き込んだ。
するとそこには、名前や職業以外の欄が空白になっていた。
能力値やスキル……それが何にも書いてないのだ。
「……いや、バグではないと思うが……」
う……ん。どうしようか。
「何か二人は、希望する戦闘スタイルとかあるか?」
「俺は……剣で戦いたいです!」
「じゃあ私は魔法がいいです!」
おっ、上手く分かれてくれたな。
白夜が剣で、月夜が魔法か……イメージ通りって感じだな。
「それじゃあ……ひとまずは俺が二人に基礎を教えよう……と、いうか、スキルを習得するまで鍛えようじゃないか」
剣も、魔法も一応出来るからな。
教えられるはずだ。
「ありがとうございます!」
「おにいちゃんありがとう!」
「気にするな、同じ日本人として当然のことさ」
それにしても、本当に良かったな。
コイツらが悪い大人たちに捕まらなくて。
こんな純粋な子たちなら、悪用されてもおかしくはないしな。
「よし、それじゃあ訓練場へ行こう。早速特訓だ」
「「はい!」」
二人は元気な返事をしてくれた。
俺は一つ頷くと、二人を連れて城内の訓練場へ向かって歩き始めるのだった。
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